都市部で新築ブームが続く一方で、中古物件の老朽化や入居者の高齢化も進むマンション。住人の死去や転居で空室が増え、管理費徴収もままならず、最近の人手不足で管理員のなり手がいない。あなたの自宅が、そんな“限界マンション”になれば、ゴミ屋敷やスラム化への道が待っている。



「マンションは施設の老朽化と住民の高齢化という二つの『老い』に直面していますが、もう一つ進む老いがあります。清掃や点検を担う管理員の高齢化です」

 こう話すのは、不動産コンサルティング会社「さくら事務所」の土屋輝之さん。マンション管理のコンサルタントとして、住民らの課題に向き合ってきた。

「ここ数年は毎年10万戸前後が新規供給され、マンション数は増えています。一方で、常駐・通勤の管理員の担い手が足りません。管理会社は人材確保のため、定年を延長したり、採用年齢を引き上げたりしています。その結果、管理員が高齢化しているのです」

 マンション管理業協会が3月にまとめた調査によると、会員の管理会社の過半数が管理員採用が難しいと答えた。特に、勤務時間週30時間未満の通勤管理員は、6割超が「大いに不足」「やや不足」と答えており、不足感が強かった。

 協会の関西支部長、鈴木清・阪急阪神ハウジングサポート社長は「当協会が協力している公益社団法人大阪府シルバー人材センター協議会の管理員技能講習は、50人の枠に200人以上の応募が普通でした。それなのに、ここ数年は応募段階で定員割れの状態。実際に受講する人は40人を大きく割ることもある」と嘆く。

 さくら事務所の土屋さんも、こう指摘する。

「管理会社は業績アップのために新規受注が必要ですが、管理員を確保できずに受注を見送らざるを得ない例もあります。また、欠員となった場合などに後任者が決まらず、毎日違う代行管理員でしのぐケースもみられます」

 なぜ、管理員はそれほどまでに足りないのか。土屋さんが続ける。

「数年前まで、マンション管理員は定年退職した人や早期退職した人の第二のキャリアとして人気でした。しかし、この世代の人たちが管理員の求職市場に出てこなくなったことが、一因として考えられます」

 きっかけの一つが、2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法だ。希望者全員を65歳まで雇うことが企業に義務付けられた。このため、管理員の応募が多かった60代前半の求職者が減っているという。

 協会の試算によると、管理や清掃を担う現場従業員は約8万7千人。全体の半数は65〜70歳で、8割超は61歳以上となる。マンション管理は、シニア世代に支えられているのが実情だ。

 かつては50代の早期退職者が管理員として採用され、65歳まで働くことが一般的だった。今や65歳は定年でなく、採用時の年齢層になった。70歳を超えて働く人も増えている。

 協会調査部の笹島光広さんは、管理員不足の要因として近年の好景気についても触れる。
「どの業界も労働力が不足しており、シニア層を積極的に活用しています。シニア層にとっては仕事の選択の幅が広がりました。マンション管理の仕事は、相対的に魅力が薄れているのではないでしょうか」

■広がる採用難 直近3年で加速

 採用が難しくなった時期として、調査に回答した企業の4割が「1年超2年以内」、3割が「2年超3年以内」と答えた。全体の8割の企業は、直近3年で採用が難しくなったと認識していることになる。

「団塊世代が75歳以上となる『2025年問題』が近づくにつれ、事態はさらに深刻化すると考えられます。さすがに75歳を超えてできる仕事ではないし、70歳でも相当体力のある方でないときついと思います」(笹島さん)

 管理員室に座っていて、何となくラクそうと思われやすい仕事。しかし、現実はそうではないようだ。

 マンションの規模や管理組合との契約で業務内容は異なるが、管理員室の席を温める暇もないほど忙しいことも珍しくない。こうした仕事のハードさも、人手不足に拍車をかけている。

「管理業務は、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)の激務です。その割に待遇が良くないし、給与も上がっていない。割に合わないからやめる人が多く、離職率も高い傾向です」(さくら事務所の土屋さん)

 朝、ゴミ収集に間に合うようにマンションに出勤し、ゴミ置き場のゴミを収集車が来る場所へと運ぶ。分別されていないゴミは、管理員が改めて分別する。回収が終わると、ゴミ置き場の清掃。その後、共用部分の清掃や設備などの巡回点検をする。高層マンションだと、階段を上り下りし、すべての階を清掃・巡回することも珍しくない。この仕事に就くと、何キロもやせるという人が多いという。(森田悦子)

※週刊朝日  2018年4月27日号