大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 5月1日 箱

2014-05-01 18:38:13 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 5月1日 箱



 親父の三周忌も過ぎたんで、親父と山の話を書いてみる。
同居していた親父が精密機械の会社を退職して2年目のことだった。
けっこうな退職金が出て年金もあるし、これからは趣味の旅行三昧でもするのかと思っていた矢先に、高校時代の友人から投資詐欺にあって、退職金の三分の二くらいを失ってしまった。
 その友人は指名手配になったものの消息不明になった。
もともとタイ在住だったんで、もう日本にはいないだろうと警察では推測してるような口ぶりだった。
 俺にしてみれば、まあ借金をこさえたわけではなく、元々ある親父の金を失ったのだし、まったくあてにもしてなくて、親父が好きに使ってくれればいいと思っていたんで、それほどショックはなかったんだが、親父の落ち込みようはひどかった。
 金額よりも、古くからの友人に裏切られたことのほうがこたえたんだろうと思う。
それからは何も手につかない様子で、家でぼうっとしてることが多くなった。
 その親父が急に、

「 山に行く。」

と言い出したんで嫌な感じがした。
旅行はするものの、それはパックの海外旅行がほとんどで、山登りとかには縁がなかった。
 俺の女房も、

「 自殺でも考えてるんじゃないか。」

と言うし、それで親父の予定の日がちょうど休みだったんで、俺もついていくと言ったら、なんか複雑な顔をしたけれども、しばらく考えて、

「 いい。」

と答えたんで、俺の車で出かけることにした。
 親父から聞いた目的地は隣県で、かなり時間がかかるんだが、山へ入るのは4時過ぎじゃないとだめだと言うんで、昼過ぎに出発した。
 3時間ほどでその町に着いたが、一言でいえばものすごい田舎だ。
その町外れまで来て、森の前の小さな神社のわきの空き地に車を停めた。
ちょっと意外に思ったのは、そこには十数台車が駐車されてて、中には高級外車なんかもあったことだ。
それから森に入って小径を歩き始めた。
 この間中、親父は押し黙った気まずい雰囲気だったが、それまでも山に行く目的とかは一切話してはくれなかったんで、せめてと思って山の名前を聞いてみた。
すると親父は、

「 ○○山。」

とぽつりと答えた。
 小一時間ばかりで、細い山の登り口のようなところに出たが、そこは注連縄のようなものが張ってあるし、私有林につき入山を禁ずという木の立看板もあった。
看板の上のところに、鮮やかな赤字で梵字のようなものが書かれていた。
 そのときは6月で4時過ぎていたけどまだ明るく、山は森にさえぎられてわからなかったけど、そんなに高いところではないという感じがあった。
登山道には古い木の板が埋められていて、傾斜もきつくはなく、登りやすかった。
60過ぎの親父でもそれほど息は乱れてない。
 10分ほど登ってくと、前に人影が見えてきた。
どうやら女性の二人組で、しばらくして追いついたが、高校の制服を着た女の子とその母親らしい女性だった。
母親のほうは洋装の喪服のようなものを着て、ヒールの高い靴で歩きにくそうだった。
 親父が何も言わないままその二人を追い越したんで、俺も体を傾けて、

「 お先します。」

と小声で言って前に出た。
その二人もやはり押し黙ったまま後ろになってついてくる。
 それから20分ほど登ると、ヤブを切り払ったようなちょっと広いところに出た。
まだ山頂ではない。
そこの大きな木を回ると洞窟の入り口が見えた。
やはり御幣のついた注連縄が上から垂れ下がっている。
高さ3~4mくらいのくぼみで奥は相当深いようだ。
 おぼろげながら洞窟の数十m奥に人の姿が見える。
数人並んでいるみたいだった。
親父は、

「 ここで待っててくれ。」

と言って、洞窟の中に入っていった。
 俺が近くの朽ち木に腰掛けてタバコを吸ったりしていると、先ほどの母子が追いついてきて中に入っていった。
それから40分ほど待ったが、その間に出てきたのが8人、様々な年代の人たちで女性も2人いた。
 どの人も白い布で包んだ箱を大事そうに持っていた。
そして親父が出てきたが、やっぱり白い布の箱のようなものを持っている。
出てくるなり俺の顔を見て、

「 やっとひとつ済んだ。」

と言う。
 俺が、

「 その箱は何?」

と聞いても、答えてはくれなかった。
 もうだいぶ暗くなっていたんで、急いで空き地まで戻って車に乗った。
まだ車は数台残っていた。
親父は後部座席に乗って、大事そうに箱を抱えて黙っていた。
 家に帰ると、親父はそれから二階の隠居部屋にこもって、食事も部屋まで持ってこさせるようになった。
そのくせ夜はひんぱんに外出する。
しかも、それまでなかったんだが自分の部屋に鍵をかけるようになった。
 夜の9時頃に家を出て0時過ぎに戻ってくる。
何をやってるかわからないが、靴や手が泥だらけになっていて、いつも帰ってきては入念に手を洗っていた。
 めずらしく親父が夕方出かけたとき、部屋の鍵が開いていたんでちょっとのぞいてみた。
すると机の上がかたづけられていて、そこに仏教風でも神道風でもない祭壇がこさえられている。
 あえていえば古代風といった雰囲気で、埴輪のようなものがある。
それに囲まれてあの白包みの箱があり、その前には10cmくらいの細い骨が積み上げられていた。
 俺は近寄って、悪いとは思いながらも箱をそうっと取り上げてみると、箱は意外に重く、なんだか生暖かい。
振ってみるが音はしない。
粘土のようなものが詰まっている感触がある。
 耳をあててみると、かすかにだが、とき、とき、というような音が聞こえてくる。
そのとき下で親父が帰ってきた音がしたので、あわてて部屋を出た。
 その夜、俺は家の中でタバコを吸わないように家族に言われてるんで、外の通りでタバコを吸っていると、耳もとで、

「 お前、あの箱にさわっただろう。」

と、ぼそっとつぶやく声がして、驚いて振り向くと親父が立っていて、

「 いいよ、もう済んだから、これで全部終わったから。」

そう言って、まだ60代なのにひどくよぼよぼした感じで家に戻っていった。
 その2日後の新聞に、親父をだました友人が海外で惨殺されたという記事が出た。
詳しい記事ではなかったが、ナイフで刺されたというようなことが書いてあった。
その後警察も家に来たが、犯人はわからず金も戻ってはこなかった。

 それから6年後に親父は肺炎で死んだが、いよいよ危ないと医者に言われて病院についていたときに、ふと意識が戻ったように目を開けた。
そのとき俺は、

「 親父、あの○○山って何だったんだ?」

と、ずっと気になってたことを聞いた。
すると親父は、鼻に酸素の管を入れられた状態で少し笑い、

「 ○○山じゃない、順番が違う。
古い遺跡、あとのことは墓場に持って行く。」

途切れ途切れにそれだけ答えると、眠ったようになってしまった。
そして、それから4日して息を引き取った。












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しづめばこ 5月1日 P290

2014-05-01 18:37:44 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月1日 P290  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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