素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

アケボノゾウをさぐる(3)

2022年05月16日 08時41分40秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
        アケボノゾウをさぐる(3)

  
  アケボノゾウのご先祖さん:その(1)

 前回、「はじめに その(2)」で、ミエゾウに触れました。その際、高橋啓一氏の論文から「ミエゾウは松本彦七郎(1887-1975)によって三重県津市芸濃町産の標本を模式標本として St. clifti の新亜種 St. clifti miensis Matsumoto として記載された」こと等に言及しました。

  1918年(大正7年)、地質調査所にあった石川県戸室山産とされていたゾウの臼歯化石から日本にアケボノゾウ(アカツキゾウ)が生息していたことを明らかにし、アケボノゾウが日本固有種のゾウであることを発見したと言われています。東京帝国大学理科大学動物学科卒業、クモヒトデの研究で有名。1917年に理学博士、1921年には帝国学士院賞を受賞しました。

 ここで少しばかり前回の記事中にある「St.clifti」について補述しておきましよう。〈St.clifti〉は、〈Stegodon clifti〉のことで、一般に日本語では「クリフチゾウ」と呼んでいます。大雑把に理解しますとステゴドン属に分類されるゾウのことなのです。ですから、ミエゾウも〈Stegodon clifti miensis〉と、松本彦七郎の論文「陸中國東磐井郡松川村及其他本邦産ステゴドン及パラステゴドンに就て」(『動物学雑誌』第53巻、第8號、385頁、1941)に依拠して書くことがより正しいと言えます。なお、松本は、この論文においては「アカツキゾウ(松本)又の名をアケボノゾウ(鹿間)」と書いています。詳細は、後述します。

 ところで、ここでステゴドン(stegodon)について少しばかり触れておきたいと思います。しかし三枝春生氏をはじめ、専門家の諸先生方の間では諸説があり、大変難しい議論をしなくてはなりません。そこで、素人の小生が理解している範囲で述べることにします。

 ステゴドンは、中新世(2600万年前)にアジア大陸で繁栄し長いこと生存していた「絶滅ゾウ」の仲間とみなされています。一方、ユーラシア大陸にはマストドンと呼ばれるゾウの仲間も漸新世(3700万年前)から中新世そして更新世にかけて生息していたと言われています。

 マストドンは、同じ長鼻目でも長い「顎」をもつマストドンと短い「顎」を持つ2種がいたようです。アメリカで繁栄したアメリカマストドン(Mammut americanum)は「顎」が短かったと言われています。

 ところで、マストドンとは、調べて見ますとギリシャ語で「乳首の歯ないし臼歯」という意味であり、臼歯に乳首のような突起が並んでいることからそうのように名付けられたのだそうです。専門家の先生方によりますと、マストドンは比較的柔らかな葉植物を常食にしていたのではないかと考えられています。

 ステゴドンは、臼歯のかみ合わせの面に、尖った屋根状の稜が平行に走っていることからステゴドンと名づけられたと側聞しています。ギリシア語で屋根を意味する「ステゲ(stege)」と、歯を表す「オドントス(odontos)」を合わせて、その名が付けられたと言われています。

 このステゴドンの化石が多く産出している中国では、臼歯の「稜の形」が剣のように見えるところから「剣歯象」と呼ばれていました。