ヒーメロス通信


詩のプライベートレーベル「以心社」・詩人小林稔の部屋にようこそ。

小林稔著作集一覧・ブログから注文できます。

2016年01月03日 | 日日随想

小林稔全著作集一覧

第1詩集 『燃える手袋及び葡萄の軌跡』 昭和47年5月27日発行 私家版 (在庫なし)

第2詩集 『オレンジを跨ぐ少年騎士』 昭和47年7月15日発行 私家版 定価800円 (在庫あり)

第3詩集 『白蛇』 平成10年11月1日発行 以心社(旧・天使舎) 定価2200円 
                         ISBN978-4-9906200-1-1C0092
(在庫あり)

第4詩集 『夏の氾濫』 1999年6月30日 以心社(旧・天使舎) 定価1800円
                         ISBN978-4-9906200-2-8C0092
(在庫あり)

第5詩集 『砂漠のカナリア』 2001年12月1日 以心社(旧・天使舎) 定価2000円 
                         ISBN978-4-9906200-3-5C0092
(在庫あり)

第6詩集 『蛇行するセーヌ』 2003年12月31日 以心社(旧・天使舎) 定価2800円 
                         ISBN978-4-9906200-4-2C0092
(在庫あり)

第7詩集 『砂の襞』 思潮社 2008年9月25日 定価2500円 (思潮社、または以心社からお求めになれます)
                         ISBN978-4-7837-3084-2C0092


第8詩集 『遠い岬』 以心社 2011年10月20日 定価2000円  ISBN978-4-9906200-0-4C0092 (在庫あり)

 

評論集『来るべき詩学のために(一)』以心社 2014年9月25日 定価2000円 ISBN978-4-9906200-6-6C0092

(在庫あり)

評論集『来るべき詩学のために(二)』以心社 2015年9月10日 定価3500円 ISBN978-4-9906200-7-3-C0092

 

上記の在庫のある詩集はすべて以心社で求められます。webサイトで紹介されていますが入手できませんと記入されています。現在、以心社にて直販いたします。メール、tensisha@alpha.ocn.ne.jp からお申し込みができます。送料無料でお引き受けします。また書店でもISBNの番号と詩集名を伝えご請求できます。


「昼下がり」 小林稔詩集『白蛇』より

2016年01月03日 | 小林稔第3詩集『白蛇』

小林稔第三詩集『白蛇』1998年十一月刊(旧天使舎)以心社

昼下がり
小林稔



  アスファルトの通りを 太陽の光が焼きつけていた。コー

ルタールがふき出して、くぼみに無数のひびが走り、タイヤ

のあとが そこだけ刻み込まれていた。

  人の行き来が ばったりとだえている。人は午睡をむさぼ

っているに違いない。

  私は縁側で遊んでいた。一升びんに、絵の具を水で溶かし

て入れた。ビニールの管を差し込んで ブロック塀にのせ、

吸い込んで すぐに口を離す。すると 下に置いたバケツの

中に赤い水が落ちてくるのだった。


 木戸のすきまから通りを見ていた。向かいの家の庇(ひさ

し)が通りを縁どりして、影の電信柱が横倒れになっている。

じっと見ていると 眠くなった。からから。からから。遠く

から聞き慣れない音がする。暑気のせいかもしれない。私は

夢うつつで聞いていた。少しずつ近づいてくる。

  きりきりと 木の軋(きし)む音も聞こえる。がらんがら

ん、という大きな音がして、かすんだ視界に 二本の黒い角

が現われた。それから平たい大きな牛の横づらがすきまから

覗いた。

  戸を開けた。牛は干し草を高く積んだ荷車を引いていた。

牛を操る 日に灼(や)けた男の横顔が見えた。村からの一

本道とはいえ、町なかで見るのは 初めてのことだ。木の車

輪がせわしなく回りながら、目の前を ゆっくりと通りすぎ

た。

 
干し草のてっぺんには 白い布地の帽子を被った子供がい

て 揺れていた。私と同じ年恰好の男の子だ。太陽の方へ顔

を突き出し 私に一瞥(いちべつ)を投げた。


 あっ、ころ、ころ、ころん。

  男の子は 地面に頭から転げ落ちた。私はとっさに 顔を

おおった。何が起こっているのだろう。

  子供の泣き叫ぶ声も 父の駆けつける足音も聞こえない。

両方の手のひらが 私の顔を押さえつけて 離さない。


 しばらくして見ると、だれもいない通りの真ん中で、干し

草が 太陽の光に輝いていた。

 

copyright2016以心社 無断転載禁じます


「異教の血」 小林稔詩集『砂の襞』(思潮社)より掲載

2016年01月03日 | 小林稔第7詩集『砂の襞』

異教の血

   小林 稔



一つの種がもう一つの種とかけ合わせ
新しい花を現出させるように
古くから継がれた文化が、他の地域の文化と混じりあい
喜ばしい収穫を迎えることがある。
仏陀の教えが、タクラマカン砂漠を越え
中国の神仙と合体して、敦煌の壁画に遺された。
だが、文化の次元を異にして悲劇を生み出すこともある。

カブールからまだ明けやらぬ早朝
バーミヤンに向かうバスに乗り込んだ。
着いたのは日が暮れてからであった。
電灯のないこの村では石油ランプが点っていた。
さっそく宿を確保して食事をした。
まもなく宿の主人からもてなしを受ける。
主人が太鼓を叩き歌うと、それにあわせ
二人の男の子が客の周りを跳びはね踊った。
夜も更け、絨緞敷きの床で一枚の毛布に包まり寝た。

朝早く目を覚まし宿の裏手に回ると
二体の石仏が山の背丈いっぱいに立ち、私たちを待ち受けていた。
顔面は無残にもイスラーム教徒によって破壊され
頭上に翼のある馬が一部分残されていた。
車で一、二時間行ったところに
雲一つない空を映したバンデアミールと呼ばれる美しい湖があるという。
トラックの荷台に乗り、砂ぼこりの立つ道を揺られ
たちまちにして白髪になって、まつげにも砂がつもる。
湖に着くと、少年が私を出迎え、彼の引き連れた白馬に跨る。
少年は走り出し、馬は土の盛り上がった湖の縁をぎりぎりに駆けめぐる。
彼はしきりにチップをせがんだので、恐ろしさのあまり小銭を渡すと
こぶしの利いた民謡を歌い出した。

翌日、カイバル峠を越えてアフガニスタンを抜けると
バスは小さな村に立ち寄った。
一人の日本人旅行者から思わぬ事件を聞いた。
エメラルドの青をたたえた湖に、銃口が狙いを定めていた。
やがて全裸で泳いでいたフランス人女性の血が、湖面を赤く染めたと。


copyright2016以心社無断転載禁じます。


「老婆の絶望」ボードレール詩集『パリの憂鬱』小林稔訳

2016年01月03日 | ボードレール研究

2 老婆の絶望

 

 

 しなびた小さな老婆は、みんながちやほやし、気に入られようとしているこの可愛らしい赤ん坊を見て、すっかりうれしくなった。小さな老婆と同じようになんて壊れやすく、彼女と同じように歯もなく髪もない、この可愛らしい生きもの。

 老婆は赤ん坊に笑いかけたり、楽しい顔つきを見せようとして近づいた。

 だが、赤ん坊はこわがって、よぼよぼのお婆ちゃんに撫ぜられて、もがき、金切り声で部屋じゅういっぱいにした。

 そのとき、おばあちゃんは永遠の孤独に引きこもって、片隅で泣き、自分に言い聞かせるのであった。「ああ! 私たち不幸な女にとって、無邪気なものたちにさえ気に入られる齢は過ぎてしまった。愛してやりたい小さな子どもたちを怖がらせてしまうのだ!」


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2016年01月03日 | 日日随想

小林稔全著作集一覧

第1詩集 『燃える手袋及び葡萄の軌跡』 昭和47年5月27日発行 私家版 (在庫なし)

第2詩集 『オレンジを跨ぐ少年騎士』 昭和47年7月15日発行 私家版 定価800円 (在庫あり)

第3詩集 『白蛇』 平成10年11月1日発行 以心社(旧・天使舎) 定価2200円 
                         ISBN978-4-9906200-1-1C0092
(在庫あり)

第4詩集 『夏の氾濫』 1999年6月30日 以心社(旧・天使舎) 定価1800円
                         ISBN978-4-9906200-2-8C0092
(在庫あり)

第5詩集 『砂漠のカナリア』 2001年12月1日 以心社(旧・天使舎) 定価2000円 
                         ISBN978-4-9906200-3-5C0092
(在庫あり)

第6詩集 『蛇行するセーヌ』 2003年12月31日 以心社(旧・天使舎) 定価2800円 
                         ISBN978-4-9906200-4-2C0092
(在庫あり)

第7詩集 『砂の襞』 思潮社 2008年9月25日 定価2500円 (思潮社、または以心社からお求めになれます)
                         ISBN978-4-7837-3084-2C0092


第8詩集 『遠い岬』 以心社 2011年10月20日 定価2000円  ISBN978-4-9906200-0-4C0092 (在庫あり)

 

評論集『来るべき詩学のために(一)』以心社 2014年9月25日 定価2000円 ISBN978-4-9906200-6-6C0092

(在庫あり)

評論集『来るべき詩学のために(二)』以心社 2015年9月10日 定価3500円 ISBN978-4-9906200-7-3-C0092

 

上記の在庫のある詩集はすべて以心社で求められます。webサイトで紹介されていますが入手できませんと記入されています。現在、以心社にて直販いたします。メール、tensisha@alpha.ocn.ne.jp からお申し込みができます。送料無料でお引き受けします。また書店でもISBNの番号と詩集名を伝えご請求できます。