教育落書き帳

教育とは何か…子どもの視点を尊重し、親、伴走者、市民の立場から語ります。子どもを語ることは未来への信頼と希望を語ること。

元厚生事務次官夫妻刺殺事件から思うこと

2008年11月25日 | 「大人のフリースクール」公開講座
「『誰でもよかった』という(秋葉原事件のような)無差別事件も不気味だが、動機と行為が乖離する犯罪も恐ろしい」とある警察幹部はうめいた――と新聞にあるが、今回の元厚生事務次官宅での連続殺傷事件の性格をよく表しているように見える。

34年前、自分が家族同様に思っていたペットが保健所で殺されたから――というのが動機(?)らしいが、それに直接手を貸したのは父親。常人(!)には理解しがたい事件である。もしかするとこの理由付けもその場任せの符丁かもしれない。

ただ、確かなことは、こういう事件を起こす人たちは、自己責任か否かを問わず、みな不幸な境遇にある人たちであるということ。不如意な人生を送ってきた人たちが起こした、無目的に近い一種の自爆テロである。これは一般に言われるところの、主義主張や目的など何かの社会的意味付けを持ったテロとは大きく違うところだ。

問題は――今回の事件は痛ましいばかりで、言葉もないが――我々の社会システムがそういう人間を排出するようになったということである。「彼は例外である」「異常である」で片付けられれば事は簡単である。が、現実は――これは極めて教育的な問題でもあるが――そういう青少年が今、大量に産まれつつあるということ。

今回の事件を見ても分かるが、彼らは決して思考力の低い人間ではない、むしろ高いが故に犯罪に走った側面が強いということもある。知的・理性的な側面では高度な能力を示しながら、人としての豊かな感情が育っておらず、時には理性を超えて抑えがたい感情に駆られて犯罪行為にまで走ってしまう。そういう若者が増えてきている。

教育的な観点や育ちの側面からは、たとえば発達障害・アスペルガーなどと診断されることが多いが、これが脳の損傷など本人に起因するものなのか、育ちの環境など外的なものに起因するのか、判断は難しい。精神科医の言葉も鵜呑みにするわけにはいかない。教育現場でもそういう子どもたちが増えているのを感じる。フリースクール等にもそういう傾向の子どもたちがかなりの割合でやってくる。

たとえば、私たちのフリースクール(フリースクール・ぱいでぃあ)にもそういう子どもが相談にやってきて、時には入学を許可することもある。ぱいでぃあの基本は、やがて社会参加できる子ども達の精神的・身体的・頭脳的側面からの支援を柱とし、「コモンセンス」の体得を目指しているが、時としてそういう目標に素直に従えない子どもたちがいる。だから、「君たちを支援しているのはやがてバランスの取れた社会人になってもらいたいからで、将来の犯罪者を育てるためにやっているのではない」という言葉が出てくることもある。

フリースクールには、学年でトップであった子も来れば、学校でついて行けなくなったボーダーの子も来る。いわば子ども達の集約された世界がそこから見えてくる。残念ながら、日本の社会は今、坂を加速度的に転がり落ちるように、「子ども破壊」の方向に向かっている。そんな感じがしている。

オバマ氏の勝利に思うこと

2008年11月07日 | 「大人のフリースクール」公開講座
アメリカ大統領予備選で民主党のバラク・オバマ氏が共和党のジョン・マケイン氏に勝利し、44代大統領に選ばれることが決まった。先の民主党予備選においてヒラリー・クリントン候補に勝利した時と同じく、アメリカ国民は「経験」や「実績」を掲げた他候補よりも、「変革」と「統合」を掲げるオバマ候補の熱意を信頼し選択したようである 国の指導者として始めて白人ではなく黒人を選んだことを含めて、現大統領のブッシュ氏の8年間の施策にアメリカ国民がいかに危機感を抱いたかを物語る。と同時に、人種的な偏見に囚われることなく、アメリカン・ドリームを復活させてくれる人物を求めたということでもあろう

彼はまだ47歳。だからこそ、彼の唱える「変革」等のスローガンが新鮮に、現実味を帯びて響く。長寿高齢化社会とはいえ、すでに隠居年齢の日本の首相・麻生太郎氏が「変革」と叫んだとしたらゾッとしないどころか、どんなアナクロ的なことをやろうとするのか怖くもある。そんなことからも、誰も彼には夢や展望のある未来社会を期待していない。

この違いはとても大きい。 アメリカという社会はいつも正しいとは限らない。しかし、誤れば正そうというバランス感覚が常に働いている。自衛隊トップの航空幕僚長がいまだに「日中戦争での日本の侵略や植民地支配を正当化」する感覚の日本とは大違いである。日本という国はいつになったら国際的なバランスをもって夢を語れる国になるのか。世界の孤児にならないことを祈るばかりだ。

オバマ氏は黒人のケニア人の父と白人のアメリカ人の母を持つが、異父・異母きょうだいが7人もいて、人種的にも多彩だという。だから、彼そのものが多民族・多宗教の統合の理念を体現している。そしてまたアメリカンドリームを体現して見せている叩き上げの政治家でもある。庶民の現実を知らない2世3世の議員でもないし、セレブでもサラブレッドでもない。

因習と旧弊で金属疲労を起こしている旧来の日本からの脱皮と変革はどうすれば可能なのだろうか。