【ツワブキ・石蕗】キク科
花を紹介したときにも書いておりますが、私の田舎では、山菜を食べる文化が貧困です。
そんななかでも、このツワブキは食べていました。
今回「野を食す」を始めるにあたって、お客さんも含めて回りの人間に尋ねてみましたら、ツワブキは、ごく当たり前に食卓に出されたというかたたち、いらっしゃいました。
西日本、殊に九州ではよく食べられていることは、ネット検索をしてもわかります。
各地の郷土料理として紹介されているサイトが、たくさんあります。
ツワブキとは言わずに、ツワとか、単にフキと呼んでいるようです。
私の育った宇和島、三浦地区でも、ツワでした。
東京をはじめ、都市部の出身のみなさんには、ツワブキを食べたことがあるかどうかは、愚問です。
ツワブキは観賞用の花という認識しかありません。
それはわかります。
東京で目にするツワブキは、公園の一角や個人のお宅、ビルや道路脇の植栽として、意識的に植えられているものがほとんどです。
そのあたりに自生しているものなど、皆無です。
ということで、いままでアプローチしてきた「野を食す」の素材としては、ツワブキは少し趣が違います。
どうしても「食す」ことにこだわるなら、後ろめたさが付き纏います。
ツワブキを手に入れるためには、ずばり、窃盗行為をやるしかありません。
昨年の春、ツワブキの新芽と出会ったとき、「野を食す」というテーマを立ち上げるなんて思惑などなかった頃からの話ですが、いつかツワブキは、「食す」ことをやってみたいなと、採取可能な場所を物色していたのです。
ここのツワブキならと、目星をつけていたのが、トップ写真の場所です。
さる公園の斜面地で、ベルト状に群生している場所で、人為的にではなく、株が増えていました。
もしツワブキ料理をやるのなら、ここのものでと、決めていました。
採取するにあたり、根こそぎ採らない、一度採った場所では二度と採らないというのが、確信的窃盗犯のルールです。
どう言い訳しても、それは犯罪行為だといわれるかもしれませんが、そうやってツワブキを手に入れたということを、告白しておきます。
とはいいつつ、新芽に出会ったときには小躍りし、ノーテンキに採取してきました。
公園をホームにしている青テントの住人たちは、ツワブキの葉をかきわけ、新芽を採取している私に、怪訝な視線を注いでおりましたけどね。
ツワブキの名前の由来は、「艶のある葉の蕗」からという説がありますが、料理には艶のある葉は使いません。
堅くて灰汁も強いでしょうから。
全体が綿毛で覆われている新芽の、茎の部分だけを使用します。
子供の頃から馴染みのあるものですが、食べたことはあっても、調理したことはありません。
灰汁抜きがたいへんだったという思い出があります。
わが家では、灰で灰汁を抜いておりました。
採ってきたツワブキに灰をまぶし、熱湯を注いで一晩置いたあと、灰汁で指先を真っ黒にしながら、皮を剥いたものです。
今の生活では、灰など手に入りません。
ネット検索して、灰汁抜きの手順を調べてみました。
水だけで灰汁を抜く方法がありましたので、取り敢えずそれでやってみました。
採取してきたものの葉を落とし、板ずりしたものを熱湯で3分ほど茹でて、冷水に浸します。
冷めたら、丹念に皮を剥いていきます。
あるサイトでは、面白いように皮が剥けると出ていましたが、そんなことありませんでした。
難儀な作業でした。爪が真っ黒になりました。
蘇りますね、幼き日が。
透明感のある、若草色が出現いたしました。
水を替えながら、一昼夜置いておきます。
これで、下準備が完了です。
味見してみました。
いやいや、美味しいんですよ、この段階で。
パラパラと塩を振っただけですが、口中にひろがる香りといい、口当たりといい、サラダ感覚で申し分なくいただけます。
ただしが付きます。
どこでもいいかというと、そんなことはなくて、茎の根っこに近いところで、あまり緑がかっていない部分に限ります。
少々の苦味など平気だ、かえってあったほうがいいというなら、丸ごと食べてもいけます。
ホワイトアスパラの苦味が大丈夫なら、こちらのほうが上品なくらいです。
「油揚げとツワブキの煮物」
今回は定番の煮付けです。田舎で食べていたのは、これです。
語るべきことはほとんど無し。
当たり前の煮物になりました。
蕗の煮物より、爽やかさを加味しても、ツワブキのほうが美味しいと思います。コクがあります。
画像無しの失敗話をひとつ。
キャラブキと呼ばれる佃煮は、元来はツワブキを使って作っていたということを、昨年ポージィさんのブログで知りました。
それに挑戦してみるかとやってみたのですが、煮詰めているうちに、煮崩れてしまい、ほとんど溶けてしまいました。
そうか、そうか、そういうことか・・・
別サイトでみた、簡単レシピでやってみることにします。
綿毛も取り除かず、皮も剥かない調理方法です。
4、5センチの長さに切り、太い部分は2~4個に切り分け、水に晒します。
そのまま、一昼夜おくのは、先の灰汁抜きと同じです。
「キャラブキ」
こちらが、ツワブキで作った、本家本元のキャラブキです。
現在市販されてるキャラブキは、フキで作られているのがほとんどです。
醤油、酒、みりんで濃い目の味付けにしてますからね。
ごはんの友はもちろん、箸休めの一品としても重宝します。
「ツワブキのキンピラ」
そうなんですよね。
この2品は、皮があるからこそ、シャキッとした感触が楽しめるのですよね。
キンピラにすると、香りといい、食感といい、春を感じさせてくれる美味しさでした。
こんなものも作ってみました。
「ツワブキと菜の花の散らし寿司」
茹でて皮を剥き下処理したツワブキを、薄味でさっと煮て、そのまま煮汁のなかで冷まし、食感を残したものを削ぎ切りにします。
塩漬けの菜の花(これも採取品です)と、湯抜きしたシラスを具に加えました。
合わせ酢には、田舎から届いた伊予柑の果汁を少々加えてみました。
ツワブキの香りとシャキシャキとした食感、菜の花の鮮やかな緑色とほのかな苦味が、目から鼻から舌から口から心から、春を満喫です。
錦糸玉子ともみ海苔をあしらいました。
どうぞお召し上がりください。