ニューヨークにある米国自然史博物館には、暗闇のなか蛍光に輝く巨大な石板が展示されている。

 鮮やかな色に心を奪われがちだが、この石板が貴重な理由はそれだけではない。およそ12億年前、今はもう消えてなくなった海の底で形成されたものなのだ。古代の海では、金属を豊富に含んだ物質が熱水噴出孔から噴き出し、海底に堆積して層を作った。この物質の成分がちょうどよい具合に混じり合った結果、堆積層は紫外線を当てると蛍光を発するようになったのだ。

 かつて地球には、イアペトゥス海、レイク海、テチス海、パンサラッサ海、ウラル海といった海が存在しては消えていった。この石板は、地球の海が数十億年という長い時をかけて形を変えてきたことを伝えている。その変化は、休むことなく活動を続けるプレート運動によってもたらされたものだ。そしてそれがドミノ効果のように、多様な鉱物を生み、海流を変え、生物多様性を育むなど、地球上のあらゆるものに影響を与えてきた。

 科学者たちは、この石板のようにはるか昔の海底にあった岩石や、その他の地質学的手がかりをもとに、古代の海を地図上に描き出すことに成功した。今ある海も、かつて存在した海と同様にいずれは消滅し、新たな海が生まれることだろう。

海底に刻まれた手がかり

 私たちの地球を覆うプレートはたえず移動を続け、それに伴って山が隆起し、谷が削られる。英リーズ大学でプレートモデルを作成するアンドリュー・メルディス氏によると、海もまた「アコーディオンのように」開いたり閉じたりを繰り返している。

 プレート運動を起こしている原因の一つが、海底にある「沈み込み帯」と呼ばれる場所だ。ここでプレートは別のプレートの下に沈み込み、陸地もそれにつられて引っ張られる。すると、両側のプレートにのっている陸地の間隔が狭まり、その間にある海が小さくなる。沈み込んだ海洋プレートは、地殻の下のマントル内でリサイクルされる。

 陸地同士はやがて衝突し、海は消滅する。冒頭の石板もそうやってできたもので、米国ニュージャージー州オグデンスバーグで採取された。その昔、北米大陸の前身である大陸と古代の別の大陸が衝突し、間にあった海が消えた。衝突の影響で海底の堆積層は高温高圧で熱せられ、例の石板が出来上がった。

 だが、陸上で古い海底の残骸が見つかることは珍しく、それだけで海の変遷を知ることは難しい。そこで一部の科学者が注目したのが、海底に刻まれた磁性鉱物の記録だった。

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