「日本は手遅れ」生物兵器の世界的権威が断じる理由

2020年03月17日 | Science 科学



「日本は手遅れ」生物兵器の世界的権威が断じる理由
日本は急げ、「対外情報収集力向上」と「隔離船病院の導入」
2020.3.9(月)
吉村 剛史
アメリカ 中国 政治 時事・社会



3月6日、武漢市のキリスト教教会を消毒するボランティアの人々(写真:AP/アフロ)
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(ジャーナリスト:吉村剛史)

 中国湖北省武漢市で発生し、瞬く間に世界に感染が拡大した新型コロナウイルス。発生当初から「兵器」の可能性も排除せず、危機感をもって情報収集に取り組むよう訴えてきた台弯出身、米国在住の化学者で毒物研究の世界的権威、杜祖健(と・そけん)氏(89)=英語名アンソニー・トゥー氏=が緊急来日した。

 滞在に同行し、改めてインタビューすると、杜氏は、諸状況からみて「武漢の病毒研究所で研究、培養していた新型ウイルスが何らかの不手際から外部に漏れたというのが一番適当な説明だろう」と推測。日本の初期対応については「すでに手遅れ」と断じた。

 杜氏は、今後は現状の感染拡大防止措置の強化、徹底などをはかり、治療薬の開発を急ぐとともに、日本の政権中枢に対しては国家レベルでの対外情報収集力の強化や、有事の際の隔離病院船の整備など、教訓を将来に生かすことの重要性を訴えている。

(参考記事)燻る「新型ウイルス=生物兵器」説、専門家が解説
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59197
米国CDCの専門家派遣申し出を黙殺した中国の意図

 米コロラド州立大名誉教授である杜氏は、新型コロナウイルスの感染拡大に対する各国・地域の初期対応について、早期に中国からの入境に全面的な制限を設けた米国、台湾の警戒感、危機意識の高さを評価。

 同時にロシア、北朝鮮でも初期対応が厳密だったことに着目しており、「いずれも生物・化学兵器研究に力を入れてきた実績から、防御意識も高い」と指摘した。


当初、新型ウイルスは武漢・漢口の市場で売られていた動物が発生源とされたが、ヘビ毒研究が本来専門の杜氏は、旧ソビエト連邦崩壊時、多くのロシア人らから「(ソ連の)生物研究所のヘビ毒を(横流しして売るので)買ってほしい」と依頼の手紙、電話があったといい、そうした自身の体験に照らし、「規律の状況などによっては、現場の人間が使用済みの実験動物を焼却せず、換金目的で市場に横流しするなどの行為はあり得る」とみている。

 杜氏はこれまでも、1979年に旧ソ連・スべルドロフスクの研究所から炭疽菌が漏れ、多くの市民が死亡した実例などから、「研究施設から病毒が漏れることはよくある」としてきた。
緊急来日し、持論を述べる杜祖健氏(筆者撮影)
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 加えて今回の新型ウイルス問題発生後、米国のCDC(疾病コントロールセンター)が伝染病の専門家を武漢に派遣し、感染拡大阻止に協力したいと申し出たことに対し、中国側が対応しなかったことも、「中国側には知られたくない事情があることが疑われる」とみる。
否定できない「実験中のウイルスが不手際で漏出」の可能性

 また、中国当局が1月末、中国科学院武漢病毒研究所に人民解放軍の女性少将、陳薇氏を派遣した点について、「女史は浙江大学卒業後に軍に入り、生物兵器に関連してアフリカでエボラウイルスなどを研究した人物で、中国軍事医学科学院の生物工学研究所長」「本来なら現地には医学の専門家を送るべきだが、中国で最も優れた生物兵器の専門家を送り込んだことは注意すべき動向」といぶかしむ。

「そもそも武漢病毒研究所のようなバイオセーフティーレベル4(BSL-4)施設を持つ研究所は、兵器レベルの研究、開発が主眼とみられる」「発症前にヒトからヒトへ感染し、一度発症して回復したのち、再び罹患するなどの特徴も蔓延阻止の対応を困難にしており、この点も人為を疑う要素」という。

 杜氏は「これらはいずれも間接的な、いわば状況証拠にすぎない。確かに生物兵器として危険な病源体やウイルスを培養するのだとしたら、つくる側は同時にワクチンや抗毒剤を大量に準備しないといけない」としつつも、「私見では新型ウイルスは実験、研究の途中で、何らかの不手際が発生し、武漢の研究所内から外部に漏れたのではないか。その説明が最も納得できると思う」と総括した。


 今回の日本の対応については、「感染拡大阻止のための初期対応としてはすでに手遅れで、未知のウイルスに対する情報収集に出遅れ、危機意識も低かった」とし、今後は、可能な限りの感染拡大阻止のために、「現状行っている外出や集会自粛などの措置の強化、徹底とともに、治療薬開発を急ぐことなどが現実的だ」とする。

 そのうえで、将来の同様の危機に備え、国レベルの対外情報収集力の強化をはじめ、「収容人員300人規模でもいいので、感染者やその疑いのある人を隔離できる病院船を3隻くらいは整備すべきではないか」と提言。横浜港停泊で世界的に注目されたクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の場合は英国船籍でもあり、またクルーズ客と、これをもてなす従業員らの意識が、感染者が出た後も切り替えられないまま船内で感染拡大したが、「感染者らを完全に隔離して医師らが対応しやすいような設計にする。平時は観光船などとして経済的に維持・管理し、自然災害などを含め、有事の際の病院船、隔離施設とすることを検討してもいい」と主張した。

 台湾出身の杜氏は、日本統治時代の1930年生まれ。父は台湾人初の医学博士号取得者として知られる杜聡明氏(1893~1986)だ。自身は化学者を志し、戦後は台湾大を卒後に渡米。スタンフォード大(博士)などで学んだ。

 専門のヘビ毒研究を下敷きに、長く米軍に協力し、毒素兵器、生物・化学兵器などに詳しく、オウム真理教によるサリン事件では、日本の警察に協力してサリン検出法などの情報を提供。こうした功績から2009年に旭日中綬章受章している。
杜祖健氏(筆者撮影)
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 また研究目的で2011年以降は、オウム真理教の教団内でサリン製造の中心人物であり、VXガス殺人事件にも関与した死刑囚と、刑執行直前まで面会を重ね、著書『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』(角川書店)などで事件の真相に迫った。

 2017年にマレーシア・クアラルンプール国際空港内で発生した金正男氏暗殺事件では、現場の映像をもとに、神経剤「VX」の顔面塗布方法が、実行したベトナム人女性、インドネシア人女性によって、それぞれ異なる種類の薬品を顔面上で混合させる手法であったと分析し、再び軍関係者らから注目された。


米軍と長くかかわってきた杜氏は、米国の情報収集力の大きさを体感しており、また今回の新型ウイルスへの初期対応で、中国を警戒してきた台湾の決断の素早さに注目。逆に日本の情報収集力の弱さ、危機感をもった動きの遅さを対照的にとらえている。

「2003年、中国広東省から感染拡大したSARSに苦慮した台湾では、早期にBSL-4施設を整備し、SARSウイルスをはじめ炭疽菌などを培養、研究してきた」と証言。実際、李登輝政権時代には中国の蘭州発とみられる口蹄疫で養豚業が打撃を受けたこともあり、続投が決まった蔡英文政権でもヒトや家畜なども含め、中国発の未知の病原に強い警戒心が根底にあった。
家畜や穀物を対象とする生物・化学兵器も開発されている

 また杜氏は「一般には知られていないが、台湾の研究所でもSARSウイルス漏出騒ぎが発生し、大事に至る前に収束させたことがある」とし、台湾がこの失敗からも危機管理能力を伸長させてきた点を指摘。
杜祖健氏(筆者撮影)
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 一方、日本はSARSや、その後のMERS(中東呼吸器症候群)の感染拡大でも直接の被害を受けておらず、対外危機意識の低さもあり、初期対応の多くが後手に回ったかっこうだ。

 杜氏は、「多くの病原体が、生物兵器として多くの国でつくられている。例えば(根絶した)天然痘は生物兵器の有力な候補者として準備されている。炭疽菌は実際に米国でテロに使用された。こうしてみると新型コロナウイルスが生物兵器の試作段階の漏出であっても不思議ではない」と推測。

「最近はヒトに限らず、家畜や穀物を対象とする生物・化学兵器、毒素兵器も研究対象になっている。相手が何を研究しているかがわかれば、その防衛方法を準備することもできる」と警鐘を鳴らしている。


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