ヒーメロス通信


詩のプライベートレーベル「以心社」・詩人小林稔の部屋にようこそ。

ワークショップ「ひいめろすの会」第三期開始

2015年05月22日 | お知らせ

ワークショップ「ひいめろすの会」第三期のお知らせ

~現代詩の源流を求めて~

萩原朔太郎 金子光晴 西脇順三郎 鮎川信夫の四人を中心に

各三回ずつ一年にわたって、小林稔が毎月ナビゲートします。

対象―ー原則としてヒーメロス会員。会員以外の場合は事前に連絡が必要。

参加費ーー1000円

萩原朔太郎研究第一回

五月十六日 午後二時から四時・神楽坂、上島珈琲店にて。

既に終了しました。

テーマ

1、詩人朔太郎誕生

  十六歳に初めての短歌を「上毛新聞」に投稿してから、十二年後の自筆歌集『ソライロノハナ』製作まで。

  以後、「愛僯詩篇」『浄罪詩篇』の詩作に入る。

2、『月に吠える』前半の「イマジスチックのヴィジョン」について。

  山村暮鳥『聖三陵玻璃』、ランボーの錯乱の詩法との比較。

3、ヨーロッパ詩からみた日本近代詩の航跡。

    ボードレールと朔太郎の比較。

4、現代詩的とは何か。

 

次回

萩原朔太郎研究第二回

6月第三日曜

近日中に場所、テーマをお知らせします。

 

詩誌「ヒーメロス」30号の原稿締め切り 6月末。7月上旬に発行予定。


詩誌『ヒーメロス』29号 小林稔作品「タペストリー7」

2015年05月14日 | 「ヒーメロス」最新号の詩作品

タペストリー 7

 小林 稔

      

   一 

荒涼とした道に足跡を刻んでいく。行く先々で道は分岐し、世界の様相を示す

ような無数の罅割れが走る道を、青年のきみは絶えず移動する。そのようなき

みと状況を同じくする私は、その日すでに宿舎に着いていた。ガラス戸を押し

てかろうじて身を滑らせ、食堂の椅子に座り込んで、うなだれた顔を両手でお

おいテーブルに頭を押し付けて動かなくなった。きみを視線で追っていた私は、

生まれた土地を離れ、見知らぬ土地土地を彷徨いつづける幸運とも不運とも言

いえる宿命を背の荷物につめ、旅の日常を日々うしろに送り返すことで人生の

未明にいる私を思い描いていた。宿泊地での若者との別れを繰り返す度に、私

は未知なる他者との出逢いを求めていることが分かり始めていた。とつぜん顔

を起こしたきみの視線が私を捉えた。眼前の見知らぬ同国人の視線に戸惑いを

感じてきみは視線を散らし、なんとなく私に微笑んでみせた。

 

オクシデントを旅する私たちが、夏の終わりにアジアの国々を東へ抜け、日本

に辿ろうとすることは暗黙に了解された。互いに秘める知られざるものに魅惑

されながら知られざる土地を共に旅することができたらどんなに素晴らしいこ

とだろう。私たちは何に駆り立てられ、何を探りあてるため、異国から異国を

渡り歩くことになったのか。異国に自己を投擲し、これまで生きてきた互いの

時間のなかに同国人の覚めやらぬ意識を呼び起こすため、他者になり果てた私

の意識の深遠にまで触れて答えを見出せるに違いないと信じられて。

 

 

   二

旅は終わったのか。否、生きるとは一歩先の未知なる時間に向けた旅なのだ。

私と他者とのこころの結合と解(ほぐ)れは終わることがない。個の宿命を授けられた

果てることのない孤独な存在者の夢は、言葉によって紡いでいくしかない。音

楽家の魂が譜面に残され、その楽曲を他者が奏で夢を蘇生させるように、言葉

によって詩人の魂は来るべき魂に継がれ生き永らえていくだろう。

 

 


以心社刊行のお知らせ。小林稔評論集『来るべき詩学のために(ニ)』

2015年05月04日 | お知らせ

以心社からの刊行のお知らせ

2014年、小林稔評論集『来るべき詩学のために(一)井筒俊彦研究「意識と本質」を読む。付デリダ論序説』を発行しました。その二弾として『来るべき詩学のために(ニ)「意識の形而上学を読む。』を予告していましたが、それを来年(三)として刊行し、その前に今年度は『来るべき詩学のために(ニ)ポエジーの泡立つところについて。』を刊行します。その後は「自己への配慮と詩人像」と続いていきます。

評論集『来るべき詩学のために(ニ)ポエジーの泡立つところについて。』 

目次

   はじめに 

Ⅰ 書評

一 プラトン哲学の将来―三・一一以後の世界に向けて

      藤沢令夫『ギリシア哲学と現代』(岩波新書)

二 ディオニュソスの系譜

      酒井健『バタイユ』(青土社)

三 情念のエクリチュール

      小説『ショパン 炎のバラード』

       ロベルト・コトロネーオ 河島英昭訳(集英社)

Ⅱ エセー アンテロースの恋 付・ミケランジェロの詩/自註

Ⅲ 詩集評――ポエジーの泡立つところについて。

  『朝倉宏哉 詩選集一四〇編』(コールサック社)

   詩集『白蛇』(天使舎)自註への試み。

Ⅳ ワークショップ「ひいめろすの会」報告

      ヒーメロス通信・前編/後編

      萩原朔太郎   /金子光晴   /西脇順三郎   /鮎川信夫

Ⅴ 同人誌評 

 斎藤征義「三陸鉄道北リアス線」・橋本征子「柘榴」/二宮清隆「王冠」・中尾敏康「義眼」

 大羽 節「コンテナ」/柳生じゅん子「城内一丁目」/三井喬子「血の音が」

 朝倉宏哉「シューズ」・清水正吾「怒り」/北条裕子「無告」/佐々木英明「若いおんなと老人」

 鈴木東海子「朗読の人」/山口健一「十一月の飛べない鳥たち」/米川征「板金工場」

 柏木勇一「叫ぶ母」/木野良介「肉、それも食肉について」/日笠芙美子「水の  家」

 高橋次夫「灌仏会の日に」/武田弘子「無人駅」/柏木勇一「八月」/北条裕子「半双の夏」

 野木京子「紙の扉」・瀬崎祐「洗骨」/上野菊江「聖なる丘」・大塚欽一「彼らはいつも」

 平野充「祈祷書」(鳥)・朝倉宏哉「鬼首行き」

Ⅵ 雑記

   高橋睦郎『詩歌の国の住人として』を読んで。  /誤読の活用  

 ランボーのこと  /ジャズと詩作  /詩誌『kototoi』を読んで。  

 生成する音楽、ビートルズ  /柄谷行人『トランスクリティーク』を読みながら考えたこと。  

 柄谷行人『哲学の起源』を読んで。  /現代詩のデフレスパイラル  /息子を亡くした父親の悲しみ。

 砂漠から来た男  /編集後記から  /詩の相互批評について。  /  

 若き闘士、羽生結弦よ。  /想像力と勇気  /『来るべき詩学のために』(一)についての自註

後記


旅程・小林稔 詩誌「へにあすま」48号掲載

2015年05月02日 | 詩誌『へにあすま』に載せた作品

旅程

                小林 稔

 

 

 

額から一つの道がひろがる

その先はいちめん霧が降りて鎖(とざ)し

歩行を記憶した道の標(しるべ)は色褪せ

いまとなれば砂礫が転がるばかりだ

 

数珠のように次々に送信される

〈時〉の痕跡を追い求め

空があり海があり人があり木があり……

わたしはそれら一つひとつを言葉に換えていく

やがてシンフォニーを形づくる音の旋回

だが、見知らぬものに鼓動の高鳴りを覚えたかつての

旅から旅へ航るわたしを招き寄せ足を掬(すく)ったラビリンス

若い日の追憶を老いていく生の傾斜に重ねてしまうのだ

 

道よ、わたしはこれから何をしようとするのか

砂上に紅い花を愚かにも咲かせようというのか

稲妻の閃光が脳裏に滑り込み

溢れ出る言葉を性急に走り書きするが

一陣の風に鳥の群れが舞い上がり弧を描き散るように

紙片にひかりが射して言葉が瞬時に消え

記憶の断片が無惨にも失われていく

言葉(ロゴス)を呼び寄せるわたしの生とその代価を日々秤にかけ

不穏なグローバル世界の行方を杞憂しながら

神を創った人間の〈こころ〉の深淵を覗いている

 

歳月よ、わたしを連れ出し

死の淵へと向かわせようとするのか

丹念に横糸を〈時〉の流れにくぐらせ

わたしという一つの生を織るために

あの霧の降りた道をひとり歩き始めよう