窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

食に人生あり-大船海鮮食堂 魚福(大船)

2022年06月20日 | 講演メモ


 今日は奇しくも、こちらのお店の1周年だそうです。「大船海鮮食堂 魚福」さんに初めてお邪魔したのは、昨年10月。長年YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を共にやっている友人に誘われ、こちらのお店を営んでおられる湯澤剛社長とお会いした時でした。

 大船駅前で、コストパフォーマンスの良さと気軽に寄れそうな気取らない雰囲気。そして入口いっぱいに張り出された品書きが道行く人たちの目を惹くお店です。



 この日のメニューは上のフォトチャンネルにまとめました。横浜の下町で育った僕としては、大衆居酒屋らしさを残した馴染みのあるメニューが安心感を与えてくれますし、大船駅前の雰囲気にも合っているように思えます。

 湯澤社長は11歳上の大先輩ですが、お話を伺うと大学が同じだったり、空手をやっていたことなど色々と共通点があって不思議な感じがしました。これがご縁でその後2回ほどお会いさせていただいたのですが、先週小田原で改めてゆっくりお話を伺ったのがきっかけで、この週末は湯澤さんのご著書「ある日突然40億円の借金を背負う――それでも人生はなんとかなる」を拝読していました。

 ご尊父の急逝に伴い、36歳で40億円という年商の2倍の借金を抱え倒産寸前の会社を継承。16年かけて借金を返済されたことは大まかには伺っていました。しかし、お会いした時の湯澤さんからは、悲壮感のようなものが全く感じられないのです。それだけに手に取った本に書かれていた苦難は想像をはるかに超えたものでした。



 これに比べたら自分などまだ苦労の「く」の字も知らない、恵まれた甘ったれに過ぎません。自分が作ったわけでもない借金の返済に追われ、わが身のみならず妻子を路頭に迷わすかもしれない恐怖との闘い。そこへさらに追い打ちをかけるように降りかかってくる艱難辛苦の連続。自分ならとても16年も耐えられないでしょう、何しろ渦中にいた時は16年で返済できると約束されていたわけではないのですから。いや、いかに想像を巡らせたとて、所詮紙の媒体からでは本当のご苦労の万分の一も、現在の僕に分かりはしないでしょう。

 コロナ禍に見舞われたこの2年でさえ、決して順風満帆ではなかったはずです。しかし、お会いした時の湯澤さんは辛さを噯にも出されないのです。愚痴の一つさえ出ません。それどころか、口を衝いて出てくるのは、その場にいる人を含めた周りの人たちへの感謝と敬意の言葉ばかり。人生への賛歌、働くことの素晴らしさ、そして人々への感謝の言葉。苦難の果てに暗闇に光が差し込んできた時、照らされたのはそのようなものだったのでしょう。

 読み終えた後、改めて10月にお邪魔した時の料理の写真を眺めた時、こうした一品一品の背後に、湯澤さんを始めとする多くの方の人生を賭けた壮絶なドラマがあるのだとしみじみ思いました(本書では、お店の名前の由来やどうしてこのようなメニューにしたのかなどのエピソードについても触れられています)。きっと、他の飲食店にもそれぞれのドラマがあるに違いありません。もちろん、飲食に限らず他の業種でもです。半世紀も生きていて、今更ながら思います。だから僕たちは食べ物を前にして「いただきます」、「ごちそうさま」と手を合わせるのだと。

 最後に、心に残った、湯澤さんが苦境を前に立ちすくみ絶望に打ちひしがれている人たちへ贈ったメッセージを「あとがき」からそのまま引用させていただきます。ここに湯澤さんの人柄が凝縮されているように思ったからです。

 もう一度立ち上がってみませんか。
 「これ以上はとても無理だ、もう終わりだ、死んだ方がいい-」
 そう思っていても、もう一度だけ、立ち上がってみませんか。
 私は「朝の来ない夜はない」と、これ以上なく強く信じています。
 そして、あなたがその足でもう一度立ち上がるなら、あなたはその手であなただけの宝物をつかみとるだろうと、信じています。
 頼れる人もいなくて、どうしたらいいかわからず、それでも自分の人生を失ってなるものかと、そう願ったあの日の私のような人へ、この本を贈ります。
 立ちはだかる巨岩を前に、こんなものが動かせるわけがない、自分にはとても不可能だと足をすくませている人へ、この本を贈ります。
 不可能かどうかは、立ち上がってみてからでないと分からないものです


大船海鮮食堂 魚福



神奈川県鎌倉市大船1-10-15



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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