根無し草のつれづれ

日々の雑感をひたすら書き綴ったエッセイ・コラム。また引用部分を除き、無断掲載の一切を禁ず。

未練顔

2007-03-26 18:18:30 | エッセイ、コラム
セブン・イレブンで昨日まで行われていた“おにぎり百円
セール”で「鮭とイクラのおにぎり」を買った。
買ったおにぎりを歩きながらパクついていると、小型犬の
ジャックラッセルテリアを散歩させている人に追い越され
る。
私が食べているおにぎりからいい匂いが出ていたのか、
その犬は私のおにぎりをなめるように見つめながら追い
越していった。
買い物帰りであった私の左手にはスーパーの袋がぶら
下がっており、歩くとガサガサと音を立てていたのだが、
追い越していった犬はその音に反応して、音がする度に
私の方を振り返り、いちいち飼い主からリードを軽く引っ
張られ注意されていた。
注意されてしぶしぶ歩き出すときの物欲しそうな未練顔
が堪らなく可愛く可笑しかった。
彼の心には妄想上のおにぎりがたぶん百個くらいあって、
そのことで頭は一杯だったのだろう。
私を追い越してしばらく経ち、距離が出来ると、さすがに
振り返ることはしなくなったが、彼の背中には心無しか
哀愁のようなものが漂っていた。

白いハンカチ

2007-03-22 17:22:49 | エッセイ、コラム
数日前の風の強い日のこと。
歩道を歩いていると、風で倒れている自転車があった。
倒れたひょうしに車体の一部が車道側にはみ出していて、
路側帯に寄ってきた自動車には少し危ない状態になって
いた。
車道側にはみ出しているといってもほんのちょっとのこと
で、直ちにそれが事故に繋がるような状態でもなく、まし
てや風で倒れた自転車など別に珍しくもないので、さして
気にも留めずに通り過ぎようとしたその刹那、私の前を歩
いていた小学校3、4年くらいの男の子がそれをみつけ自
分の母親に向かって

「ねぇ、こういうの立ててあげた方がいいんでしょ?」

と言うが早いか一緒にいた彼の弟を促し、その倒れた自
転車を起こしていた。
子供の純粋で無邪気な善行に心が洗われる思いがした。

親のしつけがしっかりしているのか、彼の小学校の担任
が常に道徳を説く先生なのか、はたまた敬虔なカトリック
教徒の家庭で日曜には教会に通い神父の話しに熱心に
耳を傾けている子なのか、私には知る由もないが、随分
よい子に育っている男の子のようだった。

バカ親に育てられ、基本的なしつけが出来ていない子供
の様子をテレビでみる機会が増えた昨今であるが、ちゃ
んとしている子供もいるにはいるのだ。
今後、彼が成長して思春期に入り、悪い友達に染まった
り、悪友でなくても友人の手前気恥ずかしさから大っぴら
に善行が出来なくなる日がくるだろうが、そんななかでも
心のコアな部分では、見ず知らずの他人の倒れた自転
車を当たり前のこととして起こしたような、見返りを期待し
ない善の精神を失わないで欲しいなぁっと思った。

ドラマ 『砂時計』

2007-03-18 12:34:36 | エッセイ、コラム
TBSで平日の13時から『砂時計』というドラマが始ま
った。
いわゆる昼ドラの枠である。
舞台版『世界の中心で愛をさけぶ』やドラマ版『タイヨ
ウのうた』に出演していた女優の佐藤めぐみが主演を
つとめるということで気になりチェックしたのだが、観て
みると、これが結構な出来なのだ。

主題歌に柴咲コウをもってきたり、チーフ・プロデュー
サーが今までヒット・ドラマを連発してきた貴島誠一郎
であったり、主人公の子供時代を演じるのが美山加
恋であったりと昼ドラとしては異例の布陣で、作りも金
曜10時や日曜9時の枠で放送されるドラマとさほど変
わらない。
主演の佐藤めぐみにしてもこれからが期待される女優
だ。

昼ドラといえば劇的な展開と大仰な台詞まわし、さら
にはドロドロとした人間関係というのが定番であるが、
一週目を観る限りこの作品の演出や台詞はしごく自
然でプライムタイムに放送される一般のドラマと比べ
て遜色がないものだった。
制作会社は違うものの、この叙情的なテイストはドラ
マの『世界の中心で愛をさけぶ』や『白夜行』に近い
ものがある。

物語は母の離婚によって島根の田舎町に引っ越して
きた女の子を主人公に、彼女の12歳から26歳までを
描いたもの。
主人公をやさしく包み込む寒々しくもどこか暖かい山
陰地方の風景も、映像として非常に美しく切り取られ、
物語に彩りを沿えている。
人が子供から大人になり成長してゆく過程で価値観
や考え方が変わってゆくのは当たり前のことであるが、
そういうなかにも変わらないものはあるのだろうか?
幼き日の穢れなき想いをずっと持ち続けることは可能
なのだろうか? そんなことを考えさせてくれるドラマの
ように思えた。
想い出や時間の儚(はかな)さを象徴するような「砂時
計」というタイトルも言い得て妙だ。

ひとつ残念なのは昼ドラだけに視聴者が限定されてし
まうことだ。
昼ドラの枠に埋もれさせておくのはもったいない出来な
だけに、深夜枠で再放送するなりして多くの人の目に
触れさせる機会を与えるようにした方が良いように思え
る。
TBSは以前にもこの「愛の劇場」の枠で磯山晶をプロ
デューサーに、そして宮藤官九郎を脚本に迎えた『我
輩は主婦である』を放送していたが、都市を再開発す
るようにこの枠の認識を変える昼ドラの新しい潮流を作
ろうとしているのだろうか…。

はるび

2007-03-04 16:41:59 | エッセイ、コラム
暫く前から朝にウグイスの啼き声で目覚めるようになった。
彼らも上手く啼くには練習が必要なようで、初めはどこか
不自然な感じで啼いていたのが日に日に上達して、この
ところは上手に啼いているのが聞き取れる。

沈丁花の匂いが香っていると思ったら木蓮の花が咲き出
した。
梅は今日の暖かさで既に花吹雪を散らしていた。
暖冬であったので季節が早く進むという感じではあまりな
いのだが、感覚としては2週間くらい季節が早いか。

近所の駐輪場に駐車してあるスクーターのシートの上で、
陽に当たり気持ちよさそうに寝ているノラ猫を見つける。
起こさないようにそーっと近づき、猫の背中をチョンチョンと
突付いてみる。
暖かさでかなり深い眠りについていたのか、背中の皮膚
をピクピク動かすだけで目覚めない。
もう一度突付いてみると、さすがに今度は変だと思ったの
か、ハッと寝覚め、見知らぬ人間がそこにいるのを認める
と飛び起きて安全圏まで走って逃げて行った。
毛を逆立て眼を真ん丸にして驚き私の様子を窺っている彼
の姿を見て、思わず声を上げて笑ってしまう。
警戒心の高いノラ猫でさえ我を忘れ寝入ってしまう春の日
である。
春にはこういう楽しみもある(笑)。

『ドキュメント72時間』

2007-03-01 13:49:34 | エッセイ、コラム
NHK総合で火曜日の11時から放送されている『ドキュ
メント72時間』が一旦3月で終了してしまうそうである。
同じ場所、同じ人物達に3日間つまり72時間密着し、
そこで起こったことを放送するというドキュメンタリー番
組である。
ミニマムな事象に肉薄することでみえてくる現代ニッポ
ンという感じで、派手さはないもののNHKらしい価値感
や良心をみるような良い番組だったので非常に残念だ。

視聴者の反響が大きかったということで先日再放送され
ていた「東京・山谷 バックッパッカーたちのTOKYO」の
回は秀逸で、外国人バックパッカーの目を借りてみえて
くるポップカルチャーに満ちた魅力的なトウキョウの風景
は非常に新鮮であった。
また自分探しをするために日本に来ている外国人バック
パッカー達の姿は“洋の東西を問わず若者の悩みは変
わらないもんだなぁ”と思わせるものでもあった。
例えるなら小林紀晴の名著『アジアン・ジャパニーズ』の
アナザー・バージョンといった所か。
「♪大人になってゆくほど涙がよく出てしまうのは
 1人で生きて行けるからだと信じて止まない」
というフレーズで始まる、山崎ナオによるエンディング曲
『川べりの家』も番組の主旨によくマッチしていて素晴ら
しい。
素材の選び方や編集の仕方で回によって出来・不出来
の差があったようにも思えるが、こういう番組は民放では
なかなかみれないものではなかったろうか…。

どういう経緯でこの番組が終了または休止になってしま
うのかは分からないのだが、もしそれが視聴率が悪いか
らというような理由であったらこれは大きな間違いだと思
う。
そういうことから乖離した所で良質な番組を作っていくこ
とがNHKの役割だからだ。
若者に媚を売った刺激的で欲望に満ちた番組は民放に
任せておけばいいのである。
紅白歌合戦を存続させるよりは、ドキュメント72時間の
ような地味だけど心に何か残る番組を作り続けることが
NHKの真の勤めであり大事なことのような気がする。