日本語文章文法
文章は文として成立したものがあつまったものとする、複数の文からなる、という考え方である。その文とは何か。
章句の捉え方からすると、句が集まって章となるとする、漢語が考え方、とらえ方の背景にある。句は文芸で言うと歌句となって日本語には定着する。
文法の考えは近代になって文をとらえるように理論となって議論される。ここに翻訳文法として文典が編まれて文章と文の区分けがないままに、文の成分を説明するようになる。
※広日本文典(1897)〈大槻文彦〉四九二「言語を書に筆して、其思想の完結したるを、『文』又は、『文章』といひ、未だ完結せざるを『句』といふ」
これは日本国語大辞典に載せる文章の項にある用例である。そして、文に項目をたてて、次のように説明する。
>文法上の言語単位の一つ。文章・談話の要素。単語または文節の一個または連続で、叙述・判断・疑問・詠歎・命令など話し手の立場からの思想の一つの完結をなすもの。定義には諸説ある。西洋文法では、主語・述語を具えることが文成立の条件とされることがあるが、日本文法では必ずしもそれによりがたい。文章。センテンス。〔広日本文典(1897)〕
これは、次に見る定義でとらえられるようになる。
>時枝誠記(ときえだもとき)は、文章を語・文と並ぶ文法上の単位として考えるべきことを主張し、表現者が一つの統一体ととらえた、完結した言語表現を文章と定義した。
日本大百科全書(ニッポニカ)「文章」の解説
この経緯で文章の単位は文の単位として位置づけられるようになる。すなわち時枝理論の仮設によるところとなり、教育に功績ある学派のその系列に学校文法文章論などに継承されるが、おおくはそれより議論が行われない。
さきの項目筆者が、解釈するように、文章は拡大して元のままになってしまった様相である。時枝理論の概念過程を文章という作品にしてしまったのである。
>俳句、和歌の一句・一首は、いずれも一つの文章であり、これをまとめた句集・歌集は、編纂(へんさん)者の完結した思想があることにおいて、それぞれ一つの文章ということになる。[山口明穂]
『時枝誠記著『日本文法 口語篇』(1950・岩波書店)』
世界大百科事典 第2版「文章」の解説
ぶんしょう【文章】
>一つの文(センテンス)またはある脈絡をもって二つ以上の文の連続したものが,一つの完結体として前後から切り離して取り上げられるとき,これを文章という。文もそれ自体完結したものではあるが,文章の脈絡の中においては,低次の部分をなすにすぎない。長い文章では,いくつかの文が部分的にまとまって段落をなすのが普通で,小さい段落が互いに結合しつつしだいに大きい段落をなして,ついに一つの文章をなす。その各段階の段落も,それ自身文章と見ることもできる。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内の文章の言及
【文】より
…日常生活では〈文〉と〈文章〉とをあいまいに使うことが多いが,言語学などでは,英語のsentenceにあたるもの(つまり,文字で書くとすれば句点やピリオド・疑問符・感嘆符で締めくくられるおのおの)を文と呼び,文が(あるいは後述の〈発話〉が)連結して内容のあるまとまりをなしたものを文章(テキスト)と呼んで区別する。文とは何かについては,文法学者の数だけ定義があるといわれるほどで,とりわけ日本の国語学では,ただ定義を論じるのみならず,文の文たるゆえんを問おうとするようないささか哲学的な論議も従来から盛んに行われてきた。