東京弁護士会から2カ月の業務停止処分(10月11日〜12月10日)を受けたアディーレ法律事務所。抱えていた依頼者は数万人になるとみられるが、契約を解除しなくてはならず、依頼者への影響が懸念されている。
東京弁護士会が設置した臨時電話相談(03-6257-1007/平日午前9時〜午後5時)には、発表後の2日間でざっと2000件ほどの連絡があったという。
依頼者は今後、大きく分けて、(1)別の弁護士に依頼するか、(2)担当だったアディーレの弁護士に個人契約に切り換えてもらうかを選ぶことになる。
●依頼者はのべ5万人超、最大で10万人前後になる可能性も
アディーレは2004年10月に設立された。CM出稿や全国展開で知名度を上げ、現在は全国86拠点、180人を超える弁護士が所属している。拠点数は国内最多、所属弁護士数は国内第6位だ。
同社のプレスリリースによると、設立約6年半後の2011年2月に法律相談件数が5万件を超えた。以後、相談は加速度的に増え、今年3月には40万件を突破。6月には45万件を超えており、この間は1か月で1万5000件以上も増えていたことになる。
大雑把ではあるが、過払い金を含む民事訴訟の平均審理期間が8.6か月であることから推計すると、受任率が30〜40%程度だとしても、今回の業務停止で影響を受ける依頼者は、のべ5万人前後。受任率次第では10万人近くになる可能性もある。「のべ」なのは、1人で複数の相談をしている可能性があるためだ。
●依頼者の取るべき行動は大きく4つ
今回の処分により、所属弁護士が個人で受任していたものを除き、アディーレが法人として受けていた契約は解除しなくてはならない。
アディーレの広報によると、現在は依頼者に書面を発送中。処分の説明と解約を求めるものとみられるが、具体的な中身については答えられないという。「『対応中』以外のことは話せないんです」
東京弁護士会によると、現在、依頼者が取るべき行動は、(1)このアディーレの通知を待つ、(2)アディーレ(担当弁護士)に連絡する(代表番号は不通)、(3)東京弁護士会の臨時電話相談(03-6257-1007)にかける、(4)自分で弁護士を探すーーの大きく4つだ。
依頼者にとって、一番負担が少ないのは、アディーレの弁護士が引き続き担当してくれることだ。日弁連の規定では、依頼者からの求めがあれば、アディーレの弁護士が個人として契約を結び直すことは可能。ただし、自ら委任を求める働きかけをしたり、法人が主体になって引き継ぎさせたりしてはならない。
しかし、どこからが「働きかけ」になるかは微妙なようだ。たとえば、今回のような場合、依頼者に経緯と今後取るべき対応を伝えるのは、最低限の誠意だろう。その際、「別の弁護士を探すか、契約を切り換えれば、担当弁護士が継続して引き受けることもできる」などと説明した場合、どうなるか。東京弁護士会に尋ねたところ、「微妙な問題ではっきりとは回答できない。個別の表現による」とのことだ。
アディーレとしては、業務停止中に目をつけられるような行動は控えたいはずで、これでは依頼者に正確な選択肢が示されない可能性がある。
これに対し、依頼者からアディーレや担当弁護士に連絡し、「継続して担当してくれ」と頼む分には問題がないという。
●地方の依頼者に十分な対応が困難…問われる弁護士会の対応
一方、東京弁護士会の臨時相談では、希望があれば新しい弁護士を紹介している。しかし、紹介できるのは、東京弁護士会の所属弁護士のみ。アディーレは全国に拠点があるのに、これでは地方の依頼者には対応できない。そもそも、万単位とみられる依頼者の相談をさばき切れるかという問題もある。電話対応も平日の日中のみしか行っていない。
業務停止処分にするにしても、依頼者目線で考えて、十分な方策を練ってからの公表だったと言えるのか。処分を下した以上、東京弁護士会の対応も問われている。
たとえば、広島弁護士会では10月13日、HPに「依頼している法律事務所が業務停止となったら」とするお知らせを掲載。弁護士会の法律相談センターの活用も検討するよう呼び掛けている。全国の弁護士会でも同様のアナウンスが必要ではないか。
なお、東京弁護士会によると、弁護士法人が業務停止になることは珍しく、前回は2011年の除名と業務停止1年の各1件にさかのぼるという。
●池袋「アディーレ本店」を訪ねたところ…
10月11日に処分が発表されると、アディーレのHPはアクセスできなくなった。
翌日、アディーレの本店が入る東京・池袋のサンシャイン60を訪ねたところ、1階のテナント一覧の中に、アディーレのプレートはなかった。33階の受付前にも、「弁護士会からの業務停止処分についてのお詫びとお知らせ」というA4紙の掲示があるだけ。記載された代表番号にかけても、虚しくコール音が響くだけだ。事務所の存在を示すものは一切消えていた。
これも日弁連の基準で、原則として業務停止中に看板を掲げたり、事務所を使ったりしてはいけないことになっているからだ。
アディーレは処分を不服として日弁連に審査請求を行う。とはいえ、日弁連が判断をしない限り業務停止は解除されない。大勢いるアディーレの依頼者にどう対応するかは、弁護士業界全体の問題と言えそうだ。