放射線の健康に対する危険性とは何か 念のため/核兵器廃絶国際キャンペーン ティルマン・ラフ

2011-04-07 16:39:18 | 社会
オーストラリアで核戦争防止国際医師会議(IPPNW)などに取り組むティルマン・ラフ・メルボルン大学准教授が、今回の福島の事態を受け、オーストラリアのウェブメディア"The Conversation"に「放射線の健康に対する危険性とは何かーー念のため」(Just in case you missed it, here's why radiation is a health hazard)と題する文章を掲載しました。3ページ程度の比較的短い文章の中に、医学的な専門性に基づきつつ、しかしとても分かりやすい言葉で、放射線の危険性の概要や線量とリスクの関係などをまとめてくれています。原発事故による放射線リスクが現実のものとなった今、「放射線って何だ?」「私たちの住むところは本当に安全なのか?」と心配する方に、まずは読んでいただきたい文献です。ご本人の了承を得て、ピースボートで翻訳をしました。以下の通りです。

川崎哲のブログから
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放射線による健康に対する危険性とは何か・・・分かりやすい概要をご紹介します
オーストラリアで核戦争防止国際医師会議(IPPNW)などに取り組むティルマン・ラフ・メルボルン大学准教授が、今回の福島の事態を受け、オーストラリアのウェブメディア"The Conversation"に「放射線の健康に対する危険性とは何かーー念のため」(Just in case you missed it, here's why radiation is a health hazard)と題する文章を掲載しました。3ページ程度の比較的短い文章の中に、医学的な専門性に基づきつつ、しかしとても分かりやすい言葉で、放射線の危険性の概要や線量とリスクの関係などをまとめてくれています。原発事故による放射線リスクが現実のものとなった今、「放射線って何だ?」「私たちの住むところは本当に安全なのか?」と心配する方に、まずは読んでいただきたい文献です。ご本人の了承を得て、ピースボートで翻訳をしました。以下の通りです。

放射線の健康に対する危険性とは何かーー念のため
2011年3月24日
The Conversation
ティルマン・ラフ


 3月11日に日本で起きた地震と津波、そして複雑な原子力危機のため、電離放射線被曝に関する懸念が急速に注目を集めている。それは一体どんなもので、どんな危険があり、どれほどの量が危険なのか?という疑問である。

 原子炉の中で、ウラニウムやプルトニウムが、何百もの異なる放射性物質の混合物に変化するにつれて、その放射能は百万倍ほどに増幅される。

 人間が放射線に被曝する経路はさまざまで、空気中のガスや微粒子の吸引、土や水に蓄積された放射性物質、食物や水、口に入る埃からの摂取などがある。ある種の放射性同位体は、生体に含まれる通常の化学物質と紛れて食物連鎖の中に入り込み、それが最終的に私たちの口に入ることもある。

電離放射線

 原子核から電子を弾き出し、イオン(正の電気または負の電気を帯びた原子)を発生させるだけのエネルギーを持つ放射線を、「電離放射線」と呼ぶ。

 電離放射線は、直接、または細胞の中で強く反応する化学物質を発生させることにより、大きく複雑な分子を損傷させる。

 電離放射線の生物学的な影響力は、それが含むエネルギーの大きさよりも、このエネルギーが、複雑な分子――特に、私たち人間にとって、新しい世代を形成していく遺伝子の設計図であるDNA――に到達し、損傷を与える可能性がある形体になっていることの方に、より強く関係する。

 致死量の放射線は、エネルギー量としては、たったコーヒー一杯分の熱と同程度かもしれない。私たちの五感は、電離放射線について警告することができない。それは、見ることも触ることも感じることもできないし、味も匂いもないからである。

被曝のレベル

 放射線の影響の一部は、ある放射線量を超えて初めて現れる。

 短期的には、大量の放射線被曝は、急性の放射線障害をもたらす。より長期的には、白内障、先天性欠陥、不妊、脱毛などのリスクが高まる。

 大量の放射線は、細胞を死滅させる。これは、ある種のがん治療に放射線が使用される理由でもある。

 100ミリシーベルト(mSv)を超える大量の被曝、とくに1,000mSvを超えるものは、人体で活発に分裂している細胞に最も大きな影響を及ぼす。その細胞とは、骨髄の造血細胞、臓器の内側、卵巣および精巣である。したがって、急性放射線障害の症状には、嘔吐、下痢、出血、そして、感染への抵抗力低下などが含まれる。

 電離放射線の主な長期的影響は、広範かつ多種のがんリスクの増大である。がんリスクが増大しない、「安全」な放射線量というものは存在しない。被曝後3年から5年ほどと、最も早い段階で発現するのが、白血病と甲状腺がんである。例えば、1986年のチェルノブイリ原発事故後の結果、甲状腺がんが多発し、これまでに6,500人の子どもが発病している。

 10年後になると、他の種類のがんが増加し始める。すなわち、肺がん、乳がん、大腸がん、卵巣がん、膀胱がん、その他多数のがんである。広島・長崎の被爆者の非常に高いがん発生率は、現在も増加を続けている。

被曝の放射線源

 私たちは皆、宇宙の星、地面、岩、一般の備品や電化製品などからの電離放射線に常にさらされている。人間の被曝量の世界平均は、推定で年間2.4mSvである。

 自然放射線源で最大のものは、ウラニウムの崩壊過程の一部であり、地殻に広く含有されるラジウムから発生するラドンガスである。ラドンは、世界中で、喫煙に次いで大きな肺がんの原因となっている。

 現在進行中の、人為的原因による放射線被曝の主要なものは、医療用レントゲンによるものである。急速に増加している医療用放射線被曝、特に、CTスキャン使用の増加によるものについて、懸念する声が目立っている。CTスキャンの実施には、3~11mSvの放射線が伴う。

 電離放射線被曝は、すべての放射線源からのものについて、可能な限り低く抑えられるべきである。

 オーストラリアを含むほとんどの国では、一般の人々について、非医療放射線源からの許容被曝量の上限を年間1mSvとするべきだと勧められている。この値は、原子力産業労働者については年間20mSvとされている。日本で緊急作業に当たっている原発労働者の最大許容値は、250mSvに引き上げられた。

健康への危害

 少量の電離放射線による健康への影響について、現時点で最も権威のある推定は、全米科学アカデミーの『電離放射線の生物学的影響VII』(BEIR VII)という報告書に含まれるものである。

 この報告書は、リスクがゼロの放射線被曝は存在しないという科学的証拠の実質的な重要性を反映したものになっている。被曝する放射線が強いほど、リスクも高まるのである。

 BEIR VIIでは、1mSvの放射線被曝ごとに、固形がん(白血病以外のがん)の発生リスクが1万人に1人、白血病のリスクは10万人に1人、がんによる死亡のリスクは1万7,500人に一人の割合で高まると推定している。

 しかしながら、通常、放射線からの防護基準が成人男性を元にしている一方で、全ての人にとって危険性が同程度であるわけではない。乳児(1歳以下)においては、放射線によるがんのリスクは成人に比べ3~4倍になる。また、女児は男児に比べて2倍も影響を受けやすい。

 女性は、白血病のリスクは少ないが、より一般的な固形腫瘍が発生するリスクが50%高いため、放射線被曝に関連する全体的ながんリスクは男性に比べて40%高い。最も放射線の影響を受けやすいのは、子宮の中の胎児である。

 時を経るごとに、放射線被曝に関わる健康へのリスクの推定値は、容赦なく増大している。

 これらのリスクのいくつか、特に、例えば肺に蓄積したプルトニウム粒子などの内部汚染の影響については、おそらくいまだに過小評価されていると考えられる。内部汚染は、現在日本で人びとを検査するために広く使われている、手で持つタイプの放射線モニターを含め、ガンマ線のみを検知するよう設計された外部機器では検知できない可能性がある。

 ドイツでは、最近の国家的調査により、ドイツの原子力発電所の通常運転に伴い、発電所の5km圏内に住む5歳以下の児童の白血病リスクが2倍以上になっており、また50km以上離れた場所でもそのリスクの増大が見られることが示された。これは、当初の想定に比べて非常に高い値である。

 いくつかの放射性物質の寿命は、ほとんど無限である。プルトニウム239の半減期は2万4,400年である。最初の1,000分の1以下のレベルにまで崩壊が進むには、ほぼ25万年かかる。よって、ある人の肺に吸引された粒子が、次の何世代にもわたってがんリスクを高めることがあり得るのである。


原文:
http://theconversation.edu.au/articles/just-in-case-you-missed-it-heres-why-radiation-is-a-health-hazard-315
『The Conversation』 (http://theconversation.edu.au)は、オーストラリアの大学・研究者グループが独立した情報、分析、コメントを公衆向けに発信しているウェブ媒体

著者:
ティルマン・ラフ(Tilman Ruff)
メルボルン大学・ノッサル地球保健研究所、疾病予防・保健推進部門・准教授

本文の発表に関して(The Conversationより引用):
 ティルマン・ラフは、この記事により利益を受けるいかなる企業・団体に関しても、雇用関係や顧問関係になく、株式を所有せず、資金提供を受けていない。また、取り上げるべき繋がりもない。
 私たちの目標は、本文の内容がいかなる形でも損なわれることがないようにすることであり、そのために、出版に先立ち、各筆者に、いかなる利害関係・対立の可能性についても明らかにするように要請している。

翻訳:
著者の許可を得てピースボート(http://www.peaceboat.org)が翻訳した。
担当:小笠原純恵(第72回ピースボート・ボランティア通訳)


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