▼広島県教委の教育アンケートから
広島県教委は今年の8月、第1回教育モニターアンケートを行なった。アンケートの質問は、①子どもたちの行動や態度②暴力行為・いじめ・不登校③携帯電話の3分野。このうちの「不登校の原因や背景は主にどこにあると思うか」という質問に対して、県民・保護者、企業では「いじめ」が7割以上を占めたが、教員での1位は「無気力など本人にかかわる問題」(約35%)で、「いじめ」は3位の約40%であった。対して、「無気力など本人にかかわる問題」は県民・保護者、企業では3位であったという。
▼データをどう理解するか
この結果に対して、広島県教委側では、「いじめ」が一位となるのは「ドラマやニュース」の影響ではないか、「教員の自覚不足ではないと思う」という指導第3課のコメントを紹介している。因みに、「08年度の調査では、県内の公立中学校でいじめが原因の不登校は全体の2・2%で、全国でも2・5%だった」という。「はてさて、面妖な…」というのがまず浮かんだ第一の印象である。
▼教師もカウンセラーも生徒の本音を知らない
正直言って、子どもの側にいつもいるのは保護者である。学校の教員はその子が不登校になって学校に来なくなればもはやその子と直接触れ合うことはない。ただ教員の立場を「善」として当て推量するに過ぎない。それに、文科省の指導下で、各地域で不登校対策が“教育行政的発想”で進んだ結果、不登校問題はカウンセラーや相談室の担当者に受け継がれて、担任の教師が不登校となった生徒と直に触れ合うことは益々少なくなっているのが現状である。それに、カウンセラーや相談室の担当者にしろ担任から申し送られた判断を基準にして生徒と接することであろう。ここで蛇足ではあるが、教育行政側の自画自賛とは異なり、多大な不登校対策費をつぎ込みながら、大した成果をあげていないのが実情である。この辺りの施設でも閑古鳥が鳴いているところが多い。それに子ども達は子どもなりにその場に相応しい演技をする。担任の前では学校での評価を考えた良い生徒を演じ、カウンセラーや相談室の担当者の前では良き相談者を演じる。だから、生徒達はそういう関わりの中ではめったに生の声を伝えない。まして、市町村教委や県教委が各学校から申し送りされた情報をもとに判断したならば、まず核心に触れる生きた情報がそのまま伝わるとは考えられないことである。
▼問われる行政無批判のマスコミ報道
新聞やテレビ等はそういう情報がどのような経緯をたどって発信されているかも考慮せず、ただ無批判に流布させるか、ただ足して2で割るような報道しか出来ないのであれば、もはやそんな情報は何の役にも立たない。それどころか百害あって一利なしである。もはやその情報にどれだけの精度があるかも吟味せず、官が作り上げたぶら下がり情報をただ上から下に一方的に流せばいいという時代ではあるまい。それでよしとするマスコミのその姿勢こそ問われなければならない。
マスコミはどこまでそういう実態を知った上で報道しているのか(もし知っていて報道しているならマスコミの偏向報道になるし、知らないなら勉強 不足も甚だしい)ということだ。きるだけ不登校の実態に即した報道(不登校統計のからくりまで含めて)をやってほしいものである。
▼教育行政の空騒ぎの自画自賛
「不登校3年ぶり減 大学進学率50%超--09年度学校基本調査」──これは毎日新聞「新教育の森」の見出しである。その本文の一節にはこうある。「文部科学省が8月に公表した学校基本調査(速報)によると、08年度に30日以上休んだ「不登校」の小中学生は前年度比1・9%減の12万6805人で、3年ぶりに減少した。文科省が理由に挙げるのが、学校に配置したスクールカウンセラー効果だ。」第一、「前年度比1・9%減」がそんなに誇るべき成果か?
▼不登校の実態をリアルに見よ
ただし、こういう記述もある。不登校が少し減ったことで大騒ぎするよりも、こういう不登校の実態に目を向ける方が生産的であろう。
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「不登校予備軍」を含めれば、数字は大きく膨らむはずだ。日本学校保健会の調査では、教室に通わずに保健室で過ごす「保健室登校」の小学生は01年から06年の間に1・7倍に増加した。しかし、文科省の調査では、保健室や、スクールカウンセラーがいる相談室、市町村教委が設置する適応指導教室などに通っても出席扱いになる。学校や保護者が「病欠」として届け出れば不登校にはならない。
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この中には敢えて組み入れていないようにも見えるが、フリースクールに通う不登校生たちもいる。そういう生徒たちは学校や教委の傘下には入らないが、やはり基本的に「不登校」という数の中には入らない。
▼不登校に見せかけない学校側のからくり
それに、学校や教委傘下で保健室や相談室や適応指導教室に通っている生徒の半数近くは高校に入って脱落しているのではないか──これは高校中退のデータから──と考えられる。対して、フリースクールでは、たとえば当スクールの場合を例にすれば、ほぼ全員が高校に進学するし、社会参加にも成功している。この違いはどこから来るのか。
私たちフリースクールの側からすれば、「何でこんなに高校中退が多いの?」ということになる。そこには、不登校になって学校には行けなくなったものの、学校神話から抜け切れず、学校の都合で学校に振り回され続けている子どもの実態があるように思えてならない。実際、フリースクールに来ても当初の頃は、実質的な不登校状態であるにも関わらず、週に一度程度学校に顔を出すように言われて(ということは30日連続欠席にならないから不登校扱いにはならないことになる)行きたくない学校に足を運んでいるというようなことが確かにあるのだ。
▼不登校の陰には必ず「いじめ」がある
ちなみに、私どものところに来ている不登校生たちは、それが不登校のきっかけか否かは別にして、ほぼ全員といっていいほど過去にいじめられた体験を持っている。そういう意味では、「不登校の原因や背景は何か」というアンケートに対する答えとしては、「県民・保護者、企業」の方が圧倒的に実際に近い。「無気力など本人にかかわる問題」とする教員側の答えは、嘘偽りではないかもしれないが、全く実態を反映したものとはなっていないのである。教師という「色眼鏡」をつければ、生身の生徒が目の前で助けを求めていても、その姿も声も感知できなくなってしまうのだろうか。恐ろしい逆説である。
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不登校とフリースクール