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人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

絶滅した日本列島のゾウのはなし(Ⅱ)—消えたゾウたち、その謎を追う―(3)

2021年06月06日 11時21分37秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
絶滅した日本列島のゾウのはなし(Ⅱ)
         —消えたゾウたち、その謎を追う―(3)



 3.センダイゾウについて再び

 センダイゾウの属についてはこれまでにいくつかの分類説があったことは知られています。そして議論も行われて来ました。
 
 千葉県銚子市長崎鼻の海岸で、1986のことですが、後に名洗産標本と呼ばれるようになった古代ゾウの瘤上臼歯化石を発見したのは、元さいたま市立大原中学校校長の鈴木一夫先生ですが、その臼歯化石は写真を見る限り大型でその瘤(こぶ)の形状から、Gomphotherium sendaicusないしは松本彦七郎が名付けたTrilohondon sendaicus Matsumoto 1924 ではないか、その見分けが付く化石です。
 また、センダイゾウについては、亀井節夫の論文「日本の長鼻類化石とそれ以後」(2000)の「付記」(222頁)に依拠しますと、亀井は次のように記しています。

 「〈長鼻類化石〉では、化石リストにセンダイゾウをマムート科Mammutidae に位置づけ、Zygolophodon sendaicus (Matsumoto 1924)とし、その理由を同書の40-41頁に簡単に示した。

 他方、このセンダイゾウをゴンフォテリユム科GomphotheridaeのSinomastodonに含める考えは、Tobien ,Chen and Li(1986)が最初に提示したが、センダイゾウの原記載は第3臼歯のもので、特徴となる第2臼歯については明らかではないとして、分類上の位置づけは確定されていなかった」、と述べています。

 先述しましたが、1986年に元さいたま市立大原中学校校長の鈴木一夫先生が千葉県銚子市長崎鼻の海岸で、発見した古代ゾウの臼歯がセンダイゾウに類似しているとのことで専門家の関心を呼んでおり、長谷川善和、冨田進氏ら5人による共同論文「千葉県銚子市長崎鼻の鮮新統名洗層産象臼歯化石」(2013)が群馬県立自然史博物館研究報告書(17)に掲載されています。

 長谷川らによりますと、名洗層産臼歯は、同種の状態の臼歯が余り報告されていない、とのことです。しかし、「やや咬耗が進めばセンダイゾウGomphotherium senndaicus あるいはTetralophdon lomgirostoris の上顎第3大臼歯に類似する」、と述べるとともに「センダイゾウにみられるような摩耗の状態が三葉形になるのはマストドン類に普通なものなので分類の基準にならないと判断するするならば「似ている」とする程度にとどめるしかないが、少なくともよく似ている」、としています。

 そしてまた、「センダイゾウの属に関しては従来いろいろな分類群に含められて議論されているが、ここではGomphotherium属に含めた」とし、名洗層産の臼歯と先に記した亀井節夫の「付記」(2000)に示めされたZygolophodon やSinomasutodon に属する見解とは相いれない、と述べています。

 そこで、ここでは亀井(2000)に立ち返って言及しておきます。亀井は、三枝春生がで「日本産ゴンフォリウム類およびステゴロフォドンについて」(1999)で、「このようにセンダイゾウの属名に関して2つの説が存在し、かつそれは生層序・年代関連するが、残念なことに仙台北山産の摸式標本以外にセンダイゾウの臼歯を記載した論文がない。

 センダイゾウの早急な再記載が必要である」、と論じたことから、亀井自身の「古いノートと観察記録資料を整理して」、たたき台に過ぎないがセンダイゾウの再記載を試みるとして、「センダイゾウ標本一覧」を以下のように整理しています。

 

 〈センダイゾウ標本一覧表〉亀井(2000)≪Table 3≫から引用


  北山標本:産地-宮城県仙台市青葉区北山三丁目(7番).産出層-竜ノ口層.地質年時代-鮮新世前期.
  産出部位-臼歯(M3 part,3M,M3)と左距骨.標本の所在-東北大学理学部地質学古生物学教室.文献-松本1924,Matsumoto 1926.
  東勝山標本:産地-宮城県仙台市青葉区東勝山一丁目15-6.産出層-竜ノ口層。地質年時代-鮮新世前期.産出部位-臼歯(3M、M3,M2,2M,M1,1M)).標本の所在-東北大学理学部地質学古生物学教室.文献-Hatai and Masuda 1966.
  熊野堂標本:→Desmostylia(東柱目).産地-宮城県名取市熊野堂.産出層-茂庭層.地質年時代-中期中新世初期.産出部位-臼歯.標本の所在-不明.文献-松本 1936.

 亀井は、以上のようにセンダイゾウの臼歯が発見された仙台市青葉区北山、東勝山、そして宮城県名取市熊野堂の3地域の標本を整理しています。

 しかし、松本彦七郎が1936年に公表した論文、Upper Miocene vertebrates from Kumanodo, Natori district,Province of Rikuzen. Zoological Magazine, 48(8):475~480.以外には現在の宮城県名取市熊野堂産のセンダイゾウ化石について報告された資料が入手できないという問題が残るのですが、この点ついての究明は後に行として、北山標本および東勝山標本に就きましては上記の亀井のまとめた通りです。

 亀井(2000)からも明らかなのですが、絶滅した日本列島のゾウの仲間といいますか、長鼻類については、鮮新世(pliocene、500万年前から258万年前までの期間)前期および後期に産出されたZygolophodon sendaicusあるいはSinomastodon sendaicus あるいはまた中新世(Miocene、約2303万年前から533万年前までの期間)のGomphotherium annectens (通常は、アネクテンスゾウと呼んでいる)そしてミヨコゾウも素人には考えにくい程太古のゾウと見られています。

 しかし、2300万年前となると、〈日本〉列島の存在自体が怪しくなってきますので、非常に難しい問題になります。



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