窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

DX時代に求められる統合型交渉-第53回燮(やわらぎ)会

2022年03月19日 | 交渉アナリスト関係


 2022年3月18日、オンラインによる第53回燮会が行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。

 さて、今回は昨年9月17日に行われた第49回燮会以来、実に半年ぶりに通常の二部構成で行われました。第1部は「第15回交渉理論研究」、「分配型交渉の理論」の第2回目「交渉と時間」についてお話ししました。



 「時期」(長さ)としての時間
 「時機」(タイミング)としての時間
 「いつ止めるか?」という問題
 行動のエスカレーション
 ストレッチ・コラボレーション

 交渉に関する「時間」の問題として、上記のようなトピックを取りあげました。初めに、「時期としての時間」。兵法書『孫子』に、「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを睹ざるなり」(戦争は速やかに終結に導くのが良策であって、長期戦による完全な勝利というのは歴史上聞いたことがない)とありますが、交渉においてはどうなのでしょうか?ここでは、交渉に時間をかけることによって考えられるメリットとデメリットについてお話ししました。

 次に、「時機としての時間」。これも厳密な決まりはなく文脈に依存しますが、「どのタイミング」で交渉を行うかは、その結果に大きな影響を及ぼします。

 第三に、「いつ止めるか?」という問題。「いつやるか」と同じくらい交渉では「いつ止めるか?」も重要です。「いつ止めるか」については、心理的なアプローチと数学的なアプローチで研究がなされていますが、ここでは数学的なアプローチ、「最適停止問題」を数式なしで取りあげました。

 第四は、「行動のエスカレーション」。「いつ止めるか」が重要である理由の一つに、この「エスカレーション」の問題があります。ここでは代表的な行動のエスカレーションとして、「競争のエスカレーション」と「コンフリクトのエスカレーション」を取りあげました。

 最後は、「期限を切らない」という意味で時間と関係があるので、紛争解決ファシリテーターのアダム・カヘンが唱える「ストレッチ・コラボレーション」を取りあげました。カヘンは交渉も状況への対処の一手段に過ぎず、場合によっては交渉せず、「強制する」、「適応する」、「離脱する」といったことも肯定されると述べています。また、交渉が困難なほど敵対する当事者同士が協働する手段として、目標やプロセス設定を課さず、ただ「状況を打破するために何をするべきか」だけを双方が考え、それぞれができることに集中するという新たなアプローチ、「ストレッチ・コラボレーション」を提案しています。



 つづいて第2部。1級会員の鈴木雄太さんより「見えない未来は、お客様と一緒に見つけよう! 統合型交渉を活用したデジタル変革支援」と題して、お話しいただきました。鈴木さんは、IT企業でお客様の業務改革やシステム企画支援に取り組んでいらっしゃいます。その中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)により人々の生活や企業の事業環境が急激に変化する時代にこそ、まさに「統合型交渉」のアプローチで従来の「提案営業」からお客様と共に問題や解決策を考え実行まで伴走する「探索営業」に変わっていくことが求められている、とおっしゃっています。何故なら、あまりに早い技術革新と市場環境の変化のため、お客様が「何が問題なのか」を認識することさえ難しくなってきているからです。この点で、ゴールから逆算して問題を明らかにし、問題の根底にある当事者の関心から解決策を創造していく「統合型交渉」のアプローチは、確かにうってつけと言えます。僕も交渉学を学んで感じていることですが、およそコミュニケーションの存在するところにおいて、交渉理論は思考の基盤として役立つと思います。



 さて、鈴木さんは「統合型交渉」による「探索営業」のアプローチを上の図のような4フェーズ、12プロセスにまとめていらっしゃいます(図は鈴木さんのお話を元にこちらで作成しました)。

 「理解」のフェーズでは、例えばDXについて理解するところから、伴走を始めます。趣旨やプロセスを説明すると共に、相手が意見を言える場を整えます。

 「協働」のフェーズでは、質問で考えや意見を掘り下げていきます。共通の目的達成のため、解決策を検討する場を整えます。

 「創出」フェーズでは、ゴールから遡る(これを「バックキャスト」と呼んでおられました)ことで、解決策のブレインストーミングを行い、アイデアの整理と可視化を行います。さらに先進の成功事例集を紹介することでさらにアイデアの質を高めます。

 「合意」フェーズでは、相手に解決策を選択してもらいます。同時に、解決策に対する懸念も確認します。あくまで相手の選択を尊重することが大事です。

 最後に、交渉はほぼ必ず複数のラウンドで行われるということを理解しておくこと、また変革を促すには様々なステークホルダーをいかに巻き込むかが重要であるということでした。そのような視野の点でも、第48回燮会(3D交渉)でご紹介したように、交渉理論は役立つと思います。「統合型交渉の用語を(デジタル変革支援の)共通言語にしたい」と鈴木さんはお話しされていました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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