高齢者の生命保険契約を巡るトラブルが相次いでいる。背景には長引く低金利で保険会社が高齢者の資金運用先として保険料が高額な貯蓄型商品を勧めている現状がある。内容を理解せず契約するケースが目立ち、国民生活センターは「高齢者は契約する前に必ず家族に相談してほしい」と呼びかけている。【平川昌範】

 同センターによると、全国の消費者相談窓口に寄せられた70歳以上の生命保険に関する相談は、2011年度の2571件から増加傾向にあり16年度は2936件。親が高額の契約をしたが解約したいという子供からの相談が多く、自宅を訪問した営業員による勧誘がきっかけで契約した高齢者が目立った。

 同センターは「保険内容を理解していないことが多い。途中解約すれば損失が出る契約をさせられたり、認知症の人が契約させられたりする悪質なケースもある」と話す。

 背景には、生命保険市場が飽和状態となる中、高齢者が重要な顧客になっている現状がある。生命保険協会によると、60歳以上の新規契約数は11〜15年度に毎年増加。16年度はわずかに減ったが281万件と全体の契約数の18%を占める。

 関係者によると、保険料を一括払いする「一時払い終身保険」など貯蓄型商品を打ち出して高齢者から契約を集めている。こうした商品は比較的短期間で保険料を上回る払い戻しが期待できる一方、保険料が高額で死亡や解約までが一定期間に達しなければ元本割れのリスクもある。

 金融庁は14年2月、高齢者に生命保険契約を説明する際に親族の同席などを求めた監督指針を示した。生命保険協会も同年10月、同様の内容のガイドラインを定め、各保険会社に対応を求めている。

 生命保険に詳しい吉田桂公(よしひろ)弁護士は「昨年5月の改正保険業法の施行で、営業員に顧客の意向を把握するなどの義務が課された。ただ、営業員の活動は目が届きにくく、いまだに『GNP(義理、人情、プレゼント)営業』と呼ばれる文化もあるようだ。最後は営業員のモラルの問題で、契約者側も気を付ける必要がある」と話す。

 ◇女性営業員が署名代筆

 「○○さんと食事。肉しゃぶコース」「○○さん くつ下を2足プレゼントしてもらう」。福岡市の男性(82)の日記には、大手生命保険会社の女性営業員が男性宅を頻繁に訪れていたことを示す記録が残されている。

 男性は2015年11月、毎年の生存給付金767豪ドル(当時のレートで約6万5000円)と死亡時の保険金約5万6000豪ドル(同約480万円)を受け取る生命保険を契約し、保険料500万円を一括払いした。追加契約を勧められた男性は16年2月、口座から約400万円を引き出して約140万円を保険料として振り込み、残り約260万円は営業員が持ち帰った。

 しかし、16年12月に保険証書が届き、追加分の保険が考えていた内容と違うことに気づいた。子供らの死亡時に男性が保険金を受け取ることになっており、契約書に必要な子供2人の署名などは営業員が代筆していた。

 男性側から指摘を受けた保険会社は契約を取り消して保険料約140万円を返金。預けた約260万円については「営業員が受領を否定している」と返金に応じず、男性側は同社を相手取った損害賠償訴訟を検討中だ。男性は「子供に少しでもお金を残そうと思い、営業員を信じていただけに悔しい」と話す。

 男性の代理人の米田宝広(たかひろ)弁護士は「内容を十分理解せず高額の保険料を払っていた。同様の高齢者は多いはずで金融庁は対策を強化すべきだ」と話している。

 ◆相談内容の一例◆

<東北地方の80代女性>3年前に認知症の診断が出ているが、月2万円の生命保険を契約させられた。認知症発症時の特約まで付いていておかしい(息子からの相談)

<九州北部の70代女性>「子や孫にお金を残せる」と勧められて約10件の生命保険を契約し、年金から月10万円を支払っている。あまりに高額だ(娘からの相談)

<東海地方の70代男性>1500万円の一時払いの外貨建て終身保険を契約させられた。やめたいが、4年後に解約できるから待つべきだと説得された(妻からの相談)