教育落書き帳

教育とは何か…子どもの視点を尊重し、親、伴走者、市民の立場から語ります。子どもを語ることは未来への信頼と希望を語ること。

『フリーダム・ライターズ』(DVD)を観て思ったこと

2007年11月04日 | 「大人のフリースクール」公開講座


DVDで『フリーダム・ライターズ』という映画を見た
(原作:FREEDOM WRITERS 2007年制作)

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あらすじ: 1994年、ロドニー・キング事件を機に起きたロス暴動直後のロサンゼルス郊外にある、ロングビーチのウィルソン高校に赴任してきた英語教師エリン(ヒラリー・スワンク)は、問題が多く、基本的な学習能力さえない生徒たちを担当することになる。しかも、生徒たちの間では人種間の対立が激化し、むなしい争いが繰り広げられていた。(ヤフーの映画案内から引用) *******************************************************

これは実話に基づく映画である。以前、ニューヨーク市の現役の最優秀教師の書いた『バカをつくる学校』という書物を紹介したがそれが痛烈な内部批判だとすれば、これは1994年、ロス暴動から2年後、ロス近郊の人種問題の坩堝の劣悪な環境の中にある夢も希望もない救いようのないようなカリフォルニア州ロングビーチの底辺高校・ウィルソン公立高校に新任教師として赴任してきた“実在の”英語(国語)教師の実践の物語である。中には「米国版金八先生」という評もあるようだが作り物のやらせではない。

麻薬・マフィア・警察・暴力・離婚・貧困・銃声・人種差別・戦争…この明日のない環境の中で生まれ育った子どもたちは最初から夢を持って生きることを放棄している。明日がなければ子どもたちは学ぶこともしない。ただ刹那的に行動するだけである。やがてこの女教師の自分の生活を投げ打っての努力で(普通あり得ない行動だが、事実だ)、子どもたちは学ぶこと・考えること・本を読むこと・自分を表現することを覚え、それぞれの苦しい現実から、一歩一歩自分の足で歩き出す。やがてホロコーストの歴史を知り、社会の問題にも目覚めていく。そしてまだ存命の『アンネの日記』のアンネを知る老婆を呼ぶために資金調達の活動を行い、学校に招いてその話を聞く…。すべてがアンビリーバボーな出来事だが、これは映画の出来事ではない。それを実践した人がいたということだ

ここには「学ぶことは変わることだ」というテーゼがある。「知ることは目覚めること」なのだ。目覚めた後どうなるか?個人の意識が変わったところで彼らを取り巻く現実まで変わるわけではない。過酷な現実は依然としてあり、むしろより耐え難い圧力となって彼ら一人一人に迫ってくるかもしれない。が、確実に彼らは変わったのであり、現実は変わらずにあるとしても、彼らの今後の現実への向き合い方が変わってくるのである。それはすべて一人の新任の英語の女教師がその高校にやってきたことから始まったことだ。

今、そんな教師が日本にどれだけいるのだろうか。どんな教育システムを取り入れようと、教育に携わる者が腐っていては話にならない。「有給がとれないから…」と挨拶に来ることを躊躇する担任教師、声さえ伝えてこない教師、「うちの生徒がお世話になってます」とか「そちらで元気にやってますか?」の言葉もなく「××学校の○○ですが、△△の出席日数を教えてください」と数値だけを知りたくて電話をかけてくる教師…。現実にはそんな教師ばかりである。「教育基本法」だの「人権教育」だのと言う前に、心得るべきことがあるのではないか?