日々の恐怖 5月28日 不動産屋
1年半前の話です。
ぼくは不動産の販売をしているんですが、当時新人で、その時扱った中古マンションの話です。
このご時勢、住宅ローンを返せなくなってしかたなく売却、というのは良くある話で、そのときは、チラシの反応で査定をしてくれないかということで、依頼者のところに行った。
大阪の某市にあるマンションで、そのエリアは住宅街で、中高層の建物はそのマンションということもあり、すぐにそこへたどり着けた。
さっそく依頼者のところへ行った。
こういった借金苦の人はやはり暗い様子で、部屋も汚く、50代の白髪まじり、目が片方ちょっと違ったほうを向いてる、身寄りのない男性でした。
案件としては、債務超過(売却したお金をもってしても、住宅ローンを返せない)にはなっていなかったので、売却依頼を正式受理し、売却活動をしていくことになった。
そして、不動産業者の義務として、
「 自殺とかそういった類の、聞いたりあったりしてませんよね。」
と聞いたところ、
「 ないです。」
と言う返答だった。
債権がらみということもあり、早期に売却してしまわないといけないこともあり、相場よりある程度低めに売却金額を設定し活動しました。
しかし、なかなか買い手が見つからない。
新人だったので査定を甘くみてたのかなと思って、売主にも相談し徐々に金額を下げていくも、なかなか買い手がつかず、途方にくれてました。
しまいには、相場よりもありえないくらい低い売却金額になっていました。
その物件自体は8階建ての7階にあったので、ふと最上階からの景色を見てみようと思い、8階の廊下から外をみていた時に、突然後ろの扉が開きおばさんが出てきて、
「 あんた、何やってんの!」
っと強烈に怒られびっくりしました。
普段はスーツを着てることもあり、マンションの住人からも不動産屋というこもバレていることもあって、住民からは、
「 なかなか売れへんねぇ。」
とか、軽い挨拶程度のことはしてくれてたんですが、その時は様子が違いました。
あぁ変な人も住んでるなと、その時は思いました。
しばらくたって管理人さんとも仲良くなり、
「 あそこなかなか売れないんですよ。」
となげいてたところ、管理人さんが申し訳なさそうに口を開き、
「 半年前。
8階から、そこに近くに住んでる(マンションの住人ではない)おばさんが飛び降りたんよ。」
と言われました。
「 あんたがいつも通ってるそこ、綺麗になってるやろ。
そこに落ちはってん。」
ってことは、あの8階のあそこから落ちたんか。
だからおばさん狂ったように怒りはったんか。
と、ハっと気付きました。
当然、売主にも詰め寄り、
「 何でそのこと正直言ってくれなかったんですか!」
と言いました。
売主いわく、
「 売却額が下がるとお金に困るので・・・・。」
と言ってきました。
完全に自分の調査ミスということもあり、上司にはこっぴどく叱れました。
その後、原因がわかったこともあり、また金額が安いということあって、近くに住んでいる、自殺があったことも知っている夫婦に買い手が決まりました。
死者が最後にみた光景を、自分も見てたことにゾっとしました。
初めての体験で、この業界の怖さも改めて知った、そんな実話です。
自分も中古マンション買ったけど、『前』があるんじゃないかとドキドキなんだよなぁ。
実に興味深い話でした。
階も違うし現場も違うから関係ないんじゃ?と思うけど、そうはいかないんですね。
そうですね。
やはり1つの自殺がマンション全体に影響してきます。
ましてや近々にあったものは特に。
マンションの購入者は、将来戸建を購入することを考えている人も多いので、こういったことで相場が下がるのは、とても迷惑なことになります。
今回のケースは、本来1200万が相場の部屋だったんですが、結局はそこからマイナス350万に落ち着きました。
部屋がとても汚かったこともあり、フルリフォームもしなくてはいけなかった要因もありますが。
ちなみに、当該の部屋で自殺があった場合は、200万もいけば十分でしょう。
ほとんど価値がなくなります。
またほとんど業者が買い取ります。
こういった自殺は、完全に風化していない限り、我々不動産業者は買主に告知する義務があります。
俗に言う重要事項説明です。
悪質な業者の場合は、だんまりです。
法律すれすれな業者は、完全な自殺物件でない限り、マンションのどこかで自殺があったことも告知しません。
くれぐれも購入の際は、できるだけ大手の不動産業者で購入することをオススメします。
ちなみに、重要事項説明書には『転落死亡事故』という表記を当社は用います。
うちの場合は、
「 お客さんに自殺ですか?
どこからですか?
うちのベランダかすってますか?」
と聞かれれば、正直に答えています、知っている限りのことは。
ただもしかすると、どこぞの業者さんはその内容を聞かれても、
「 誤って落ちてしまったらしい。
ちょっと詳しいことはわからないですね~。」
と言うかもしれません、内容を知っている場合でも。
ただ必ずしも、安い物件が悪い意味の訳ありとは限りません。
持っていても仕方ないので、さっさと売ってしまいたいだけのケースも良くあります。
親から相続でもらった物件だとか、次の住む先が決まったのでとりあえず資金を作りたいとか、事情は様々です。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ