占領されたガザでラップは新しい声を見つける/ナブルス通信

2005-10-29 01:05:36 | 世界
生まれ故郷のニューヨークのブロンクスを遠く離れたガザで、ラップは占領下の生活のフラストレーションを歌うパレスチナ人の若者たちの手によって、新しい息を吹き込まれた。

 ○○○ナブルス通信 2005.10.28号○○○       
       ─言葉のつぶてを投げて、抵抗する─
        http://www.onweb.to/palestine/
          Information on Palestine
────────────────────────────────
◇contents◇ 

◇占領されたガザでラップは新しい声を見つける

◇ガザにラップが来た日

◇Information

────────────────────────────────
>◇占領されたガザでラップは新しい声を見つける


「占領されたガザでラップは新しい声を見つける」
ライラ・エルハダッド
2005年3月15日

Rap finds new voice in occupied Gaza
Laila El-Haddad in Gaza

生まれ故郷のニューヨークのブロンクスを遠く離れたガザで、ラップは
占領下の生活のフラストレーションを歌うパレスチナ人の若者たちの手
によって、新しい息を吹き込まれた。

ガザの中心地区にある小さな防音されたレコーディング・ルームに入る
と、私は予期しなかったものに迎えられた。

それは音楽だった。

しかし、最近増加中のアラブ音楽衛星放送局でしょっちゅうかかるよう
な、腰を振る類いの音楽ではない。それはラップで、それは強力で、し
かもアラビア語なのだ。

録音器材に向かうのは22歳のナディール・アブ・アヤシュ、彼はガザ
初のヒップホップのグループ、PR(パレスチニアン・ラッパーズ)の
メンバーだ。特徴のあるバックグラウンドサウンドを入れるのが彼の役
割だ。しかも、特殊効果なしで。

「ラップは占領に対するオレたちの対抗策であり、武器だ」
バックのスピーカーから大音量で流れる砂利ついた声、激しい歌詞には
似つかわしくない、おどおどした調子で彼はそう説明する。

「憶えているか、それとも忘れるつもりか
てめーらの軍隊が、オレたちを蹂躙したことを。
オレの声は響き続けるぞ、てめーらに忘れられるものか
てめーら、オレをテロリストと呼ぶが
抑圧されてるのはオレのほうだぜ」
ナディールは最新の歌のひとつをラップする。

《別な道》

バンドは2年前からラップをやっているが、ヒップホップがイスラエル
の占領に対するフラストレーション、抵抗を示すもうひとつな道だと信
じている。

ナディール・アブ・アヤシュ、ムタズ・アル-フウェイシ(メゾ)、ム
ハンマド・アル-ファラ(ドクター)、およびマフムード・ファヤッド
(ボンド)の若いラッパーたちは、自分達の作品に感情のすべてをを注
ぎこむ。そして、彼らのインスピレーションは探さなくても手近にあ
る。

《ヒップホップは占領に対抗するひとつの形》

アブ・アヤシュはマガジ難民キャンプ暮しで、まわりはイスラエル占領
を思い起こさせるものばかりだ。壊された家、孤児家庭、追い立てられ
てから57年間、ずっと続く貧困。

バンド・メンバーのムハンマド・アル-ファラはガザで最も不安定な地
域、ハーンユニス難民キャンプから5kmほどの場所に暮らしている。3
年前[訳注・別な記事では2001年に、とある]、アル-ファラは近
くのイスラエル入植地のひとつに駐留するイスラエル軍狙撃兵に腕を撃
たれた。

「こんな状況、出来事と暮らしてるから、歌の題材には事欠かないよ。
歌はおれたちのなかから湧き出てくるんだ。いつだって目にすることに
かきたてられ、それが歌になるんだ」と、アル-ファラは言う。

数カ月前、グループはフランスでコンサートに出演するはずだったが、
16から35歳の間の若者の出国を禁止するイスラエルの方針のため、ガ
ザを出ることができなかった。

《まるで囚人》

アル-ファラにとって、それは衝撃的だった。「それはショックだった
ね。怒り心頭。それで、オレはまた歌を書き出したんだ」と言う。その
結果、まだ未完成だが、パレスチナ人が耐えることを強いられる試練と
苦難に関する歌が生まれた。

「オレはパレスチナ人だ
まるで囚人のように、オレ自身の土地で見放され、
パレスチナ、お前のために、
オレたちの叫びはかき消され、
オレたちの言葉は否定され、
オレたちの動きは麻痺させられた」

もちろん、ガザで活動するのは、社会的にも政治的にも障害がつきまと
う。もっとも基本的な障害は、録音するために集まることだ。

ハーンユニスから毎日通ってくること、それ自体が大変なことで、アル
-ファラは南からガザ北部を引き裂くアブホーリー検問所を通らなけれ
ばならず、順調な日でも1時間以上かかってしまう。

グループがヨルダン川西岸地区のバンドと共同作業をやろうとすれば、
問題は無限にこじれてしまう。イスラエルがガザと西岸地区の間の通行
を禁止しているため、それはやろうとしても、ほとんど実現は不可能な
のだ。

しかし、グループは物理的な境界のために、自分たちのやりたいことを
放棄するつもりはない。グループはインターネットだけを使って、イス
ラエルのジルザル(Zilzal)というグループのパレスチナ人ラッパーと
共同作業で歌を録音することを考えている。

《混乱した反応》

想像はつくが、バンドは最初から多くの批評に直面した。

「ここいらの人がこういうの聞くのって、初めてだったんだ。オレたち
のこと、わからないって。早口すぎる、とか、格好がひどいとか、音楽
スタイルが『西洋的だ』ってんで、けちょんけちょんさ」と、バンドの
メンバーのアル-フウェイシは言う。

グループは西洋的かぶれだといわれ、たくさんの批判の矢面に立たされ
た。

「みんな、最初は混乱したんだよね。でも、オレたちの最初のコンサー
ト、スゲー反応だったんだ。いろんな年代の聴衆が熱狂的に聴いてくれ
たんだ」

そのコンサートにはパレスチナ系のアメリカ人のジャッキー・サルーム
も見に来ていた。写真家で映像作家の彼女は、現在、パレスチナのラッ
プについてドキュメンタリーを撮っている。

そのドキュメンタリー「スリングショット・ヒップホップ」(ぱちんこ
ヒップホップ)*1(<http://www.slingshothiphop.com>)は、ガザ、
西岸地区、イスラエル領内に暮らすパレスチナ人ラッパーの日常生活に
焦点をあて、パレスチナの闘いの中での「別な形の抵抗」にスポットを
当てるものだ。

サルームは、最初、西岸地区とイスラエル領内で活動するパレスチナ人
ラッパーを取り上げるつもりだったと言う。彼女がガザのラッパーを見
つけたのは偶然で、ある日ネットをサーフしている時、 アル-ファラが
自分のグループに関するメッセージを投稿していた
<http://www.arabrap.net/>に出くわしたのだ。

《抑圧の形》

「そのコンサートは私の旅のなかでも最も興奮するものでした。それ
は、ガザは遅れてるという、一般の先入観を覆すものでした。彼らに
とって、ラップは占領に反抗する武器なのです。ほかの人達がロケット
を投げるかわりに、彼らは押韻を投げつけるのです」と、サルームは合
衆国のミシガン州の自宅からAljazeera.netのインタビューに応え、そ
う言う。

若いラッパーたちがラップという音楽形式を選んだのは、それが柔軟
で、自分達の直面しているいろいろな形の抑圧に対する気持ちを一番的
確に表現できるからだった。サルームによれば、ラップという形式その
ものがリスナーの共感を呼んだ。

「ラップというジャンルは受け入れられていて、人気があり、グローバ
ルに国境を超える可能性を持っています。非常になじみ深いので、気を
そそり、すんなりと受け入ることができます。ヒップホップは耳にした
だけで、すぐに共感することができるんです。それは若者の言葉であ
り、心から湧き出てくるんで、みんな、それを聞きたがるんです」と彼
女は言う。

「彼らがラップするのをフィルムで観た人は『スゲー』って。彼らは闘
争に人間的な表情を与え、人々の反応を変えようっていうだけで、あた
りまえな若者で、普通な連中なんです」

バンドのメンバーは、いつの日か、大きなコンサートで、パレスチナの
ヒップホップのグループが一同に会し、みんなでラップする、そんな夢
を持っている。メンバーは『Who's the terrorist?(テロリストはどっ
ちだい?)』という曲で音楽シーンに自らの位置を獲得したアラブ系イ
スラエルのグループDAM *2をアイドル視していて、彼らと一緒にラッ
プしたいと願っているのだ。

《見方を変える》

バンドのメンバーは、ガザに対する見方を変えたいと願っている。彼ら
はそれが夢のままで終わらないだろうと楽観的だ。彼らは歌の一節で
「夜明けは必ずやってくる、オレたちに陽がさす時がやってくる」と断
言する。

パレスチナ系アメリカ人の映画作家のサルームは言う。
「残念ながら、[ガザが]注目されるのは自爆攻撃があった時だけです。
『ガザ』という言葉からは否定的な連想しか浮かばないのです。PRに
ついても、乱暴な音楽をやるのかとか、自爆攻撃についてラップしてる
のかとか、そんな質問をされるほどです」

アル-ファラは、そういうイメージこそ、彼らが変えたがっているもの
だと言う。
「人々は、ガザの若者について、遅れてるって印象を持っている。そう
じゃないってことを伝えたいんだ。ラップはオレたちの直面する抑圧、
オレたちの渇望する自由、そしてガザ一般について、オレたちのメッ
セージを世界に伝えるための手段なんだ」

(初出:アルジャジーラ 2005年3月15日)

----------------------------------------------------------------

>◇ガザにラップが来た日

[こういうPRが最近、ガザで困難に直面したのは、パレスチナ自治政府
主催のガザ入植地「撤退」記念集会に出演したときのことでした。]
[ナブルス通信]


「ガザにラップが来た日」
ネッド・パーカー
2005年9月15日

The day rap music came to Gaza
Ned Parker - KHAN YUNIS, Gaza Strip

ボブ・ディランはギターをエレキに替えて観客の怒りをかい、1968年
のフリーコンサートでローリング・ストーンズはヘルスエンジェルズが
男を刺し殺すのを目撃し、そして、ラップがガザにやってきた。

始まりは十分に無邪気だった。
ネーブ・デカリムの前イスラエル植民地に重厚なベース音が震き出した
のは、ガザ「解放」を記念する公式の集会が、そろそろ終わりに近付く
水曜の午後のことだった。

髪をジェルで固め、ジャージとバギーパンツといういでたちの3人の若
者が頭をゆすりながら、ステージの上からすべての若者に向かい、腕を
あげて振り回せと呼び掛けた。

PR(パレスチニアン・ラッパーズ)は「al-Hurriya(自由)」というタ
イトルの歌を歌いだし、聴衆は大音量のビートに揺れ出したが、それ
も、後ろのほうにいた二、三人の立腹したイスラーム主義者がカラシニ
コフを空に向けて撃つまでのことだった。

男のひとりがハマス流の抵抗を呼び掛ける雄叫びをあげると、聴衆はそ
れに応え、アラー・アクバル(神は偉大だ)と叫び返す。聴衆はステージ
に向かって突進し、整然とした集会は大騒ぎになった。警察が警告の発
砲をし、石を投げ、棒を振り回す十代のハマス支持者に追っかけられる
ラッパ-たちをタクシーに押し込む。ラッパ-たちが逃げていくのを見
て、怒った暴徒は警察に石を投げ、「官憲はドルのためにおれたちの血
を売りはらった」と叫び、両サイドはおよそ30分ほど、ネーブ・デカ
リム全体で小競り合いになった。

この衝突は、政治、宗教、および武装勢力が混じりあい、一見、なんで
もない出来事が地域を混乱の渦に巻き込むという、ガザの荒々しい性質
を今一度、見せつけた。

ラッパ-たちは、5年にわたるインティファーダでのガザの絶望と怒り
の日々を歌っていたにもかかわらず、立腹したティーンエイジャーたち
は、ラッパ-をイスラム教とパレスチナの戦いを冒涜していると言って
糾弾した。

「やつらはディスコを歌ってんだ。それは聖なる本(クルアーン)に反し
てる」
警察の一団がひとりのトラブルメーカーを手荒く処理し、暴徒を隅に囲
み込み、ようやく小競り合いがおさまると、17歳のティーンエイ
ジャー、ムハンマドはそう言った。

ハーンユニスに近くの家に戻り、PRのメンバーは水パイプとタバコを
吸いながら、あれは厳格な保守主義が原因だと言って、事件を忘れよう
と努めていた。

「最初は、みんな、オレたちのラップから何から、気に入ってたんだ。
新しいことだから。ハーンユニスでラップをやるのはオレたちが初めて
なんだ。でも、ここの連中、遅れてるんだ」と、PRのメンバー、ムハ
ンマド・アル-ファラは言う。
「もうここで、公演の予定はないよ。頼まれたらやるけどね」

外から、「今日、お前たちとハマスとの間に何があったの」と母親に大
声で尋ねられ、20歳になるアル-ファラは首をすくめる。まわりは彼の
音楽人生を象徴するものだらけだ。まるで米国のラッパー、エミネムの
ように、白いタンクトップとキャップ姿の彼自身の写真もある。

彼の仲間のラッパー、ムタズ・アル-フウェイシは、父親から電話をも
らい、たくさんの人からハマスの支持者が息子を撃ったと電話をもらっ
たと聞かされた。

二人は、群衆が自分達の詞に注意を払わなかったことが不満だ。

ムハンマドは聴衆が怒らせることになった曲の歌詞を復唱する。
「平和は死につつある/新しい世代は、何が道筋なんだ、何が自由への
道筋なのかって、尋ねている」

ムハンマドは、自分達のグループの曲作りのインスピレーションとして
米国のラッパー、故トゥパック・シャクール(2Pac)*3の名前をあげ
る。彼らが最初にラップを耳にしたのは、1990年代後半、ガザに出
回っていたミックステープだった。

「オレはトゥパックがとっても気に入った。彼は白人に痛めつけられる
黒人について、ラップしたんだ」と、ムハンマドは言う。

PRの歌のひとつは、イスラエル人と戦う武装勢力に加わり、昨年殺さ
れた友人、イブラヒームの棺を運ぶムハンマドのことを歌うものだ。ム
ハンマド自身、2001年にイスラエル兵に石を投げ、左腕を撃たれてい
る。それが彼を目覚めさせることになった。

「みんな、自由を獲得するため、それぞれのやり方をする。銃を撃つ人
もいる。オレたちはラップだ」

----------------------------------------------------------------

原文:
http://www.middle-east-online.com/english/?id=14543

翻訳:リック・タナカ

*1 http://www.slingshothiphop.com
ドキュメンタリー "SlingShot HipHop: The Palestinian Lyrical Front"
は現在作成中(で、寄付を募っている)。日本語での紹介文は
http://0000000000.net/p-navi/info/info/200510040310.htm

予告編はPRの最初のステージの様子、パレスチナ人ムスリマ・ラッ
パーの姿、隔離壁、イスラエルの中にある差別などが見られるすぐれも
のなので、一見の価値あり。

このドキュメンタリーの制作費支援のために作られたコンピレーション
CD"Free the P!"も発売中(これについては、Informationコーナー
に)。

*2 http://www.dam3rap.com/  イスラエル領内に生きるパレスチナ
人ヒップホップグループDAM("Da Arabic Microphone Controllers")
のインタビュー翻訳は以下に。「オレたちはイスラエルの黒人だ」
http://0000000000.net/p-navi/info/column/200507171714.htm

DAMのニューヨーク公演の様子は
http://electronicintifada.net/v2/article4250.shtml

*3 2Pac…ブラックパンサーの活動家だった母親の元に生まれ、犯罪
にまみれて生きながら、黒人たちが生きている底辺の人生をそのまま
歌った。ラッパーとして栄光をつかみながらも、最後は銃弾を浴びて
25歳でこの世を去った。

※ガザにはさらに少なくとも、もうひとつのラップ・グループがありま
す。その連中との遭遇は日本人Lusinさんが大変面白い報告を書いてい
ます。これを読むと、ハマスの支持者がみんな揃って、ラップを攻撃し
ているわけじゃないこと(でも、服装は不可!)などがわかります。
http://sawa.exblog.jp/3460813/
(「つつがある日々」)

────────────────────────────────
>◇Information

CD "Free the P!" (Pを解き放て!)紹介

「スリングショット・ヒップホップ」の制作を支援するために、北米在
住のパレスチナ系ラッパーなどが中心になって曲を提供したCDが
"Free the P!" 。

(音楽は好きずきなので、誰にでも勧められるわけじゃないが、私は
とても気に入った!「あまりヒップホップには馴染みがないんだけど」
という40代の3人から「これはいい!」という声も聞こえてきている)

米国在住のパレスチナ人ラップグループ「フィラスティーンズ」や、
「アイアンシェイク」などの曲のほか、イスラエル・アラブのDAMや
ガザのPRの曲も収録されている。他に在米パレスチナ人の女性詩人、
スヘイル・ハマドの詩の朗読なども。30トラックでなんと11ドル(送
料別)というお得なお値段。

ラップじゃないものもあり、またラップもかなり多様なスタイル(ア
ラビックあり)があるので、飽きない。[私はすでに手に入れたけど、
とても良かったのでもっと仕入れてみようかとも思っているところ]

ジャケットには、ヘッドフォンをつけた「ヒップホップ・ハンダラ」
くんと、47年国連分割決議案の地図。

3曲のmp3無料ダウンロードが以下のサイトから。
http://0000000000.net/p-navi/info/column/200507171714.htm

試聴と購入はここから。
http://www.freethep.com/

(もう2度も在庫切れになっていますが、待っていると発送されます)
----------------------------------------------------------------
>◇P-navi info  <http://0000000000.net/p-navi/info/>
[ほぼ毎日更新中。編集者ビーのblog。速報、インフォ、コラム]

昨夜、ガザに空爆が行われ、多くの死傷者が出ています!
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200510280607.htm

◎ぜひ、読んでほしいもの◎ 緊急呼びかけ!ワリードを家に戻して!http://0000000000.net/p-navi/info/news/200510262339.htm

ほか、ヘブロンでの暴力がずっと続いているので、たくさんの記事がで
ています。

────────────────────────────────
掲載内容の印刷物・ウェブ上での無断複製・転載はご遠慮ください
(ご相談下さい。連絡先は下記サイトに)。お知り合いやMLへの
メールでの転送は歓迎です。(編集責任:ナブルス通信 )
       http://www.onweb.to/palestine/

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。