窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

わが子すら七人七色、況や…-第137回YMS

2022年05月16日 | YMS情報


 2022年5月11日、mass×mass関内フューチャーセンターにて第137回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。



 今回の講師は、株式会社NANASE代表、ものづくりコーディネーター、キャリアコンサルタントの石田七瀬様。石田さんには以前こちらでもお話を伺いました。テーマは、 「なぜ関わり方って必要なのか?社員を活かすも殺すもあなた次第」です。

 早速、「関わり方が大事なのか」についてです。労働人口、若年人口が減少し、大学生の就職内定率がバブル期をも超える数字となっている一方、中小零細企業は総じて人材不足に悩まされている傾向にあります。そうした環境の中、いつの時代にも一定数いる「従来の企業におけるコミュニケーションが通じない」人たちとの関わり方を考えなければ、人材確保が難しくなっています。石田さんはこうした悩みを抱える特に製造業を中心とする中小零細企業に対して、現場環境改善と同時に企業と伴走しながら「人づくり」をされています。正確に言うと、人づくりというより、その人が本来持っているものを引き出す、たまたま曇っている人を磨いて光を取り戻させる取り組みと言った方が良いかもしれません。

 そのきっかけの一つは、ご自身があるメーカーでお仕事をされていた時の経験でした。右も左も分からないまま、その会社の購買業務を任されるようになり、ベテラン社員から指導を受けていたものの、その社員がわずか1ヶ月で退職。仕方なく現場に入って図面の見方から勉強されたそうです。しかし、逆に現場をゼロベースで見られたことが、会社の中の常識にとらわれていた現場を変えていくことになります。僕もそうですが、渦中にいると問題を問題とも感じなくなる可能性があるのですね。その会社は作れば作るほど赤字を出す町工場だったのですが、購買の立場から最大85%のコストダウンに成功し、納期短縮で黒字化を成し遂げました。

 もう一つ、人材育成のきっかけは、その部署が他の部署で都合の悪い人材の寄せ集めだったことでした。しかし石田さんは自身もお子さんを片道1時間かかる保育園に送り迎えしなければならない事情があり、どんな人であれ頼らざるを得ませんでした。つまり、レッテルを貼っている余裕などなかったということです。例えば、挨拶すらまともにできない若手社員。前回のYMSの言葉で言えば、発達障害と呼ばれる人だったのかもしれません。しかし、その若者に頼り、寄り添って1ヶ月半から3ヶ月後、彼の才能が開花します。主に整理整頓の部分で力を発揮し、それまでお客様からの支給品さえなくしてしまうような会社、20人しかいないのに40人がかりで棚卸に3日かかっていた会社が、関連会社に応援を頼むことなくわずか半日で棚卸を終えられるところまで改善しました。その彼はお客様からも「変わったね」と変化を認められるようになったそうです。

 そうした製造現場の人と環境の変わりゆく様を身をもって経験されてきた石田さんですが、ご自身が21歳から1歳まで何と7人のお子さんを持つ母親であることの経験も大きかったと言います。自分から生まれたとはいえ7人いれば7人とも全く違う。同じことを伝えても通じる子もいれば通じない子もいる。わが子さえ関わり方をカスタマイズすることが重要なのに、増して他人の集まりである企業組織が関わり方に無頓着なのか?言われてみれば不思議なことです。

 さて、以上のような経緯を踏まえて、今回の事例に移ります。こちらも中小の製造業ですが、コンサルテーションにあたり200社以上のコンペを行ったそうです。その中で株式会社NANASEさんが受注された理由が、社長曰く、「『社長に問題があります』と言ったのはNANASEさんだけだった」とのこと。しかし、そうした諫言を受け入れ任せる度量と、何としても現状を変えて生きたいという思いを持つその社長さんも立派だと思います。

 その会社は年々作業効率が下がり、従業員は言い訳を並べ、モチベーションが低い。退職者が続出し、社長と従業員との意見の乖離が大きいといった状態だったそうです。石田さんがまず取り組んだのは、やはり直接現場に入り、従業員の本音を聞き出すこと。社内相関図を作成し、関係を洗い出すこと。従業員の本音と社長の考えをすり合わせ、真の問題の把握することでした。

 幸い、前述のように社長には「絶対変わる!」という意識があり、できるところから小さな変化を起こしていきました。詳しくは書きませんが、行うことは徹底した粘り強いコミュニケーション、「関わり」を諦めないことです。その結果、導入しただけで全く使われていなかったシステムの稼働率が、半年後には90%以上に上がり、現場が主体的に整理整頓を行うようになりました。

 ここでも「自分は認められていない」と卑屈になっていた中年社員の変化がありました。認められることによって、今までは「自分の仕事がない」と危機感なく過ごしていたのが進んで3Sや作業改善を行うようになり、自ら売上意識を持ち、手の空いた時間をスキルアップのために仕事を覚えたいと申し出るようになりました。注意点は、変わり始めても人の心には必ず波があるので、サポートは必要だということです。自転車もまずは補助輪付きから、というのと同じですね。心の波が下がった時にいかにフォローするかが大事。人の良いところを引き出すコツの一つは、その人の好きなことに絡めて話すと良いとのこと。

 もちろん、現実はきれいごとでは済みません。改善の過程では良くないこともありますし、全てが受け入れられることばかりでもありません。例えば、どんなに関わり方を変えても、物事を人のせいにしかできない人は一定数います。完璧はあり得ないのです。不完全であってもPDCAを回し続けることが大事で、小さな変化が次第に影響を及ぼしていくようになります。

最後に、本日のまとめの一言。

「他者を認めることは簡単ではない。どんな人にも光るものがある。それを生かすも殺すもあなた次第」

過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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