梅雨時の花といえば、ほとんどの人ががアジサイを思い浮かべると思いますが、他にもいろいろあります。
雨空のもと傘を開いていると、つい俯きがちに歩くことが多くなります。
雨に濡れた歩道のどこかで、地面を覆うように、白い大振りの花が落ちているのを見たことはありませんか?
立ち止まって見上げた先に、涼やかで清楚な花が咲いているのを、見たことありませんか?
鬱陶しい時期だからこそ、余裕を持ちたいですね。
肩のちからが抜けますよ。
【ナツツバキ・夏椿】ツバキ科ナツツバキ属
ナツツバキは、日本の宮城県以西の本州、四国、九州や、朝鮮半島南部に自生する落葉高木です。
樹高は10~15m、大きいものだと20mに達するほどの高木になるんだそうです。
マイフィールドではそんな高木は見かけませんね。
大きいものでも6~7m止まりです。
ツバキは光沢のある肉厚の葉っぱで常緑ですが、ナツツバキは表面がザラっとした薄い質感で、ツバキ科のなかでは珍しく落葉します。
秋の紅葉と、冬場の裸木に残った実殻も、なかなか趣がありますよ。
縁に細かい皺のある花びらは、ツバキよりずっと繊細さがあります。
筒状の雄蕊も、なんとなく5つに分かれているのが見て取れますよね。
「ナツツバキ・夏椿」の名前は、ツバキによく似た花が夏に開花することに因みます。
ツバキはツバキ属、ナツツバキはナツツバキ属ですのでね、同じツバキ科ではありますが、厳密にはお仲間とはいえません。
別名として「シャラ・沙羅」や「シャラノキ・沙羅の木」の名前が掲げられていることがありますが、これは間違いから付けられた名前だというのが定説です。
お釈迦さまがその木の下で亡くなったと言われる「サラソウジュ・沙羅双樹」。
仏教の世界では聖木とも目されるサラソウジュとナツツバキを、間違えたということなんですけどね。
こんな初歩的なミスをするだろうかというのが、おじさんの説です。
仏典など、文字でしか見たことのない「沙羅双樹」の木は、熱帯性の樹木ですのでね、もし導入されたとしても、日本の気候では生育不能です。
でも信仰心を高めるためにも、当時の日本の仏教徒たちは、聖なる木を身近に持ちたかったはずです。
白羽の矢が立ったのが「ナツツバキ」なんじゃないのかなって、そう思います。
儚げに咲く白い花、朝開いて夕方には落花する一日花のナツツバキの姿に、無常感を重ね合わせたとしても、不思議なことではありません。
シンボリックツリーとしての存在感を、「ナツツバキ」は充分果たしたんじゃないかと、そう思いますけどね。
間違えたとしても、確信犯だろうね。
まあ以上、独りよがりの四方田話ですのでね、聞き流しておいてください。
本物の「サラソウジュ・沙羅双樹」とは、こんな花です。
【ヒメシャラ・姫沙羅】ツバキ科ナツツバキ属
ヒメシャラは、ナツツバキとは同科同属の近縁種です。
関東以西の本州、四国、九州の山地にに自生する落葉小高木です。
ナツツバキ同様、15mほどの高木になるとのことですが、そんな大きな木は見たことありません。
こちらで見かけるのは、せいぜいが3~4mなんだけどな。
群落分布の北限と言われている箱根神社のヒメシャラの純林を見ると、なるほど高木なんだということが判りました。
花期はナツツバキより少し早めです。
アップ写真で見ると、どちらも同じような花に見えますが、ナツツバキの花は5~7cmと大振りですが、姫は2~3cmと小さな花です。
ナツツバキに間違って名付けられた「シャラノキ」がそのまま生きて、花や葉が小さいことから「ヒメシャラ・姫沙羅」と命名されました。
別名は、「コナツツバキ・小夏椿」です。
花名の法則を鑑みると、本来なら「ヒメナツツバキ・姫夏椿」のはずなんだけどな。