根無し草のつれづれ

日々の雑感をひたすら書き綴ったエッセイ・コラム。また引用部分を除き、無断掲載の一切を禁ず。

音楽評 安藤裕子『さみしがり屋の言葉達』

2005-10-09 15:23:33 | 音楽評
auのケータイのCMでこの曲をきいた時、最初
はユーミンの昔の曲かと勘違いした。
それほど歌唱法や楽曲のアレンジを80年代の
日本のポップスに似せているのだ。
本人達の狙いもそこにあったようで、この曲は安
藤裕子のユーミンに対するオマージュ、との事。


安藤裕子の存在を知ったのは2004年の冬の事。
ラジオやケーブルTVで『ドラマチックレコード』が
ヘビー・ローテーションされていて何時の間にか
そのメロディーが耳に残ってしまったのだ。

♪やる気をなくしたスーパースター
 待ち焦がれてる声が聞こえないの?

『ドラマチックレコード』はこんなフレーズから始ま
る。
『“やる気をなくしたスーパースター”って俺?』
彼女はそんな思いを聴く人に抱かせ、ここで心を
ぐっと摑んでしまうのだ。
ノスタルジックなメロディに乗せ彼女はサビでは
こうも歌う、

♪君はいつも僕に夢をくれる
 スーパースターさ
 素敵な声唄で僕に響かせて
 抱きしめて、抱きしめていてよ

ほの暖かい雰囲気の曲でまるで付き合っている
女の子に励まされてる様な錯覚を覚え一人涙し
た私だった。


その『ドラマチックレコード』と同じ宮川弾・作曲、
同じ山本隆二・アレンジによる作品(詞は安藤裕
子本人)が今回の『さみしがり屋の言葉達』である。
テーマは雨と孤独といった所だろうか。
雨によって想起される心象風景を彼女はこう表現
する。

♪雨の街が私は嫌い
 いつも張りつめたままで
 閉じこめてきた迷子の心を
 くすぐるような仕草をするから

前述の『ドラマチックレコード』では矛盾点も散見さ
れた彼女の詞であるが、今回は腕を上げてきた。
都会の孤独感を“迷子の心”と表現し、普段忘れて
いるそんな感情を“雨の街”が“くすぐる”と言い表す
のだ。
さらにそんな詞の世界観に80年代風の郷愁感漂
うアレンジがうまくマッチしている。
特にあの時代独特のこもったようなドラムの音が
巧く再現されている点が素晴らしい。
今回はホーンセクションでスカパラのメンバーが起
用されメロウな調べでこの曲のテーマに彩りを添え
ている。
思えば贅沢なミュージシャンの使い方だ。
因みにドラムを叩いているのはカーネーションの矢
部浩志。
ラストのフェイド・アウトの仕方も旧き良きJ-popの
それを踏襲している。

昨今の日本のヒット曲の傾向からこの曲が大当た
りする事はないだろう。
が、『さみしがり屋の言葉達』は2005年秋のJ-pop
の秀作と言っても過言ではない気もするのだ。
特に最近の様な雨の季節にはしっくりくる。