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角岸's blog (Kadogishi s' blog)

酒、酒&映画・・時事問題?

「ワトソン君、今は寛容の季節だからね」

2011-12-14 22:33:05 | ミステリー
亡くなられた大作家、開口健先生は、旅先でいつも「シャーロック・ホームズ」を読まれていたそうです。
南米への釣りの紀行文「オーパ!」でもハンモックにゆられながら「シャーロック・ホームズ」を読んでいる写真が載せられています。

先生曰くホームズは「大人の子守唄」

「シャーロック・ホームズ」ファンをいわゆる「シャーロキアン」と言いますが、自分ももちろんその中毒にかかったシャーロキアンです。

英国ではファーストネームではなく、セカンドネームのほうをとって「ホォーミィジアン」といわれます。

確かに、ワトソン博士もホームズのことを「なぁ、シャーロック」とファーストネームで呼びませんしましてやホームズは「なぁジョン」などと呼ぶはずもありません。ビクトリア王朝の正統な英国紳士として部屋に二人きりでもセカンドネームで「ドクター.ワトソン」「ミスター.ホームズ」と、しかも肩書きまでつけて呼ぶのです。

そういう意味ではアメリカ式のファーストネーム由来の「シャーロキアン」よりも、英国式のセカンドネーム由来の「ホーミィジアン」の方がより格調高いと思いませんか。

というわけで、自分の本棚にも「ホームズ」ものが並んでいます。





DVDシリーズも・・


「ホーミィジアン」(シャーロキアン)にとって、原作者のサー・アーサー・コナン・ドイルが残した短編56編、長編4編を併せた60編をfont size="5">「聖典(カノン)」と呼びます。

で、ホームズ研究家の第一人者、ベアリング・グールド氏の事件が起こった年代順に並べ、しかも詳細な解説がついたホームズ全集を「聖書(バイブル)」と呼ぶのがならわし。

分厚い単行本でも10冊に検索版1札がついた全11冊になります。





さて、今回の出張に持っていったのはB・グールド版。いわゆる、バイブルのほうです。



ごらんのように、小説自体はページの上。
解説は下の方。
イラストをまじえたページも豊富にあります。

小説本体より、解説の方が文章が多いです。

出張中に読んだのはもちろん、ホームズX'masの定番、「青いガーネットBlue Carbuncle」
ホームズものなかで、唯一、X'masシーズンに起きた事件です。

高級ホテルに滞在中の伯爵夫人所有の[ブルーカーバンクル]が盗まれる。
それが、なんの関係もない、庶民の鵞鳥の胃袋の中から、出てきます。真犯人は?


この物語の舞台となる、ロンドン「コベントガーデン」
ま、簡単に言えば、ここいらへんの、八食センター青果市場を足したようなものでしょうか。

ちなみに、コレが100年以上前(ビクトリア時代)の「コベントガーデン」


現代の「コベントガーデン」はノミの市、大道芸人、レストラン、ファッション関係が集まる、ロンドンでも最もおしゃれな地区です(小生も恥ずかしながら、何回か行ったことがあります)。

現代の「コベントガーデン」



さて、この物語ではホームズはせっかく捕まえた犯人を逃がしてあげます。
過去にも、まぁ、犯人の側に十分な理由があった場合、逃がした例があるますが、このケースは明らかに犯人は卑怯で姑息です。

しかし、ホームズは・・・・

(本文より)
「つまりだね、ワトソン」ホームズはクレイパイプに手を伸ばしながら言った。「僕はスコットランドヤード(警察)の欠陥を補うために雇われているいるわけじゃないんだ。(略)僕は重罪犯罪人を減刑してやったようなものだが、これでひとつの魂を救ってやったことにもなる。(略)しかも今は、寛容の季節だからね。」

これだけでは飽き足らないとい方のために、↓↓「X'mas専用ホームズ贋作短編集」があります。


ホームズを心から愛する、世界中の現代作家たちが、クリスマスシーズンに起きた事件の短編14編を収録しています。

実際、ベーカー街とX'masって実に良く似合う気がしませんか。

青森県民必読のなまりミステリー「血の冠」

2011-11-19 09:57:26 | ミステリー
数年前この本が出て初めて読んだときの衝撃は今でも忘れません。

小生の敬愛する、香納諒一先生の警察小説です。
警察小説なんですが、サイコミステリーですね。
「贄の夜会」、「第四の闇」と同系統の作品なのですが、決定的に違うのは・・・・・


本を開くと「警察小説の誕生!」とありますが、これはけっして傑作ではありません。
むしろ、最後まで読み進めると・・アレ?と思う人が多いと思うわけです。

しかし、香納信者の小生にそんなことは関係ありません!

むしろ、青森県民は必ず読むべきだと思います。と、言うよりは青森県民ほどスラスラ読めます。なぜか!

まず舞台が弘前市で、事件を捜査する刑事、登場人物もすべて訛っています!東京から来る猟奇殺人専門のエリート刑事(青森県民で主人公の同級生)まで訛っています。

「日本語」の文章は無意識に標準語で読みすすみますが、セリフが全部訛っていて・・・正確に言えば津軽弁がリアルに活字化されているため、普通の文章までイントネーションを訛って読んでしまうのです。
しかも、 訛っていてもハードボイルドなんですよ!

(本文より)
「こごは俺たちの故郷だ。俺はこごで生まれ、この街で育った。この街の冬を、この街の春を、この夏の短け夏も秋も知っている。岩木山ば見るど思う。こごが俺の故郷だってな。けども、俺はいったいこの街で、今まで何をしてきたんだべと心が重ぐなって、寝つけね夜ば今まで何度も繰り返してきた。俺は妻を裏切り続けでだんだ。小百合のことだって裏切ってだんだ。俺は誰も幸せにできねんで今まで生ぎできたんだ。今の俺を見で、親父がどう思ってらべと想像せば居でも立ってもいられぬね。親父はあんなふうに死んだばって善人だった。新幹線ば故郷さ持ってくるって言い続けで、その挙句に何もかもねぐねって死んだ道化(もっけ)だけども、そいでも、俺の親父は根っからの善人だった。だばって、この俺はどんだ? 俺は善人でね。ただの薄汚れだ警察官だ」

これほど、本を「訛って読める」小説はザラにはありません。


横浜出身の(横浜町ではありませんよ)都会派ハードボイルド作家、香納先生の芸の奥行きを堪能する作品です。

それにしても、東京のひとあ、でってコレよむんだヴぇ。書評の評価あんまり高ぐあねぇのあ、ぜってなにへってんのが、意味解がねがったすけでねんべが。

香納諒一「深夜にいる」

2011-11-05 18:19:17 | ミステリー
短編が6編入って、それも様々な「香納ぶし」が楽しめるファンにはたまらない一冊です。

小説から・・・

「空の青さが目にしみた。とてつもない青さに思えた。
すぐ手を伸ばせば届くところに、雲がぽっかりと浮いている。」
(「道連れ」より)


カッケー!!


なんでも香納先生の初期のころの幻の短編集らしいです。
1997年に刊行されたらしいのですが、文庫本としては今年の夏に初めて出版されたとのこと。
小生も初めて読みましたが・・・・イイですね。ホント香納センセはうまい!

特に気に入ったのが3つ目の「水曜日の黙禱」とこの文庫本の表題にもなっている「深夜にいる」 。

「水曜日の黙禱」は久しぶりに仕事をする、二人の中年ヒットマンの話。
かっこ良すぎるハードボイルドです
無駄な、描写はしないが、すぐその人物像と周りの景色が見えてきそうな巧みな筆致。
殺し屋なのに人間っぽい(甘党で映画ファン)、二人の軽妙な会話。
コレ一編読むだけでも、買う価値のある本です。

「深夜にいる」はこの短編集の中で一番長いミステリーで、それだけに読み応えがあります。
NHK(小説では大日本放送)の深夜ラジオ番組の生放送中にかかってきた自殺予告の一本の電話。
しかも、本当に自殺してしまいます。その電話を放送中にとった老アナウンサーが真相を解明していくというもの。
すでに、サラリーマンとしてのアナウンサーを引退した老人の視点で描かれ、老夫婦の暮らしぶりや息子の就職の心配など、香納センセ(この時30代)も芸が達者だなあとうならされる一編です。

そのほかの、4遍も実にイイですよ。

東野圭吾「真夏の方程式」

2011-11-01 10:55:47 | ミステリー
ガリレオシリーズの最新作。いや、フツーに面白かったです。


東野ファンの小生も、この「ガリレオ」シリーズだけは、ホントは苦手だったんですよね。
特に短編!
科学だの数学だのがもともと嫌いなので、短編でも胸焼けするんです、あのモロ理系のお話。
主役の湯川洵教授の浮世離れした人物造形にもどーもなじめなかったです。短編のころは。
が、長編になったら「容疑者Xの献身」「聖女の救済」俄然イイ!面白い!
トリックも独創的ですばらしいのですが、やっぱり人間のリアリスティックな描写が桁違いに良くなり、湯川先生も、人並みに人間くさく悩んだりして、共感できるようになって来ました。
本作でも湯川先生は相変わらず浮世離れした学者のセリフ回しなのですが、ストーリー自体はだんだん、賀川恭一郎シリーズのように人情物に替わってきた感じ。というか、東京での過去の事件の話とかも含めて、もろ「人情物」です。
そもそも本作ではストーリーに物理学者が絡まる必然性が全く無い。
でも、湯川博士お得意の科学トリックの秘密が無い替わり、準主役の恭平少年の視点でこの物理学者が描かれるため、なんか「僕の夏休み(田舎で博士と遊ぶ編)」みたいな感じでほのぼのした読後感です。


時間のある休日に一気に読むミステリーとしてお勧めです。

東野圭吾「マスカレード・ホテル」

2011-10-24 21:58:38 | ミステリー
この国民的作家、東野先生の作品久しぶりに(ひょっとして新作?)に読みました。
前作「麒麟の翼」は正直アレレレ・・という感じでした(東野ファンの皆さんゴメンナサイ)ので、
さほど期待もせず(更にゴメンナサイ)読んだところ。


いやいや、良かったです。小生イイと思います。少なくとも快作ですね。

Amazonの読者さんの書評に「重厚さが足らない」などの書き込みがあったりしますが、東野先生の作品に限って言えば、それはハッキリ言って「ないものねだり」です。

東野作品は重厚でないからこそ、イイのです。正直、東野作品は情景描写も、人物描写もさしてウマくありません。

あの、大作「白夜行」「幻夜」とかも、くどい文体を避けているため、映画のようなイメージが読者の脳内に浮かぶのだと思います。

1つ!小気味良くすすむ独自のスピーディな文体。2つ!最後の明かされる見事なトリック。3つ!ラストの数ページで、ほろっと泣かせる読後感のグッドセンス。これこそ、本を閉じてから「読書ってイイですね~水野晴郎 風)」と思わせる東野マジックの3点であろう。

更に、人気作家にもかかわらず、シリーズ物をあまり書かぬ作家なため(最近は加賀恭一郎と湯川学ありますが)、初めて作品を読む人でも敷居が高くない。
本作品は見事に上記の東野作品の3点のツボを押えてます。シリーズものでないし。

(ストーリー)
東京都内で起こる連続殺人。これから起こるであろう殺人現場は高級ホテル。
ホテルマンに扮して潜入操作する刑事と彼をサポートする女性教官のようなホテルマン。
最初は反発しながらも、事件と同時進行でお互いのプロフェッショナリズムを理解しあうようになります。
で、巧みな伏線とホテルで起こるエピソードがパズルのピースのように最後にはまるわけです。
特に、ラスト近くの意外な真相とサスペンスは見事なものです。

ちなみにですけど、重厚な文体と物語のミステリーを求める人は伊人記号学者ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」を強くおススメします。