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角岸's blog (Kadogishi s' blog)

酒、酒&映画・・時事問題?

傑作短編集  香納諒一「ガリレオの小部屋」

2012-03-09 15:27:12 | ミステリー
香納諒一先生の「噛む犬KSP」をネットで注文して、待つ間、久しぶりに同じ香納先生の傑作短編集「ガリレオの小部屋」を読み返してみましたが、さすがですねぇ。

今はこの文庫本になっています。

ぶっちゃけ、この短編集は全然ミステリーじゃありません。ミステリーっぽいのもありますが、せつない普通の短編小説七編収録しています。

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・「無人の市」
主人公は文芸誌の編集者。その年の大型新人を発掘したのだが、男女合作の作者は男の方しか姿を現さない。
しかも、男はどう見ても作品の作者とは思えないのだが・・・・
香納先生自身、元編集者なので、文壇の裏側の部分は異様な迫力があります。ミステリーっぽく始まるんですが、なかなか味わい深い大人の作品です。

・「流星」
幼なじみ男女3人の物語。うち、主人公が恋心を持っていた女が自殺するところから、物語が始まります。
主人公は、失踪したもう一人の親友(男)の行方を探し、自殺の真相を探るのですが・・・
ラストの流れ星のシーンではジーンと来ます。こういうふうにもってくるところ、うまいですねぇ。

・「指先からめて」
エロ雑誌出版社の編集者になった主役の女性とエロモデルの奇妙な友情の物語です。
二人で、ビールを飲みながら、慰めあう会話のシーンは秀逸です。

・「冬の雨にまぎれて」
主役は広告代理店に勤める不眠症のサラリーマン。付き合いのない住んでいるマンション住人達との物語です。
自分が異常になっているのに気付かず、周りの方がおかしいと思い込んでいる主人公。
しかし、現代人なら誰でもおちいりそうなお話なのが怖いです。

・「雪の降る町」
この主人公も雑誌の編集者。生まれ故郷小樽で待っていてくれた、バーの店主「サブちゃん」。
15年ぶりに再会した二人は、二人きりで静かなバーで会話を楽しむのですが・・・・
この、苦み走ったサブちゃんの魅力と会話描写のうまいこと。
ファンタジーっぽいせつないラストはさすがというべきか。

・「ガリレオの小部屋」
作家である主人公が、子どもの時から大学生になり渡米先で知り合う、3人の男(何れも慶応大生)たちの青春小説。
この主人公は、明らかに香納先生自身の投影なんですが、最後の最後に「ガリレオ」の意味がわかります。
地味なんですが、これも何とも味わい深いせつない物語です。

・「海鳴りの秋」
この短編集唯一のミステリってか、アクション(?)でしょうか。主人公の少年と元刑事(デカ)だった父との悲しい物語です。父は、悪徳警官の汚名を着せられ警察を追われて今は落ちぶれているのですが、少年とキャンプをした日、偶然、昔追っていたホシを見つけます。父はまたデカの血が騒ぎ、二人でその男を追うのですが…

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しかし、題名に「ガリレオ」とつけば、とっさに思いだすのが、東野圭吾さんの「ガリレオシリーズ」ですが、小生としては長編は良いんですが、「ガリレオシリーズ」の短編は苦手です。なんか、数学の勉強しているみたいで。

何れにせよ、短編に限って言えば、圧倒的に香納諒一先生に軍配があがると断言できます。
というよりか、日本でも数本の指に入る、スゴイ短編の書き手ですよね。しかも長編もうまい。

ウン?、そうこうしているうち郵便屋さんが「噛む犬KSP」を配達してくれました。


帯に「本年度警察小説最高の収穫!」と書いているぞ。

こりゃ、また楽しみです!!


香納諒一の警察シリーズ「KSP孤独なき地」「KSP毒のある街」

2012-03-03 13:02:33 | ミステリー
さて、3月だというのに今日もしんしんと雪が降っています。


と、いうわけで最近読んだ本2冊を紹介します。


小生の敬愛する香納諒一先生の壮大な警察もの「KSP孤独なき地」「KSP毒のある街」の2冊。

先生の新宿を舞台とした小説はノスタルジックな傑作「あの夏、風の街に消えた」があるんですが、今回はバリバリの刑事(デカ)もの。

なんでも、香納先生はこの警察ものをシリーズで10作発表する予定(まさに大河ドラマ!)とのことで、この2作はその序盤にあたるというわけ。

まずは第1作目「KSP孤独なき地」


(ストーリー)
新署長赴任の朝。署の正面玄関前で、容疑者を連行中の刑事が雑居ビルから狙撃された。目の前で事件に遭遇した歌舞伎町特別分署の沖幹次郎刑事は射殺犯を追う。銃撃戦の末、犯人のひとりを仕留めるが、残るひとりは逃亡した。金を生む街、新宿歌舞伎町で暴力組織が抗争を開始したのだ。息も吐かせぬ展開と哀切のラストシーン。最高の長篇警察小説。


この、歌舞伎町特別分署(K・S・P)というのは作者の創造した架空の警察署なんですが、この主役の沖幹次郎という刑事(デカ)が実に魅力的。厳ついボディにスキンヘッドで、新宿歌舞伎町界隈では恐れられる存在なんですが、実はだいの落語好きという設定。沖が率いる特捜刑事(バリバリ現場のデカ)たちと、キャリア刑事たちとの対立、新宿のヤクザとチャイニーズマフィアとの抗争に複雑に財界、政界が絡むという、ただただ面白い警察小説なわけ。正直、哀愁漂う緻密な筆致で知られる香納センセが、ヤクザ抗争みたいな泥臭いお話を描くとは以外でした。しかし、ラストの悲しきスナイパーの顛末はさすがというべき。

さて、その続編。 「KSP毒のある街」


(ストーリー)
K・S・P特捜部の沖幹次郎は突然の人事でチーフをはずされた。新チーフはキャリア警部の村井貴里子。怒りを抑えきれない沖だが、その矢先、射殺事件が起きた。標的は神竜会のヤクザ二人。新宿進出を目論む関西系暴力団・共和会傘下の鳴海興業による犯行だった。さらには首領を失い凶暴化するチャイニーズマフィア・五虎界も、新宿再開発を巡って暗躍を始め…。警察の縦割り組織と序列に苦しめられ、愛する者を危険にさらしながらもなお、敢然と凶悪犯罪組織に立ち向かう刑事たちの姿を描く、これぞ警察小説の最前線。


前作ではチャイニーズマフィアのボディーガードに過ぎなかった、朱栄志(チュー・ロンジー)が頭角を現し、本作の最大の敵になるんですが、手下に美しい爆弾魔を抱え狂気の計画を次々と実行していくんですが、本作もスピード感あふれ一気に読ませます。主人公の沖刑事と父との確執、同僚の家族を巻き込んだ家の爆破、ヤクザに落ちた元刑事、インテリヤクザと大手銀行頭取とその家族の話が複雑に絡み、クライマックスはまるでハリウッドの大作映画のようなスケールです。

なんかフィクションとはいえ、本当に今の新宿ってこんな感じなんでしょうか?
あれですよね、あのM・チミノのバイオレンス映画「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」の世界ですよね。

第3作目「噛む犬KSP」も読むの楽しみです。



しかし、真冬の川代で、真夏の新宿歌舞伎町の刑事もの読んでると、なんか幸せです。


「エトロフ発緊急電」と「ジョーカーゲーム」&「ダブルジョーカー」

2012-03-01 00:00:01 | ミステリー
そういえば、昨年12月8日は日本軍の真珠湾攻撃から70周年(?)だったそうですけど、これを描いた傑作はやっぱ佐々木譲先生の「エトロフ発緊急電」で、決まりでしょう・・・と小生は思うワケ。

まさか、ハリウッド、M・ベイの超おバカ映画「パールハーバー」を挙げる人はいないですよね(?)
コメディー映画としてみるなら、ある意味傑作ですが・・・・


 アメリカの日系スパイ、ケニー・サイトウを主役に、朝鮮人スパイから、南京の宣教師スパイまで登場する、イギリス冒険小説に一歩も引けを取らない和製冒険小説です。当時のアメリカ、東京択捉島をまるで見てきたかのように緻密に描き、かつ手に汗握るスパイストーリーの後に用意されている万人を泣かせるラストシーンはどうでしょう。思う出すだけで目頭が熱くなるというものです。

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というわけで、今回さらに、ご紹介したいのは、同じく大戦前夜から真珠湾攻撃までの時代を描いたスパイ小説柳広司先生「ジョーカーゲーム」「ダブルジョーカー」

何年か前に興奮して読んだのを覚えていますが、もう、文句なしに面白いです!

「ジョーカーゲーム」と「ダブルジョーカー」


陸軍内部に設立されたスパイ養成学校〝D機関〟。12人の精鋭を率いるのは、悪魔的な魅力を持つ、「魔王」こと結城中佐。
スパイにとって絶対してはいけなことは「目立つこと」。従って、結城中佐はこの部下たちに「殺人」と「自決」を徹底的に禁じ、諜報戦の敵のみならず、陸軍内部をも出し抜いていきます。
東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる、手に汗握るスパイミステリーです。

「エトロフ発緊急電」が熱く男臭いスパイ物語なら、このジョーカーシリーズは、クールでスタイリッシュなスパイ物語と言えるでしょう。

確かに、当時の時代考証としてはおかしな点が多々あり、それを「軽い」と見る向きもあります。
しかし、このスピード感あふれる軽快なストーリーテリングはそれを補ってあまりあると小生は思うのです。何より、最後にアッと騙される快感といったありません。

「ジョーカーゲーム」 (以下の短編5作収録)
 ・ジョーカーゲーム
 ・幽霊 -ゴースト-
 ・ロビンソン
 ・魔 都
 ・× × ダブルクロス

「ダブルジョーカー」 (以下の短編5作収録)
 ・ダブル・ジョーカー
 ・蠅の王
 ・仏印作戦
 ・柩
 ・ブラックバード

この、2作品はそんなに長くないので、いい気に読めます。もちろん「エトロフ発緊急電」と併せて読めば格別でしょう。

冬の猛吹雪ミステリー「暴雪圏」

2012-02-03 15:44:57 | ミステリー
いやー、この間の暴風雪はすごかったですね。
小生の住む新郷村川代ではただ、のどかに雪が降っただけでしたが、国道279号の渋滞ニュースは全国で報道されましたもんね。


この、車が雪に埋れて立ち往生し、近くの公民館に一晩避難したりしている人々をニュースで見て、真っ先に思い出したのが、佐々木譲先生「暴雪圏」です。舞台は、青森県じゃなくて北海道なんですが・・・




〈ストーリー〉
最大瞬間風速32メートル。十勝平野が十年ぶりの超大型爆弾低気圧に覆われた日の午後、帯広近郊の小さな町・志茂別ではいくつかの悪意が蠢いていた。暴力団組長宅襲撃犯、不倫の清算を決意した人妻、冴えない人生の終着点で職場の金を持ち出すサラリーマン…。それぞれの事情を隠した逃亡者たちが辿りついたペンション・グリーンルーフで、恐怖の一夜の幕が開く。すべての交通が遮断された町に、警察官は川久保篤巡査部長のほかいない―。超弩級の警察小説。


一応、川久保巡査部長が主役という事になっていますが、いろんな、事情を持った登場人物たちの群像劇です。
なので、厳密には「警察小説」ではないですね。

この、悪天候のおかげで、いろいろな事情をもつ登場人物たちが、山荘や別荘に閉じ込められるミステリーって映画や小説でも何度となく使われてきた「古典的」プロットですよね。確か、漫画のゴルゴ13にもありましたよ。

こんな天気の悪い日に、様々な事件が一晩に集中して起きるもんか!などとつっこんではいけません。

ミステリーの名手、佐々木先生の手にかかれば、なーんの不自然さもなく、みんな山小屋に集まるではないですか。
しかも、北海道在住の作家らしく、その暴風雪の描き方などは、息苦しくなるほどリアルです。

これ読み終わった直後に、横浜町の集会所で一晩明かすことになったら、おっかなかったでしょうね。

ちなみに、この「暴雪圏」は「制服捜査」という小説の続編ですが、全く独立した話なので、前作読まなくても何の問題もありません。


こっちは川久保巡査部長が主役のばりばりの「警察小説」なんですが、もう面白いのなんのって、是非ご一読をお勧めします。

というわけで、静かに降ってくる川代の雪を見ながら、暖房のきいた部屋で読書をするって、最高です。


北村薫の真骨頂!「私のベッキーさん」3部作

2012-01-05 22:28:31 | ミステリー
北村薫先生のいわゆる「私のベッキーさん」シリーズ3部作とは以下の3作品。


1作目「街の灯」 (虚栄の市 銀座八丁 街の灯の3短編収録)

2作目「玻璃の天」 (幻の橋 想夫恋 玻璃の天の3短編収録)


3作目「鷺と雪」 (不在の父 父と地下鉄 鷺と雪の3短編収録)

戦前の昭和初期の帝都、東京。
日本経済の一翼を担う「花村財閥」のお嬢様の英子とその運転手ベッキーさん(別宮みつ子)を主人公に様々な事件(それこそ事件から、小さな暗号)を解決していきます。

この物語は謎解きのミステリーとしても面白いのですが、なんと言ってもその時代背景でしょう。
我々知るべくも無い、当時の華族・士族のなどの上流階級の暮らしぶり、恋、苦悩、そして文学や古典などの教養世界が巧みストーリーの伏線として張られていきます。北村先生の徹底的な時代考証によりもう、圧倒的な説得力によりそのお公家様たちの暮らしぶりが再現されていきます。



昭和7年の「五・一五事件」の起きた帝都が舞台の「街の灯」では英子の運転手としてベッキーさんが配属され、その文武両道の彼女の才により様々な事件を解決していきます。今後のシリーズに登場する重要人物たちもここで紹介されていきます。特に桐原侯爵家の長男桐原大尉とのベッキーさんのエピソードは胸をすくようなお話。
もちろん、題名の「街の灯」はチャールズ・チャップリンの名作から。チャップリンの自伝にもこの日本での「五・一五事件」にふれています。

次作の昭和8年が舞台の「玻璃の天」では、主軸のストーリーと並行して才色兼備の主人公ベッキーさんのなぞめいた過去がラストに明らかにされます。ここでも、桐原大尉はベッキーさんへの恋心か尊敬の念か武人の誇りをみせ、3作目の伏線を張ります。伏線と言えば、語り部の英子お嬢様の若月少尉への淡い恋心もここで語られます。3作目ラストへの本当に重要な伏線となります。



そして、完結編昭和9年から11年を描く「鷺と雪」ではまだ、ほのぼのした語り口を残しつつも着々と戦争へ向かっていく日本の姿が描かれています。(二・二六事件のあたりまで)
いずれ、そう遠くない将来終わるであろう「お公家様」と「軍属」を頂点とした日本社会が崩壊することを知っている現代の我々が読むだけに緊迫感はよりいっそう盛り上がります。
ベッキーさん(使用人)と桐原大尉(支配者)は身分の差を越えて、お互いを尊敬しあっている故、隠れた薄暗い場所で日本の将来を語り合うエピソードは胸をうちます。

そして、英子がほのかな恋心をよせる若月少尉への切ないラストなどはもう、ミステリー好きだけなく歴史好きもただただ唸らせるストーリーテリングといえるでしょう。

ちなみに誰かが解説した評論に昭和7年をばっさりと「暗い時代」と表現した人がいましたが、果たしてそうでしょうか。
この物語も、戦争へのすすむ不気味さを表現していますが、当時の人たちに我々の現代の平成日本を見せたらそれこそ「暗い時代」に見えないでしょうか。

映画評論家の「淀川長治自伝先生自伝」も当時の暮らしぶりが良く分かりますので興味のある方は是非ご一読ください。

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ちなみにですけど、本編で触れられる日本を揺るがした「二・二六事件」のちょうど三ヵ月後・・・・・この新郷村(当時は戸来村)へ竹内巨麿と鳥谷幡山らが訪れ「キリスト渡来伝説」を説きました。

日本帝国が崩壊へと動きだしていく時、まさにここ新郷村では「キリスト渡来伝説」産声をあげたと言えるでしょう。