新型肺炎で死者が出たフィリピンでドゥテルテと中国への反感が噴出

2020年02月12日 | フィリピン原住民のはなし 南方民族は阿呆だらけ


新型肺炎で死者が出たフィリピンでドゥテルテと中国への反感が噴出

2/12(水) 20:06配信

ニューズウィーク日本版
新型肺炎で死者が出たフィリピンでドゥテルテと中国への反感が噴出

フィリピンでコロナウイルスによる初の死者が発表された翌日、マスクを求める人々が薬局に押しかけた Eloisa Lopez-REUTERS
コロナウイルスへの対応で国が二分するフィリピン。最初の死者が出て以来、中国に遠慮して対策が遅れたように見えるドゥテルテ大統領への反感と中国に対する積年の恨みは強まるばかり

フィリピンは2月2日、昨年末に中国中部の武漢市で発生した新型コロナウイルスによる感染者1人の死亡を発表、中国本土以外で初の死亡例となった。このニュースをきっかけに、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領に対する国民的な抗議行動が発生し、中国系の国民に対する長い人種差別という傷がまた開いた。

【動画】空気感染が疑われ避難する香港のアパート

迅速なウイルス対策に及び腰ともみえるドゥテルテの態度は、中国政府に対する近年の融和姿勢と関係しているとみられており、ハッシュタグ#OustDuterte(ドゥテルテをやめさせろ)がツイッターでトレンド入りした。新型ウイルスの感染拡大は、ドゥテルテ政権に対する国民の信頼を揺るがせているだけではない。もともと緊張をはらんでいた一般フィリピン人とチノイと呼ばれる中国系フィリピン人、そしてフィリピン在住の中国人数十万人との関係を悪化させている。

中国系フィリピン人はフィリピン社会にうまく溶け込んでいるが、比較的裕福であることと、昔からエリート層に食い込んでいることから、折々に反感が向けられることがある。

ドゥテルテは当初、中国人の入国を制限したくないと発言したが、その1日後の1月31日に、感染地域である中国湖北省からの旅行者の入国禁止を発表した。2日後、入国禁止は中国、香港、マカオからのすべての外国人に拡大された。

ウイルスに感染した中国人2人が武漢から香港経由で1月21日にマニラに到着し、フィリピンの3つの州を旅した後に入院したのは1月25日だったから、入国禁止措置がとられたのは感染者の発覚からだいぶ後だったことになる。この中国人2人のうち男性は、2月1日にウイルスが原因で死亡した。

<及び腰の対策に広がる怒り>

2月7日の時点で、フィリピンでは3件の感染が確認されており、感染の可能性がある215人が監視下にある。

入国禁止措置が取られる前から、政府に対する反発は激しくなっていた。フィリピン国民は感染が国内に広がることを心配していたが、フランシスコ・デュケ保健長官は、中国の観光客の入国を一時的に禁止するという考えを拒否し、それは「政治的および外交的影響」を引き起こすと発言した。

政府の対応の遅さと、それに対する国民の抗議をきっかけに、ドゥテルテは中国に甘すぎて、フィリピン人の権利と主権の保護を犠牲にしているという長年の不満に火がついた、とフィリピン大学ディリマン校のハーマン・クラフト准教授(政治学)は言う。

ドゥテルテは人気のある政治家だが、フィリピンが領有権を主張する南シナ海に中国海軍が侵攻した際の緩い対応や、同海域に中国による人工島建設することを許したこと、大型のインフラ建設プロジェクトに関して中国企業の高利貸付契約に署名したことには批判が多い。

「大統領はフィリピン人を守ることより、中国の感情を傷つけることを気にしていた。そのせいでウイルスに感染した可能性のある人がたくさん入国したかもしれないという印象がある」と、クラフトは語った。


ネット上にデマが蔓延

ドゥテルテは、中国からの旅行者に対する入国禁止は、自分が中国政府指導層と「築いた友好関係を脅かす」ことに気づいていると、クラフトは言う。中国とアメリカに対するドゥテルテの態度を比べてみると大きく違うことがわかる。中国に対しては旅行者の入国禁止措置をためらったドゥテルテだが、アメリカに対しては強気で、フィリピンに派遣される米軍の法的な地位に関する協定を破棄した。きっかけは、麻薬密売の摘発に活躍した元国家警察長官のロナルド・デラ・ローザ上院議員のビザの発給をアメリカが拒否したことだった。

新型コロナウイルスの感染拡大に対するインターネット上の反応は、ドゥテルテを巻き込んだだけでなく、民族としての中国人を標的としたニセ情報を発生させている。それはインドネシアなど大きな中国人コミュニティが存在する国を含めて、世界中でみられる傾向だ。

一部のフィリピンの政治家にとって、本当の敵はウイルスではない。2月4日の上院における公聴会ではコロナウイルスに対する政府の対応が審議の対象となったが、一般国民はすでに政府のやり方は手際が悪く、動きが遅いとみなしている。クリストファー・「ボン」・ゴー議員は、偽のニュースをばらまくインターネットユーザーを厳しく批判し、彼らは「隔離」されるべきだと述べた。公聴会で、元上院議長のビセンテ・ソット3世は、コロナウイルスは西側が中国を攻撃するために開発した生物兵器だと主張する動画を議場で上映し、この陰謀説を「非常に興味深い」と表現した。

<加速する国民の不信感>

テオドロ・ロクシン・ジュニア外務大臣は動画を批判し、同時に中国政府のコロナウイルスへの対応を褒めちぎり、この病気は「中国の回復力と強さを証明している」と述べた。しかし、彼の讃辞は、ドゥテルテと中国の接近ぶりに不信感を抱くフィリピン国民にとって、同調できるものではなかった。

ウイルスへの対応も、国民の不信感を加速させている。1月26日にフィリピン赤十字のCEOであるリチャード・ゴードン上院議員は、コロナウイルスの感染拡大と闘うために、フィリピン製のマスク140万ドル分が中国に送られたことを明かした。フィリピン国民は、1月に発生したタール火山噴火の被害を受けた人々に、政府はマスクを提供しなかったことにすぐに気付いた。サルバドール・パネロ大統領報道官によると、無料のマスクを一般に配布する計画はない。

ドゥテルテの故郷であるダバオ市では、薬局ではマスクが品切れになっており、行商人がマスクを高値で売り歩いている。1月29日になっても中国福建省チンチヤン発の航空機がダバオにやってきたため、住民は激怒した。2月1日、フィリピンの英字紙は、中国からの旅行者が義務づけられた14日間の隔離措置を経ずにミンダナオの観光地に入ったと報告した。

サンスター・ダバオのコラムニストである中国系フィリピン人のタイロン・ベレズは、以前ダバオ市長を務めたドゥテルテが大統領になって以来、ダバオ市は地元の中国系フィリピン企業よりも中国本土のビジネスを優先し始めたと言う。反ドゥテルテ感情は、コロナウイルスの発生以降、ますます強くなっている、と彼は言う。





富を奪う「泥棒」

チノイと呼ばれる中国系フィリピン人は難しい立場に陥っている。彼らは中国との貿易では圧倒的に強いが、同時に自分たちをフィリピン人と思っている。中国系フィリピン人の商工会は、「フィリピン人は反中人種差別を控え、代わりに中国政府の透明性と優れた政治的意志を称賛すべきだ」と声明を出した。

フィリピンの人口の25%を占めるチノイは、反中感情が強まるたびその中心に立たされてきた。福建省の商人の子孫が多い中国系フィリピン人経営者たちは、代々、中国との経済的文化的な絆を大事にしてきた。そのために、ドゥテルテの政策を批判する人に疑われやすく、フィリピンに対する忠誠心も試されることになる。

フィリピンで働く中国人も多い。オンライン賭博業界だけで10万~25万の中国人不法労働者がいる、と業界筋は言う。一部の中国人の「無法な行い」と、中国人がフィリピン人の雇用を奪っているという認識が合わさって、フィリピンの人種差別の標的になりやすい。

たとえば、マニラのアダムソン大学は1月31日、「健康的でウイルスのいない環境」を守るため、中国人学生全員に14日間「自らを隔離」するよう命じた。大学は翌日、過去1カ月の間に感染地域を訪ねた人と言い直し、謝罪した。マニラでマスクを配る中国人グループを讃えるフェイスブック投稿は、人種差別的なコメントで一杯になった。中国人を、フィリピンから富を奪う「盗賊」と呼び、中国に帰れと書く者もいた。

チノイを含む多くのフィリピン人の願いは、コロナウイルス感染症の拡散と激化する反中感情が、これ以上悪くならないうちに共に封じ込められることだ。

From Foreign Policy Magazine

ニック・アスピンウォール





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