素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

アケボノゾウをさぐる(5)

2022年05月26日 09時01分46秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
       アケボノゾウをさぐる(5)


  アケボノゾウのご先祖さん:その(3)

  アケボノゾウについては、これまでに松本彦七郎の論文をはじめ沢山の研究成果が公表されています。小生は、それらの中でもとくに最近の二つの文献を重視しています。一つは亀井節夫編著『日本の長鼻類化石』(築地書館、1991)の中に収められている樽野博幸氏の論稿「日本産ステゴドン科化石」です。そしてもう一つが日本古生物学会『化石』73号(2003)に収載されている樽創氏の論稿「日本固有のゾウ〔アケボノゾウ〕」です。
 
 樽氏は同論稿(2003)で、「アケボノゾウの起源については、日本固有種と考えられているS.miensis Matsumoto,1941 ミエゾウと共通の祖先から進化したとする考えが有力である」、と述べています。そして「また体の大きさについても、ズダンスキイゾウ、ミエゾウ、アケボノゾウの順で小型である」、とも指摘しています。

 ところで、ミエゾウ(Stegodon miensis)の生息していた時代400万年前から300万年前とアケボノゾウ(Stegodon aurorae)が生息していた250万年前から100万年前の時代の間を埋めるステゴドンの存在が、今日では明らかになっています。すなわち、新種のハチオウジゾウ(Stegodon protoaurorae)の生息がそれなのです。

 しかし、見方によっては、ミエゾウとアケボノゾウの生息していた時代の空白を必ずしもうまく埋めてくれるわけではありません。ハチオウジゾウの化石を発見した相場明博氏(慶應義塾幼稚舎教諭、教育学博士)が英国の古生物学誌パレオントロジー(Palaeontology)に発表した完摸式標本では、ハチオウジゾウの生息時代は290万年前から210万年前に生息していたとされています。
 また発見された地層はおよそ230万年前のものと考えられています。これに対してアケボノゾウは250万年前から100万年前に生息していたとされていますから、生息期間が重複する時代があったわけです。古生物学の世界ではこうしたミスマッチ問題はそんなに珍しいことではないようです。

 ともあれ、ハチオウジゾウが生息していたと考えられる時代と、アケボノゾウが現れた時期と生息期間は、50万年から30万年くらい重なっていたのではないか、科学的な根拠があるわけではありませんが、素人の考えではそんな風にも思えるのです。

 発見者の相場氏に依りますと、ハチオウジゾウはアケボノゾウのご先祖さんに当たると考えていいようです。何故なら、ハチオウジゾウという名は、周知のように「和名であり、また通称の呼び名」です。正確には、ステゴドン プロトオーロラエ(Stegodon protoaurorae)と呼びます。これがハチオウジゾの学名(scientific name)です。またアケボノゾウの学名は、ステゴドン オーロラエ(Stegodon aurorae)です。

 ハチオウジゾウの学名が意味しるように、ステゴドン プロトオーロラエとはアケボノゾウ(Stegodon aurorae)の「先祖」という意味で付けられた名前なのです。日本語に直しますと、「夜明け〈前〉のゾウ」、「曙(アケボノ)〈前〉のゾウ」、「暁(アカツキ)〈前〉のゾウ」となり、敢えて言えば、アケボノゾウの「ご先祖」と言う意味になるのです。

 ハチオウジゾウの学名Stegodon protoaurorae のプロト(proto)は、連結語で用いることが多いのですが「プロトタイプ」もその一つです。その意味(「原式」とか、「原型」とか、「典型」そして「模範」)から推し量って見ますと、Stegodon protoaurorae はアケボノゾウの〈前〉に生息していた、「ご先祖ゾウ」と言う解釈が成り立つようです。余計なことですが、学名はラテン語を用い、イタリックで表記します。

 ハチオウジゾウ(Stegodon protoaurorae )化石の実物(本物)は、慶應義塾幼稚舎サイエンスミュージアムには、発掘された切歯2本と6個の臼歯、大腿骨、脛骨が展示されています。もちろん「完模式標本」です。「完摸式標本」とは、公刊された論文(Stegodon protoauroraeの場合、英国の古生物学会誌Palaeontologyに掲載刊行)で、命名者(この場合は相場博明筆頭執筆者)が指定した唯一の標本を正基準標本と言いますが、動物のケースでは「完模式標本」と呼んでいます。

 発見者の相場氏に依拠しますと、「臼歯の溝などの特徴から新種と確認された」、そうです。新種のハチオウジゾウは、大型のミエゾウ(体高約3メートル超)と小型のアケボノゾウ(同約1.5メートルから2メートル)の中間位の大きさに、狭い日本列島に見合った小型化(島嶼化)と言う過程を何十万年もかけて遂げてきたものと考えられています。

 かくしてハチオウジゾウは、ミエゾウからアケボノゾウへ進化する中間の過程のステゴドン属の新種だったと言えます。