風 雑記

建築とその周辺で感じたこと、思ったこと

熊本市水道局

2011-11-09 10:58:15 | インポート

Zennkei Gaikann

村野藤吾設計の熊本市水道局が解体されることになり、お願いして見学させて貰いました。地下1階地上4階建て、鉄筋コンクリート造ですがRCの庇を鉄骨梁に乗せて跳ね出し、南北は3M、東西は4Mの軒の深さを軽快に見せています。この庇は西日や降雨対策となっている訳ですが、もしかすると村野氏はコンペの調査に熊本に来て、真夏の日差しの強さと「出も入りもならん」と言われる豪雨を経験し、その対策としてこの庇をコンセプトに提案したのではないでしょうか、じっくり見ていると設計者の並々ならぬ思いを感じます。先端の低い菱形格子は安全対策としての機能は無く、愛らしいデザインで庇のデザインを柔かくしています。1階の突き出された窓、2、3階の全面ガラス窓の細いスチール枠と木製の格子など独特のディテールは50年経ても瑞々しさを失ってません。

Hisasifensu Kousi

     庇先端スチール菱形格子              2、3階外部木製格子

3階の大会議室は複雑な合板折れ天井で、階高(3.2M)がそれほど高くない為工夫した設計になっていて、照明の蛍光灯を視覚から消す効果や空調の吹出口の確保など良く考られたディテールです。

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村野さんの設計は手で触る部分への気遣いが素晴らしいといつも思いますが、水道局でも取手が手作りで、使い易く、キチンとデザインされていることに感心しました。

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屋上階は機械室と階段ホールだけですが、機械室も全面ガラス貼りで、見えない所でも疎かにしないと言われるところです。

熊本市水道局は設計コンペで村野藤吾氏に決まったそうで、設計の潔さを感じる素晴らしい建物でした。すぐそばに住んでながら、中までじっくり見たのは初めてで恥ずかしい限りですが、無くなってしまうのはすごく残念に思いました。


10/23,24ヴォーリズ建築文化 全国大会IN東京

2011-11-08 14:19:11 | インポート

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10月23、24日東京白金台の明治学院礼拝堂でのヴォーリズ建築文化全国ネットワーク 全国大会IN東京に参加しました。

礼拝堂で建築史家の鈴木博之先生の基調講演「建築保存における記憶力と想像力」を聞き、建築の保存改修についての考え方や事例は興味深く、私たちは歴史的建築を次の時代へ橋渡しする役目を持ち、新しい技術で改変してはならないことと、建築は使われることで存在意義があると言われていて、同感でした。

明治学院礼拝堂は1916年(大正5年)ヴォーリズ設計で、途中祭壇前の両ウイングが増築され現在の姿になっています。2006~08年耐震補強、改修が行われ、現在の姿は最も充実した時期の姿に改修されました。改修の経緯と内容についてはヴォーリズ建築研究の第一人者の大阪芸術大学山形政昭教授から解説があり、外壁の耐震補強に鉄板を使ったとの事、壁面の耐震性を強化されて、屋根部分の木架構は変わってない様に見えます。もう少し詳しく知りたいので調べてみたいと思います。

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パイプオルガンも新調され、その経緯説明と演奏がありました。当初のパイプオルガンはドイツから輸入されたものです。80年経て取替えなければならなくなった訳ですが、西欧では4、500年は使っているそうで、痛みの理由は日本の気候だけでなく、産業革命後の生産体制にあったとのこと、現在スウェーデンの大学で古い技術を研究し、以前の技法で再現できるパイプオルガンが作れるようになって、その技術で復古されたパイプオルガンが造られたとの事です。古いパイプは錫に多少不純物が混ざって、管の形状も均一でなく下部が厚く、上を薄く作る以前の製法を苦労して再現して初めて音響的にも良いものになったそうです。

演奏はヴォーリズ作詞作曲の讃美歌とバッハのトッカータホ短調の演奏があり、礼拝堂一杯に響く音色は感動的でした。

礼拝堂での講演が終わり、学院の講義室で全国4ヶ所のヴォーリズ建築の保存改修事例報告と意見交換が行われ、今回の目的の一つだった慈愛園宣教師館とヴォーリズ建築との関係について質問しました。ご迷惑かとも思いましたが山形先生に写真、青図設計図などの資料をお渡しました。(その後先生からのお手紙で施工者の辻氏設計と考えられるとの事)

翌日、東芝山口記念会館(旧朝吹家)を見学、こちらも築80年ほど経て、最近大掛かりな保存改修がされ、内部まで見学出来るのは珍しいことのようです。(残念ですが写真掲載不可とのこと)外観はスパニッシュデザインですが、内部は英国風、改修で綺麗になっているので古びた感じは無くびしゃっと(熊本弁で立派)していました。半地下部のカウンターバーやワインセラーなど造作が凝っていて、階段の手摺や化粧枠などは直接米国から輸入したものらしく、当時としては凝った造りだったと思います。現在は東芝の賓客用のレストランとして使われています。

一泊二日で行ってきましたが、80年、90年経たヴォーリズ建築が全国で大切に使われていて、デザインやオリジナリティと言った個性は強く無いのですが、「住む人々の健康と福祉の立場に立って、使い易く、心配りした建築」と言われるように、最初の住み手から次の住み手へと所有者が替わっても愛され続ける建築の魅力があり、それは設計者の思いを住み手が感じるからだと思います。

建築の価値とは何なのか、斬新でオリジナリティ性が高い建築が価値が高いのか、それとも住み手の健康と福祉を考えた建築が価値が高いか、たぶん長く使われ、使い続けたいと思う建築の方だと思います。