—消えたゾウたち、その謎を追う―(4)
4.1億年以上前から日本にも哺乳類がいた?
前述しましたように、ゾウの仲間と呼んでいるゴンフォテリウムなどは2600万年も前から日本に生息していたと言うことなんですが、素人のわたしなどは直ぐには信じ難く、疑ってかかりたくもなる話しです。
『絶滅哺乳類図鑑』などで親しみのある冨田幸光氏(1950- :国立科学博物館名誉研究員)は、かつて『ナショナルジオグラフィック』のWeb版で、「2500万年くらい前に日本海が開きはじめて、1500万年くらい前に日本列島になる島々が今の場所あたりに来たんですけど、それ以前は大陸の一部だったんです。離れてすぐに今の形になったんじゃなくて、大陸から離れつつちっちゃな島にバラバラにばらけちゃったような状態が続いて、だんだん日本列島ができていく。大陸から離れてから動物がどんなふうに変わったかっていうのが、ひとつの大きなテーマなんです。ただ、日本の哺乳類化石の歴史は、大陸から離れるずっと前、1億2000万年にも及ぶことは最近は分かっています」(原文通り引用)、と語っています。
冨田氏のこの話しは、われわれ素人には大変興味深い話しです。「日本の哺乳類の化石の歴史」が、何と1億2000万年にも及ぶというのですから、驚きです。そこで、日本列島の生い立ちについて、ほんの「さわり」だけですが、触れておくことにします。
いろいろ調べて見ますと、現在の日本列島に関わりがあると思われる古地図を見ましてもわたしには理解が難しいのですが、10億年も前には日本列島はすっぽりと大陸の中に埋め込まれていたようです。別な言い方をしますと、現在日本列島が存在する辺りには大陸が広がっていたのです。
その大陸も赤茶けた砂原のようなところで、契丹(けつたん)古陸、中国大陸の東北地方のことで、そこに人が住むようになってからは、その人々は契丹人と呼ばれていたそうです。その頃は、緑の植物も生えておらず、また動物などはいなかったと言われています。ですから、人が住むようになったのは、ずっと後のことだと思います。
その後2600万年前~2500万年前になりますと、冨田氏が語られている通りです。ただもう一つ、「日本の哺乳類の歴史が1億2000万年にも及ぶ」、と言う点については若干の説明が必要かと思います。
1億2000万年前とは、地質年代で言いますと白亜紀前期(1億4500万年前頃~1億100万年前頃)に相当し、日本の地質年代では高知世、有田世、宮古世の時代です。これらの時代の陸地は、大陸と地続きだったと言われています。少し前のジュラ紀後期に見られた海もなくなっています。いまの日本列島に相当する部分がアジア大陸の縁(ふち)に相当します。大陸には湖もありました。白亜紀にもいくつもの大きな湖がありました。
周知にように、現在の日本列島は、アジア大陸から日本海を挟んで独立した列島を成しています。その日本海ですが、言い方を変えますとアジア大陸と日本列島の間に「日本海」という縁海が存在していると言うことなのです。
地質学者の平朝彦氏よりますと、「日本海側に海が侵入して来たのは、第三紀中新世、約1500万年前のこと」だそうです。それ以前は、「湖や河川環境を示すような植物化石や珪藻の化石が産出する地層が堆積しています。したがって、地質データは、やく2000万年前ぐらいから日本列島と大陸のあいだには陥没した地形があって、そこには広い範囲にわたって湖沼や河川が存在していた」(1990、139頁)、と言うことなのです。
さて、日本にも哺乳動物がいたことは、大陸との地続きであったことを考えれば特段の疑問を持つことではないと思います。白亜紀後期、それも末頃までの哺乳動物(Mammal)はどの種類も小型だったと言われています。胎盤を持つ真獣類が多くなり大型化するのは、6500万年前恐竜の時代が終わってからのことです。
大型草食哺乳類でしかも長鼻類が登場するのは、随分後のことになります。ですから、1億2000万年もの歴史をもつ哺乳類といいましても、想像画では「ネズミ」のような小型の動物だったと考えられます。
福井県立恐竜博物館が最近発表した「Webサイト」によりますと、同県大野市の伊月層から発見された哺乳類(真三錐歯類)とトリティロドン類(哺乳類型爬虫類)です。日本では最古の哺乳類の化石とされています。
この化石は、2019年6月頃発見されたと言うことですから、冨田幸光氏が「日本の哺乳類の化石の歴史」は、1億2000万年にも及ぶと言われているその事例とは、また別のものなのでしょう。
〔(Ⅱ)-(4)までに使用した諸文献〕
以下は、パート(Ⅱ)に入ってから参考に用いた文献ですが、小生の文献ファイルから引き出して用いていますので、これまでも何回か〈参考文献〉として利用し、紹介させて頂いているものもあり、重複しています。
〈文 献〉
1) 松本彦七郎「日本産マストドンの二新種」『地質学雑誌』31(395ー414)、1924. 同「日本産ステゴドンの種類(略報)『地質学雑誌』31(323ー340)、1924.
2) 松本彦七郎「陸前国名取郡高館村熊野堂産上部中新系の脊椎動物化石」・『動物学雑誌』48(478ー490)、1936(Upper Miocene vertebrates from Kumanodo, Natori district,Province of Rikuzen. Zool. Mag., 48(8):475~480).
3)亀井節夫「日本の長鼻類化石とそれ以後」『地球科学』54、2000、222頁.
4)亀井節夫「象のきた道―日本の第四紀哺乳動物群の変遷についてのいくつかの問題点」『地球科学』60・61、1962、23ー34頁.
5)亀井節夫『日本に象がいたころ』・岩波新書(645)、1967.
6)シンポジュウム「日本の長鼻類化石の研究はどこまで進んだか」、亀井節夫(北限のステゴドンー長鼻類化石の研究史との関係で)、川合康司・石田 克(Gomphotherium annectens〈MATSUMOTO〉の新標本について)『第23回(通算123回)化石研究会総会・学術大会講演抄録』、2005年6月.
7)三枝春生「日本産ゴンフォリウム類およびステゴロフォドンについて」『地団研第53回総会学術シンポジュウム要旨集』、55ー56頁、1999.
8)三枝春生「日本産化石長鼻類の系統分類の現状と課題」『化石研究会会誌』、第38巻(2)、2005.
9)西岡佑一郎・楠橋直。高井正成「哺乳類の化石記録と白亜紀/ 古第三紀境界前後における初期進化」『哺乳類科学』60(2)、2020、251-267頁.
10)藤田至則『日本列島の成立』・築地書館、1973.
11)湊正雄『〈目でみる〉日本列島の生い立ち』・築地書館、1973.
12)湊正雄・井尻正二『日本列島』(第三版)・岩波新書(963)、1976.
13)平朝彦『日本列島の誕生』・岩波新書(148)、1990.
14)山崎晴雄・久保純子『日本列島100万年史』(ブルーバックス)講談社、2017.
15)冨田幸光『絶滅哺乳類図鑑』・丸善株式会社、2002.
16)冨田幸光『絶滅した大哺乳類たち』・読売新聞社、1995.
17)Tobien, H., Chen, G.F., and Li, Y.Q., 1986; Mastodons (Proboscidea, Mammalia) from the LateNeogene and Early Pleistocene of the People's Republic of China. Part I, HistoricalAccount. Mainzer geowiss, mitt., 15, pp. 119–181.
18)Bones of elephant ancestor unearthed: Meet the gomphothere". Science Daily. University of Arizona. 14 July 2014. Retrieved 31 August 2018.
19)Asevedo, Lidiane; Winck, Gisele R.; Mothe, Dimila; Avilla, Leonardo S. (2012). "Ancient diet of the pleistocene gomphothere Notiomastodon platensis (Mammalia, Proboscidea, Gomphotheriidae) from Lowland Mid-latitudes of South America: Stereomicrowear and Tooth Calculus Analyses Combined". Quaternary International. 255: 45–52.
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