まほろば自然博物館

つれづれに、瀬戸のまほろばから自然の様子や民俗・歴史や見聞きしたおはなしをしたいと思います。

心房粗動アブレーション エピソード2 焼灼技術

2010年05月18日 | 日常
 近年、薬剤抵抗性で反復性の頻拍性不整脈に対して心臓カテーテルを用いた治療法が開発され、これまで開胸的に行われてきたものに代る根治療法として広く行われてきている。薬剤が有効な例においても、長期にわたって服薬を必要としなくなるという利点により、考慮に値する方法であり、この高周波カテーテルアブレーション(以下アブレーション)について、原理、適応疾患を簡単にお話しておく。

 

 アブレーション(焼灼(しょうしゃく)=焼きつけ は、不整脈の原因となる心筋の部位を高周波により加熱し、ピンポイントに凝固壊死せしめることで不整脈を根治するもの。不整脈の生じるメカニズムは、(1)異常自動能 (2)triggered activity (撃発活動) (3)リエントリー の3つに分類されるが、(1)(2)においては異常な興奮を起こす病変部を、(3)においてはリエントリー回路を断ち切る部位を標的にする。不整脈のメカニズムを診断し、アブレーションを行う至適部位を探す作業をマッピングという。

 アブレーション用のカテーテルの先端の電極で心内心電図を観察しながら操作してマッピングを行い、心内心電図のパターンと透視上の解剖学的部位からカテーテル先端が至適部位に当たっていることを判断し高周波通電を行う。

 アブレーション用カテーテルの先端は温度センサーを内蔵しており、50~60℃の設定で30~60秒間通電する。1回の通電で凝固壊死になるのは直径6mm、深さ4mm程度の半球状の領域で、不整脈を根絶するまでこのように高周波通電を数回から十数回繰り返す。

 

 心房粗動の多くは右心房の三尖弁輪周囲を旋回するリエントリーを機序とするもので、この回路を横断するように三尖弁輪と下大静脈を結ぶように線状に右房壁をアブレーションすることで根治可能だが、点状の個々の焼灼巣を切れ目なく連続させる必要があるので通電回数はやや多くなる。

 心臓には、刺激伝導系と呼ばれる特殊な心筋組織があり、これに電気が流れ、その電気的興奮が心筋全体に伝わることで心臓はリズムカルに収縮と拡張を繰り返す。 この心臓の電気系統に相当する刺激伝導系の最も上流にある洞結節は、右心房と上大静脈の接合部に位置しており、ここから電気が流れることでまず心房が収縮し、ついで電気的興奮が心室に波及することで心室が収縮する(下図)。


  心臓の電気系統(刺激伝導系)
 


 洞結節を含む刺激伝導系は自律神経に支配されていて、安静時の心拍数は60-80/分だが、運動や緊張により自律神経が興奮すると、心拍数は徐々に上昇し、最高150-200/分にまで達することがある。これは、運動や緊張により全身のエネルギー消費が高まるのを受けて、それに見合うだけの血液を供給するためである。つまり、正常な心臓では自律神経と刺激伝導系の連携により、常に必要なだけの血液が全身に供給されるように心拍数が自動的に調節されているわけである。このような仕組みが破綻し、心臓がうまくリズミカルに動かなくなった状態を"不整脈"という。

 不整脈は大きく分けると徐脈と頻脈に分類される。徐脈は心拍数が低下し、全身に十分な血液を供給できなくなるもので、治療としてはペースメーカー植え込みを行うのが一般的で、一方、頻脈は心拍数が必要以上に増加し動悸や胸部不快感を生じるもので、薬物治療やカテーテル・アブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)が行われる。

 ここでは頻脈性不整脈に対するカテーテル・アブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)についてご説明する。カテーテル・アブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)は、頻脈性不整脈の原因となる心筋組織をカテーテルで焼灼する手術で、現在ではカテーテル先端から高周波電流(交流電流)を流すことにより心筋組織を熱凝固させる高周波アブレーションが主流であるが、液体窒素を用いた冷凍凝固アブレーションなども実用化されているらしい。アブレーションの手術では、まず大腿ソケイ部・首・肩などの血管を穿刺して数本のカテーテルを挿入し、心臓の要所に配置する。つぎに、頻脈発作をわざと誘発して頻脈の種類・原因を特定する。最後に焼灼用カテーテルを標的に押し当て、高周波電流を流して頻脈の原因となっている組織を熱凝固させる。

 X線透視を用いたアブレーションの様子

 

 コンピューターによる不整脈の解析の様子

 

 対象となる不整脈には、WPW症候群、房室結節回帰性頻拍、心房頻拍、心房細動、心房粗動、心室性期外収縮、心室頻拍などがあるが、手術の成功率、危険性、所要時間は不整脈の種類によって異なる。また、同じ種類の不整脈でも、人によって心臓の大きさや形が異なるため、難易度も異なってくる。


 心房粗動というのは、心房が200~400/分で興奮する不整脈で、心房細動に比べると、心房の興奮するペースが遅く、やや粗い動きになるため、心房粗動というわけで、通常型と非通常型があるが、ほとんどが通常型であるという。

 通常型の心房粗動は、右心房内の三尖弁輪を回路とする頻脈発作です(下図-左)アブレーションでは三尖弁輪に線状焼灼を加えることで、不整脈回路を遮断する。(下図-右)

 通常型の心房粗動のアブレーション



 非通常型の心房粗動は三尖弁輪以外の部位を不整脈回路とするもので、ほとんどの場合過去に外科的な心臓手術を受けられた方にみられる不整脈で、外科的手術を受けられた患者さんの心臓には、手術の時に生じた傷痕・縫い口が何ヶ所もあるのだが、この部分を回路として頻脈発作が起きてくるもの。 アブレーションでは、どの傷痕・縫い口を回路として不整脈が起きているかを特定して、その部位の焼灼を行います。多くの場合、不整脈回路を特定するには3次元マッピングシステムという専用の機械が必要になる。

 不整脈回路の焼灼には95%程度の確率で成功するが、他の縫い口を回路とした別の心房粗動の再発が20%程度みられるため、長期的な成功率は75%程度。再発した場合には2回目の手術を受けることで成功率の向上が期待できる。

 非通常型の心房粗動

 

 アブレーションに要する手術時間は約3時間で、局所麻酔で可能である。カテーテルの挿入は標準的には大腿静脈、内頸静脈より行い、症例によって(左心系に病変がある場合)大腿動脈を追加する。入院期間は数日から1週間程度。

じゃぁ、また、明日、会えるといいね。

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