禅的哲学

禅的哲学は哲学であって禅ではない。禅的視座から哲学をしてみようという試みである。禅を真剣に極めんとする人には無用である。

「公案解答集」 - ウルトラ 禅問答 ひろさちや訳

2016-11-17 13:57:40 | いちゃもん

元々の原本は「現代相似禅評論」という本で、臨済宗で修業された飯田黨隠という方が公案禅の弊害と堕落を痛感され、破有法王の名で著されたものであるらしい。それが"The Sound of the One Hand" (隻手の音声)として英訳された。そして今度はさらにひろさちやさんが、その英語版を日本語に翻訳したのが、「公案解答集 - ウルトラ 禅問答 ひろさちや訳」というわけです。

ひろさちやさんは仏教に関する広範な知識をもとに、巧みな比喩を駆使して仏教をやさしく解説することのできる、仏教評論家です。しかし、この「解答集」をよむかぎり、他のことについては知りませんが、こと禅に関してはひろさんは公の場では発言しない方が良いような気がします。

飯田黨隠という方はまじめでなおかつ高い境地に達せられた方だったと聞いているので、「現代相似禅評論」もそれなりの意図をもって著されたのだと思います。しかし、ひろさんの翻訳による「公案答集」を読んだ限りでは、率直に言って「お粗末」という印象を受けました。内容は単に「分かったふりをして押し通せ」ということでしかないように見受けられます。そして、さらに良くないのはひろさんの付け加えた序文です。

≪いま、『隻手音声』の例で言えば、『答 師に向かって姿勢を正して座り、何も言わずに片手を前につきだす』とあります。これが模範解答なんですね。≫

このあと、模範解答はこれだが、海軍士官学校の口頭試問の例をひいて、その手の出し方や態度が問題である、という注釈が続きます。

≪禅の公案だって(海軍士官の例と)同じです。『片手を出す』のが正解ですが、その片手の出し方で、弟子の能力が見てとれます。禅の師家はそれを見ているのです。≫

ひろさんはこの模範解答を「定石」であると述べています。そしてこうも言っているのです。

≪プロは定石を大事にします。定石というのは、思考の節約になります。‥‥けれども、定石にとらわれてはいけません。特に禅においては、--とらわれのない智慧--が求められているのです。≫

おそらくひろさんは禅定についての理解がないのだと思います。だから、「定石」とか「思考の節約」というような見当違いの言葉がここで出てくるのでしょう。結局、これがどうして模範解答なのか、「手の出し方や態度」についても、どういうのが良いのかということは全く分かりません。もし、この回答集を読んで公案を通過する人が出てきたとしたら、その師家の力量が問われることになるだろうと思います。

ちなみに半世紀ほど前になりますが、私もこの「隻手音声」の公案に参じたことがあります。一応私も見性を認められたのですが、片手を前に突きだすというようなことは致しませんでした。要は、「手の出し方」ではなく、本当に了解したかどうかにあるのです。師家はそれを査定するために、師家独自の工夫でいろいろな角度から確かめようとします。模範解答などというものは存在しません。

現在NHK Eテレの100分de名著という番組で「正法眼蔵」が取り上げられています。ひろさんは解説者として、道元の言う「身心脱落」を次のように説明しています。

≪角砂糖を湯の中に入れると、角砂糖は溶けてしまいます。しかし、角砂糖がなくなったのではありません。ただ溶けてしまったのです。――わたしたちは自分・自己に執着しています。その執着した自我意識の状態が角砂糖なんです。そして、この角砂糖が溶けてしまった状態が「身心脱落」であり、それを道元は別の言葉で“忘れる”と表現しました。≫

ほう、なるほどわかりやすい。分かりやすいけど、いったい何を分かったのでしょう?

※参考=> 公案に関する哲学的見解

 

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (外れ者)
2016-11-18 00:16:23
鋭い解説で面白かったです。
ひろさちや氏の本を集めた時があり、
他の人はどう思うだろうかと
思ってた時期がありましたんで。
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Unknown (Unknown)
2016-12-09 22:48:06
ひろさんはひどいです、どこに向かおうとしているのでしょう、怖いくらいです。彼の著作には「子供向け」だとか、対象者を明記すべきです。
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