大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 5月27日 憑

2014-05-27 20:05:28 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 5月27日 憑



 今年の2月下旬、出張で都内のビジネスホテルに泊まった。
翌朝、同僚と一緒にホテル一階のレストランでモーニングを食べていると、ホテルの前にパトカーが止まり、警察官が駆け込んでくるのが見えた。
何だろ?と思っている間にパトカーがどんどん増え、レスキューまで来たので、

「 ちょっと見てくる。」

といって、同僚を残してホテルの前の道路に出た。

 外ではレストランの窓からは見えなかったが、救急車や覆面パトカーなどが列を作っていて、多くの通行人が立ち止まってホテルを見上げていた。
俺もつられて見てみると、ホテルの屋上に手をかけて、人間がぶらさがっているのが見えた。
外壁を足で蹴り、這上がろうとしているのかバタバタと動いている。ちなみにホテルは十数階建てだった。
 びっくりしてしばらく見ていたが、このままだと嫌なものを見るハメになると気付き、レストランに戻ることにした。
席に着いた俺に同僚が、

「 何だった?」

と聞いてきたので、

「 屋上から人がぶらさがってる。」

とだけ答えた。

 同僚は驚いた様子だったが、外に見に行こうとはせず、なんとなく会話もなくなって二人で飯を食べてた。
そのまま五分くらい経って、何の動きも無かったので助かったのかな、と思った瞬間、バーン!という大きな音が聞こえた。
思わず同僚と顔を見合わせる。

「 落ちたね・・・。」

同僚が呟くように言い、俺も頷きながらそのまま無言で食事を続けた。
 しばらくして、警察官がレストランの窓の外に青いビニルシートを貼り付けだした。しかし窓がでかかっため、シートでは全て隠すことはできず、隙間から外を見ることができた。
俺は窓の横の席だったが、なるべく気にしないようにしてコーヒーを飲んでいたが、間もなく消防隊員がタンカを持って窓の横を通るのが見えた。
 見たくなかった筈なのに、自然と目が吸い付けられる。
タンカに乗せられ、白いシーツを被せられた人型の盛り上がりが目に入った。
顔まで被せられてるのは死んでいるからだろうか?
時間にすれば一瞬だったが、シーツの白さがやけに瞼に残って気持ち悪かった。

 二日後、出張を終えて会社に戻り、週末と重なったので月曜日に久しぶりに出社したところ、同僚が休んでいた。
体調が悪いとのことで、同期の女の子に、

「 東京で悪い病気貰ってきたんじゃない?君は大丈夫?」

とからかわれたが、出張中は特に調子の悪そうな様子は無かったので、不思議に思った。
 仕事が終わり、見舞いがてら様子を見に行こうと、同僚が住むマンションに立ち寄った。
エレベーターで七階に上がり、同僚の部屋を訪ねると、目の下にクマをつくった、異様に疲れた表情の同僚が迎えてくれた。

「 大丈夫か?飯は食べてるか。」

俺が聞くと、同僚は軽く笑った。

「 ああ。外に出れないから、買い置きのインスタントばっか食べる。」
「 そんな悪いのか?じゃあ何か買ってくるよ。何がいい?」

尋ねる俺に、同僚は泣き笑いみたいな表情を見せた。明らかに精神的にやばくなってるようだった。

「 でれないんだよ。エレベーターでも、階段でも、アイツがいるんだ。」
「 何?アイツって誰だよ?借金取りか何かか?」
「 そんなんじゃないよ!!何で俺なんだよ、何で・・・。」

同僚はそのまま泣き出してしまった。
 ラチがあかないと思った俺は、取りあえず飯でも食おうと外に誘ったが、同僚は外に出ることを激しく嫌がった。
冷蔵庫の中身はほとんど空で、買い置きも無い様子だったので、仕方なく俺は買い出しにいってくると告げて、玄関の外に出た。
 同僚の様子を会社に連絡するか、それとも両親に知らせるか、などと考えながらエレベーターを待っていると、下から上がってきたエレベーターが目の前を通り過ぎていった。
エレベーターは扉がガラスになっていて、外からでも中を見ることが出来た。
通り過ぎていくエレベーターの中に、子供のような低い姿が一瞬見えた。
 エレベーターは最上階に止まったまま、なかなか降りてこなかった。
5分くらいしても降りてくる気配のないエレベーターに嫌気がさして、階段で降りることにした。
七階だが、下りならそれほど苦でもない。
 階段のドアを開けると、普段あまり使う人がいないためか、空気が淀み埃がたまっていた。
しばらく降りていくと、下から誰かが上がってくる音が聞こえた。
階段使う人もいるんだな、と少し驚きながら降りていくと、下から上がってきたモノとすれ違った。
 それは、子供ほどの身長だった。
顔は中年の女。
どこにでもいそうな顔だが、位置が違う。
顔は本来あるべき場所より遥か下の、ミゾオチのあたりにあった。
強い力で頭を押し込んだような感じといえばいいのか?
腕はやや上向きに開いており、歩くたびにユラユラ揺れていた。
 俺はあまりのことに息を呑んだ。叫ぶこともできなかった。
足が固まり、悪夢でも見ているかのような思いだった。
女は硬直した俺の横を、ヒョコヒョコと階段を登っていき、やがて音も聞こえなくなった。
 俺は金縛りが解けたように大声で叫ぶと、無我夢中で階段を降り、マンションから逃げ出した。
コンビニまで走り、明るい場所で同僚に電話した。俺は慌てまくっていたが、同僚は以外に冷静だった。

「 あれ、飛び降りた女だよ。
あの時タンカなんか見るんじゃなかった。
運ばれていくアイツと目が合ったんだ。
潰れてめり込んだ顔で目だけがやたら大きく見えて・・。
あんなに警察や消防がいたのに、何で俺なんだよ。」

そう言って同僚は大きくため息をついた。
 しばらくして同僚は会社を辞め、田舎に帰った。
実家は平屋なので安心すると言っていた。
不思議なのは、同僚はタンカに乗せられた女を見たと言っていたが、タンカには確かにシーツが被せられ、人は見えなかった筈なのだ。
 俺はあの日以来、なるべく階段は使わないようにしている。
またアイツとすれ違ったらと思うと、怖くて使えない。











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しづめばこ 5月27日 P303

2014-05-27 18:48:28 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月27日 P303  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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