風 雑記

建築とその周辺で感じたこと、思ったこと

フードバレーアグリビジネスセンター

2015-03-30 11:14:25 | 日記

  

昨年のプロポーザルによる設計者選定から取組んでいた熊本県フードバレーアグリビジネスセンターが完成しました。

この現場で大変だったのは、県産材のSGEC認証材を使用することによる木材の手配に加え、木工事になるべく手加工を使おうとプレカットとの混在があり、上棟が12月までかかってしまいました。 工期が厳しい状況の中建築、電気、機械の各施工者が頑張ってくれたお陰で、私としても納得の出来る建物が完成したと思っています。

  

  

フードバレーABCは県南農産物を活かし、食関連研究や商品化、六次産業支援など地域活性化を行う施設です。大きく分けて2つの機能があり、外部の農林水産業関係者との技術相談、交流、加工品の発表などを行う事務機能と農産物の加工試作、成分分析等の研究部門です。

この2つの機能は建築的にも異なる構造、設備、仕上が要求されるので、2棟に分棟し鉄筋コンクリート造の渡廊下でつなぎました。

事務棟は杉材の構造や化粧針葉樹合板30mm(24+杉板6mm)を現しにし、壁も杉板を張っています。一部い業研究所で製作したイグサや製品化されたイグサクロスを壁仕上に使いました。天井裏が無いので1階床下空間や2階フリーアクセスフロア(150mm)の床下空間が電気、機械設備のスペースとして利用するため、設備的には難しい工事だったと思います。

研究棟は水洗い可能な食品加工室と精密研究機器が入るため、重量や将来のメンテナンスを考慮し、全面地下ピットを設置しました。空間的には8M×12M、8M×10M程の広さが必要な研究室があるので、3連のトラスを組んでノコギリ屋根とし、立上り壁部分に研究室のドラフトチャンバー排気などに利用しています。

フードバレーABCの構造特徴は広い空間も規格材と在来工法を活用しながら、内部空間をなるべくフリーに使えるようにしたことです。

耐力壁を外部袖壁に設置することで、内部耐力壁を極力減らし、市場で調達出来る四寸柱で組むため、4本組柱、3本組柱、2本組柱で梁を受け、柱断面欠損を小さくし、4本柱中心で梁を継ぎ、その下に副梁を入れ梁の剛性を高めています。組柱の接合には30mmのカシの込み栓を使っています。ボルトなどの金物は木が痩せると弛みが出てくることやボルトが目立つ木造建築に馴染めないこと、在来木造の魅力は「込み栓」だと思います。

円形のアグリホールは7本柱組で放射状に登り梁を組んで、外部に伸びる登り梁に円形のLアングルを固定して、桧100mm角のルーバーを設置しました。この木のルーバーは敷地の関係で西向きにしかアグリホールを配置出来ないので、西日除けと刻々とルーバーが織り成す光の魅力をホールに取り込んでくれます。

フードバレーアグリビジネスセンターはこれから熊本県南の一つ一つの農林水産物が集まって総合的な魅力を情報発信する中心施設です。

この建物を訪れる人に『地元の大工と熊本県産材で造り上げた空間』に魅力を感じてもらえれば、フードバレー構想の精神にも通じるのではないかと思います。