悠遊漢字学で阿辻さんが言う。>故事から、負け惜しみとして強引な詭弁(きべん)をふるうことを「漱石枕流」と言い、日本語では「ソウセキ チンリュウ」 と。もとは、晋書孫楚伝に見える故事、八世紀に作られたと考えられる蒙求に、孫楚漱石 という表現で取りこまれた、と解説している。さてその頑固者のことであるが、チンリュウは読みの間違い、発音がこうであるというものはいないのかとコラムを結ぶ。どう読めばいいのか、中国語音で枕石漱流の語を、しんせきそうりゅう とするのか、すると、シンリュウソウセキをもとに、ソーセキシンリュウを言い張る者はいないのか、という話題になる。それがなぜに、チンとなったか、音韻のことになる。これも、ジンセキ からすれば、ジンリュウ となりそうなところ、シンは現在の中国人名でお目にかかったりする。枕と沈の文字による連想があるか、枕はしんと流されて、ちんとなって沈んでしまったのだろう、とでもいうか。
流れに「枕」し詭弁ふるう
阿辻哲次
日本経済新聞 朝刊
2019年4月21日 2:00
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中国・西晋時代の孫楚は、文才にすぐれていたが傲慢なところがあって、世間との折りあいがあまりよくなかった。彼は若いころから隠者の生活にあこがれており、あるとき自由気ままな生活に入りたいとの願望を王済という友人に語ったが、そのときうっかりして「石に漱(くちすす)ぎ、流れに枕する」生活をしたいものだ、といってしまった。
いわんとすることは「枕石漱流」、山中の手ごろな石を枕として眠り、清らかな谷川で口をすすぎたいということだったのだが、うっかりして「漱石枕流」と語順をまちがえたわけだ。
「川の流れは枕にできず、石では口を漱(すす)げない」と友人がまちがいを指摘すると、しかし孫楚は強弁して「『枕流』は汚らわしい話を聞いたあと耳を洗うため、『漱石』は歯を磨いてきたえるためだ」と言い張ったという。
枕の解説 - 小学館 大辞泉
ちん【▽枕】
[常用漢字] [音]チン(慣) [訓]まくら
ちん【沈】
[常用漢字] [音]チン(漢) ジン(ヂン)(呉) [訓]しずむ しずめる
日本国語大辞典
じんちょう‐げ[ヂンチャウ‥] 【沈丁花】
解説・用例
〔名〕
ジンチョウゲ科の常緑低木。中国原産で、庭木などとして観賞用に植栽される。高さ一〜二メートル。葉は長さ約一〇センチメートルの倒披針形で厚く、短柄をもち枝に密生する。早春、枝先に先が四裂した小さな筒状花が頭状に密生して咲き、芳香がある。雌雄異株。日本では雌株をほとんどみない。沈香と丁字の香りにたとえてこの名がある。ちょうじぐさ。はなごしょう。りんちょうげ。じんちょう。学名はDaphne odora 《季・春》
*尺素往来〔1439〜64〕「牡丹。杜若。沈丁花」
*日葡辞書〔1603〜04〕「Gincho〓qe (ヂンチャウケ)〈訳〉花の名」
*俳諧・毛吹草〔1638〕五「春の日でたきし匂ひか沈丁花(ヂンチャウケ)〈清親〉」
*日本植物名彙〔1884〕〈松村任三〉「ヂンチャウゲ 瑞香」
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ちんちょう‐げ[チンチャウ‥] 【沈丁花】
解説・用例
〔名〕
じんちょうげ(沈丁花)
日本国語大辞典より
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ちん〔字音語素〕
1 の類
【沈】
(1)水中にしずむ。おぼれる。下がる。おちぶれる。/浮沈、沈浮/沈没/沈下、沈降、沈溺、沈殿、沈湎、沈淪/撃沈、轟沈、自沈/沈魚落雁、沈鐘、沈船、沈金、沈朱/
(2)元気がない。/消沈、沈鬱、沈憂、沈滞、沈痛/
(3)おちついている。しずか。/清夜沈沈/深沈、沈深、沈潜、沈毅、沈重、沈黙/沈思黙考、沈吟、沈着、沈勇/
(4)物事に深入りする。おぼれる。/沈飲、沈荒、沈酔/
(5)久しい。長いあいだの。/沈痾、沈痼、沈年/〔呉→ジン〕ちん(沈)
【枕】
まくら。/枕藉、枕席/孤枕、高枕、氷枕/就枕、伏枕/枕上、枕頭/枕戈、枕肱、漱石枕流、枕腕