根無し草のつれづれ

日々の雑感をひたすら書き綴ったエッセイ・コラム。また引用部分を除き、無断掲載の一切を禁ず。

中野考次『麦熟るる日に』

2010-01-18 22:46:07 | エッセイ、コラム
1992年『清貧の思想』がベストセラーになった中野考次さんの自伝的な小説。

欧州できな臭い匂いがし始める昭和初期、大工の家に生まれた事から成績が良かったにも関わらず、旧制中学への進学が叶(かな)わず、今でいう「大検(高校卒業程度認定試験に改称か…)」に当たるものを受験し、苦学しながら、「学問」への道を模索(もさく)していく著者を投影した作品。

私の手元にあるのは文庫本で浪人生の時に買い求めたものではないかと思われます。
単行本は1978年に発行。
現代小説や海外に舞台をとった小説も好きな一方で、こういう昭和の戦中や戦後の若者を描いた小説を読むのもまた好きなのが当時の私だったようです。
この作品はこのあと『苦い夏』、『季節の終わり』と続いていきます。

なにゆえ、今この小説を紹介するかというと、高卒が常識となり授業料も無料化が叫ばれ、少子化で経済的な事情さえクリア出来れば割と簡単に大学進学も出来てしまうのが現代で、一部の人を除き苦学とは無縁なのが今の時代だからです。
半世紀くらい前には、進学したくても進学出来なく、「学問」への渇望(かつぼう)から、家族を犠牲(ぎせい)にし、時に敵に回しながらも、自分の思う道を進まざるを得なく、または諦(あきら)めなければならなかった若者が多数いたであろう事を理解して欲しいからです。
「学問」は与えられるものではなく、自分で掴(つか)み取らなければなかった時代があった事をも…。

ひょっとしたら「学問」を自分の「夢」に置き換えれば分かりやすいかもしれません。

この小説には「亡き父と母に」という文言がしたためられています。

著者の両親への懺悔(ざんげ)的な気持ちが込められた作品とも言えるでしょう。

読後にこの文言を改めて目にすると著者の両親への複雑な想いがより分かると思いますよ。


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『Life is Ekiden』


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