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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 5月13日 トイレ

2014-05-13 19:42:41 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 5月13日 トイレ



 俺は20代前半の頃、ある有名メーカーの工場に勤めていた。
その工場のトイレでの体験談。
その工場にはいくつもトイレがあるのだが、1つだけ全く使われていないトイレがあった。
 そのトイレは2階建ての工場の2階の北側にあり、俺はそのトイレがある2階フロアで仕事をしていた。
同じ2階フロアで働いている従業員は皆、フロア南側にあるトイレを使用していた。
どんなに行列が出来ていても、南側だけしか使用しなかった。
 休憩の時間、その工場に入って間もない俺はいつもの話し相手、勤務年数15年のおじさんになぜ皆、北側のトイレを使わないのかと訪ねた。

「 あそこは出るんだよ。」

普段は気さくで冗談ばかり言うおじさんが真面目な顔で、そう答えた。

「 またまた~、いつもの冗談でしょ~?」

みたいな感じで返すと、

「 あそこの便所だと糞のキレが悪ぃんだ!」

と、笑いながら答えた。

“ やっぱりいつもの冗談だ。”

真面目な顔で言うもんだから一瞬は本気にしてしまったが、いつもの冗談だった。
 休憩の時間が終わり作業に戻ろうとした時、

「 でもホントにあそこの便所には近づかねぇ方がいいぞ。」

そのおじさんが、さっきよりも真面目な顔で言った。

“ いい歳したおっさんが真面目な顔して何言ってんだか。
はいは~い。”

ってな感じで、空返事をして作業へ戻った俺だったが、作業中もずっとあのトイレの事が気になっていた。


 ある日の朝の事だった。
出勤して作業着に着替えていた時だった。
突然の腹痛に襲われた。
 トイレに行こうと思ったのだが、更衣室がある1階のトイレは更衣室からは結講な距離がある為間に合わない。
階段を登ったすぐの所にある、2階南側のトイレの方が近いということでそこへ向かう事にした。
 着いたは良いが、個室が全て埋まっていた。

“ これはヤバい。
いい歳して漏らしてしまう。”

切羽詰まった俺は、無意識に例の北側のトイレに向かっていた。
その時、おじさんの言葉を思い出したが、そんな事を言っている場合では無かった。
 北側のトイレに着くなり、猛ダッシュで一番手前の個室へ。
なんとか間に合った。
用を足し終え、さっきまでは必死だったので気付かなかったが、この個室、やけに暗い。
蛍光灯は点灯しているものの、トイレに駆け込んだ時と違い、やけに暗い。

“ 気のせいか?”

と思いつつ、ズボンを上げトイレを出ようとした時だった。

“ カラカラカラカラ・・・。”

誰か入って来たらしい。

“ ジャァァァァァ、バタンッ!
シュコシュコシュコシュコ。”

ブラシで床を磨く様な音がする。

“ 掃除のおばちゃんか?”

俺は水を流し個室を出ると、そこには清掃員用の青い作業着を着て白い三角巾を付け、マスクをした背の低いおばちゃんがブラシで床を磨いていた。
そのおばちゃんに、

「 おはようございます。」

と挨拶をすると、おばちゃんは、

「 おはようございます。」

と、マスクで顔は覆われているものの、笑顔で返してくれた。
その時見えたネームプレート。
「K」と書いてあったのを覚えている。
朝礼が終わり、俺は作業に取り掛かった。
 休憩の時間、いつものおじさんと話をしていた。
今朝、北側のトイレ使った事を話した。
するとおじさんは、

「 なんかおかしな事は無かったか?」

と、真面目な顔で聞いてくる。
 特におかしな事は無かったとは思うが、やけに個室が暗かった事と、掃除のおばちゃんに挨拶をしたと答えると、

「 お前、よくそんな状況で糞したな。」

と。
どういう事か訪ねると、

「 そのKっていうおばちゃん、もうこの世にはいねぇよ。」

“ は?”

って感じの顔をしてると、おじさんは続けた。

「 あのトイレの個室で自殺したんだよ。首吊って。
しかも、お前が使った一番手前の個室でな。」

またこのおじさんは適当な事ばっか言いやがって。
悪い冗談はよしてくださいと言うと、

「 いや、これはホントの話だ。
そのKっていうおばちゃんの事もよく知ってる。」

と、寂しい表情で語り始めた。
 おじさんの話によると今から8年前、そのKさんって人はこの工場の清掃員として働いていた。
おじさんはよくKさんと雑談をしていたらしい。
 雑談をしていた時だった。
Kさんが急に泣き出したそうだ。
おじさんが、

「 何があった?」

と聞くと、旦那からDVを受けているとの事だった。
毎日が地獄のよう、死にたい等と話していたという。
 おじさんは、それは警察に通報した方がいいと言ったのだがKさんは、

「 そんな事したら旦那に殺される。」

と、言ったそうだ。
 それから数日後、今まではDVを受けていたなんて見た目では解らなかったのだが、顔に痣を作りながら清掃するKさんの姿があった。
日に日に増える痣。
 Kさんはそれから程無くして、マスクをするようになった。
おじさんは毎日声をかけていたのだが、Kさんは無理した笑顔で会釈をするだけだったらしい。
そして、事件が起きた。
 ある日の朝、例の北側のトイレで用を足そうとした従業員が発見してしまった。
一番手前の個室で首を吊って死んでいるKさんを。
 しばらくの間、北側のトイレは使用禁止になっていたらしいが、いつの間にか禁止が解かれていたそうだ。
それからの事だった。
北側のトイレにて幽霊が目撃されるようになった。
 清掃員用の青い作業着を着て白い三角巾を付け、マスクをした背の低いおばちゃんが清掃をしている。
ネームプレートには「K」。
 あまりにも目撃されるので、何度かお祓いもしたらしいが、全く効果無し。
そこからは誰も北側トイレに近づく事は無かった、清掃員すらも。
 しかし不思議な事に、誰も清掃していない筈のそのトイレ、なぜが常に綺麗な状態だという。

「 Kさんが毎日掃除してくれてんのかもしんねぇなぁ。」

おじさんが笑いながらそう言った。
俺は何となく、悲しくもいい話だと思った。

「 あ、そうそう・・・。」

おじさんが続けた。

「 あそこで死んだの、Kさんだけじゃねぇんだ。」
「 は?」
「 Kさんが死んでから3年くらい経った頃かなぁ。
従業員もあそこで首吊ってんだよ。」

 おじさんの話によると、その従業員(男性)は相当ギャンブルにハマっていたらしく、給料が出たら全額突っ込んでは借金を繰り返していたという。
その借金を苦に、Kさんと同じ北側のトイレ、一番手前の個室で首を吊ったらしい。
 目撃談にはKさんの幽霊の他に、首を吊った男性の幽霊の目撃談もあった。

「 お前さっき、やけに個室が暗かったって言ってたよな?」

と、おじさんがニヤけながら言った。

“ やけに暗かったのって、まさか・・・。”

 俺はその日から、北側のトイレを使う事は無くなった。
死人が2人も出てるのに、なぜ使用禁止が解かれたのかおじさんに訪ねたが、それは解らないとの事だった。
 俺があの工場を辞めて数年。
北側のトイレは、今も存在しているのだろうか。
未だに目撃されているのだろうか。













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しづめばこ 5月13日 P296

2014-05-13 19:42:17 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月13日 P296  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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