平成太平記

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韓国のTHAAD配備に中国の報復が始まった 朴大統領は夜も眠れぬ日々

2016年08月20日 16時07分34秒 | Weblog

【桜井紀雄が見る劇場型半島】

韓国のTHAAD配備に中国の報復が始まった 朴大統領は夜も眠れぬ日々

2016.08.15

米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備が決まって以降、中韓関係がこじれにこじれている。

習近平政権の思惑を代弁する中国メディアは連日非難キャンペーンを展開。

韓流スターの中国でのイベント中止やビザ発給への影響も伝えられ、韓国メディアは中国による「報復だ」と戦々恐々としている。

朴槿恵(パク・クネ)政権は“中韓蜜月”といううたかたの夢から覚め、中国の本性を思い知らされたようだが、一部野党議員らが北京もうでを強行するなど、THAADをめぐる国内での政争が収まる気配はない。

■韓流より愛国…右にならえ見せつけ

「韓国に対する制裁は事実上、既に始まっている。これはシグナルにすぎない」

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は9日、論評でこう警告した。

「THAADが配備されれば、両国関係が冷え切り、貿易も大きな損失を受けるだろう」

シグナルとは、韓流ビジネスをめぐる中国での最近の動きを指しているとみられる。

「不可抗力の理由で、6日に予定されていたファン・ミーティングを延期します」。

北京で行われるはずだった韓流ドラマ出演者とファンの交流イベントについて、中国の主催者側のサイトに唐突にこう告知されたのは今月3日のことだ。

韓流女性グループの中国公演なども突然キャンセルされ、中韓合作ドラマで韓国人女優の出演部分をカットするとの噂も持ち上がった。

このほか、中国が、韓国人の商用ビザ取得を代行してきた中国業者の資格を停止し、事実上、発給を厳格化したとも伝えられる。

インターネット上には、韓流スターやドラマ名を挙げた「禁韓令」と称する「報復対象リスト」も出回っている。

その後、単なるデマだと確認されたものもあるが、中国の制作会社幹部は、韓国紙に「THAAD配備の発表後、当局幹部から『韓国との文化コンテンツ協力事業は自制した方がよい』との電話を受けた」と証言したという。

直接的な指示がなくとも、中国企業側が当局の意向を忖度(そんたく)し、自主規制に走っている可能性は高い。

環球時報は「中国は韓国の芸能コンテンツの最大の海外市場だ」とした上で、「もし韓国がTHAAD配備に固執するなら中韓関係は緊張し、韓流が打撃を受けるのは必然だ」と主張。

「韓流スターが犠牲になるのは中国のせいではない」と伝えていた。

現に、一連の報道を受けて韓国の大手芸能事務所やドラマ制作会社といった韓流ビジネスに関連した株価が下落するといった実害が生じている。

中国版ツイッター「新浪微博(ウェイボ)」の世論調査では、86%が、中国政府が韓国人芸能人の出演を禁じる場合「支持する」と回答した。

「娯楽より愛国心だ」との書き込みも目立った。

韓流ブームにどっぷり漬かっているようでも、「愛国」を持ち出されると、即座に“右にならえ”となる中国ネット世論の怖さを見せつけた。

■朴大統領を名指し非難「韓国が最初の攻撃目標になる」

環球時報は、もともと過激な論調で知られるが、同紙ばかりではなく、

党の大本の機関紙、人民日報までもが7月末から連日にわたって韓国批判を繰り広げるというこれまで見られなかった事態に至った。

3日の社説では、「小利でもって大利を失い、自国を最悪の状況に陥ることを避けなければならない」と朴槿恵大統領を名指しで非難。

米国と中露が衝突すれば、「韓国が最初の攻撃目標になるだろう」と警告した。

これには、コメントを控えてきた韓国大統領府も黙って見過ごすわけにはいかなかった。

韓国大統領府の広報首席秘書官が日曜日の7日に異例の記者ブリーフィングを行い、

「中国は、韓国の純粋に防衛的な措置を問題にする前に(核・ミサイル開発を続ける)北朝鮮により強く問題を提起しなければならない」と中国の姿勢を批判した。

中国の国営メディアが、最近の北朝鮮の弾道ミサイル発射はTHAADの韓国配備決定が原因だと主張していることに対しても「本末転倒だ」と反論した。

翌8日には、朴大統領自身が「政治的に政府に反対するにしても、

国の安全保障に関連した問題は内部分裂を深刻化させず、党派を超え、

協力することが政治の基本的な責務だ」とTHAAD問題をめぐる確執について強い調子で語った。

9日には、「代案なく批判し、国民に反目をもたらすことは、国と国民を危機に追い込むようなものだ」とも断じた。

最大野党、共に民主党の中でTHAAD配備に反対する議員6人が、中国の専門家らと意見交換するとして、政府の自粛要請を振り切って北京行きを強行したことが念頭にある。

6議員の訪中について、環球時報は1面トップで報じた。

THAAD配備反対論をあおりたい中国にとっては、まさに、飛んで火に入る夏の虫、鴨がネギを背負ってやってくるようなものだ。

訪中しては、自国政府の批判や、中国の意図に沿うような発言を繰り返すどこぞの国の元首相をほうふつさせる。

結局、6人は、中国の専門家から「(THAAD配備で)北東アジアが新冷戦体制に向かう恐れがある」と脅され、「韓中関係が考えていたよりも深刻だと感じた」という議員外交とは名ばかりの結果に終わった。

■周辺国に君臨する「恐ろしい隣人」だと気づいたとき

6議員の訪中をめぐっては、与党、セヌリ党の報道官が「議員外交を装った新たな中国事大主義だ」と批判したのに対して、

共に民主党の報道官は、「国会議員の正常な外交活動に大統領が口を出して対立をあおるべきなのか」と反論していた。

メディアの中でも、保守系紙の東亜日報は、社説で「『事大外交』で『売国行為』という批判は避けられない」と指摘し、

親中傾向の強い左派系紙、ハンギョレは、THAAD反対派を批判した朴大統領について、逆に「THAADを口実に、本格的な『世論の分裂』に乗り出している」と論じている。

反対派は、米ホワイトハウスの請願サイトへTHAAD配備撤回を求める署名をするようにも呼びかけ、10日には署名者が10万人を超えたという。

1カ月以内に10万人以上の署名が集まれば、米政府が公式回答を示す必要がある。

イデオロギー色の強い問題を米国にまで持ち出すやり口は慰安婦問題でも見られたことだ。

ただ、THAAD問題では一つの党内でも一枚岩ではない。

共に民主党非常対策委員会の金鍾仁(キム・ジョンイン)代表は、そもそも6議員の訪中に否定的で、「反対するなら、代案を出さなければいけない」と反対一辺倒でもない。

 一方の与党側も、THAADが配備される周辺地域選出の議員は反対に回っている。

「THAADが出す電磁波で健康を害する」というデマがまことしやかに流布され、住民の間で、反対デモが盛んに行われている。

まさにTHAAD配備をめぐって国論が二分している状況が、中国に付け入られる隙を生んでいるといえる。

中国国営の新華社通信が「THAAD配備は米国の利益に基づくものだ。

韓国政府は、米国の戦略のわなにはまった」と主張する丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一相のインタビューを配信するなど、中国は、韓国国内の反対派の元政府高官や専門家を盛んにメディアに登場させている。

歴史問題などで「日中友好人士」として、親中派の日本人をもてはやしてきたのと全く同じ戦術だ。

聯合ニュースによると、朴大統領は、世論の分断を憂い、「寝ていても、ふと目が覚め、眠れなくなる」とも漏らしているという。

 しかし、保守系紙の論調も、元はといえば、対中傾斜を強めた朴外交の失敗のせいだと大統領に対しても手厳しい。

中央日報は、日曜日版の社説で「朴槿恵・習近平政権初期の『蜜月』で互いに状況を見誤ったことに原因がある」と論じた。

特に昨年9月の中国の抗日戦勝70年式典では、朴大統領が習近平国家主席と天安門の楼閣に並んで、中韓蜜月のクライマックスを演じたが、

韓国経済新聞の主筆はコラムで、日本と敵対し、「大統領を天安門に引き渡したバカはいったい誰なのか」とくさした。

保守の論客として知られる朝鮮日報の金大中(デジュン)顧問は、コラムで「われわれは中国がいかに恐ろしい国であるかをいま、やっと思い出した」と指摘した。

7月にラオスで、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相と会談し、THAAD反対を突き付けた中国の王毅外相の態度について

「500年以上前に朝鮮の王が中国の使者にひざまずいたときの、彼らの嘲笑の表情を想像した」と評した。

「中国は自国の利害が関わる問題では、いつでも帝国として周辺国に君臨する『恐ろしい隣人』であることを改めて示したのだ」

韓国の保守論壇や朴政権は、中韓蜜月といううたかたの夢から覚め、中国になびく結果がもたらす悪夢の歴史を思い出したようだ。

だが、ひるがえって韓国国内は、THAADや慰安婦問題でイデオロギー闘争に明け暮れている。

政争から抜け出せず、国を失った朝鮮時代末期の政治状況と重ね合わせ、危惧する声もある。

こうした混迷から一歩踏み出すためには、中国の世論攻勢にときには翻弄されながらも、乗り越えてきた隣国、日本の先例からヒントを得ようという発想には至らないものだろうか。(外信部記者)