風 雑記

建築とその周辺で感じたこと、思ったこと

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2006-02-28 17:59:59 | インポート

1_3 3_1 今日は地方裁判所に証人(民事)として出廷する日でした。ここ一週間ほどそのことが気になり、ブログも書けませんでした。

熊本地方裁判所正面の建物は約25年前、熊大の故木島安史先生達が保存運動をされ正面部分だけが残ったものです。欧米では当たり前のように町並みの中に古い建物が共存してますが、日本での保存運動は大変難しく、大半の古建築は取り壊されています。裁判所のある京町台は熊本城の丘陵部分につながった高台で、裁判所裏は急な斜面となっていて熊本市内が一望できます。

そのころ熊大の卒業設計が裁判所保存計画で幾つかの計画案を見せてもらいましたが、傾斜側からの模型やパースに熊本の景観にとって大切な建物だなと思った記憶があります。計画案を作るのにも多大の労力と時間が必要ですが、設計者は費やしたエネルギーが自分自身のためになるからと自己満足してしまう習性があります。今でも時々コンペに応募したりしますが、最近は住宅をコンペで決めるインターネットサイトがあり(未応募)、選ばれなかった沢山の案の時間と労力はまったく評価されません。知的作業を評価する傾向と軽視化する傾向が同時に共存していて複雑な心境です。

裁判所へ向かって歩いていくと、レンガつくりのガッシリした量感と緑青の銅版屋根が豊かな表情で迎えてくれ、見ていて安心感があります。ここへ来る人の多くは気の重い事情を抱えているはずで、威圧的と感じる人もいるかも知れませんが、私はこの建物の存在が全体雰囲気の救いになっており、残って良かったと感じました。