電影宣伝自由人

香港映画を中心にしたアジア映画のよもやま話などを紹介

父子

2006-10-28 19:18:16 | Weblog
26日は仕事の合間をぬってシアターコクーンへGO!はい、パトリック・タム監督の最新作『父子』を観に行きました。なにしろ17年ぶりの新作です。4月の香港マーケットで製作発表記者会見があり、その時は主要キャストと監督が出席したのですが、アーロン・クォックが一人で10分近くしゃべっていたのが印象的でした。でも、アーロンがそれだけ興奮してしゃべったということは、タム監督の作品に出演するということが俳優にとっても名誉なことであり、このカリスマ的な監督の最新作は、香港のみならず各国の映画人に大きな注目をされている作品と言えるでしょう。
ストーリーは、アーロン・クォック演じる調理人で確かな腕がありながらもギャンブル好きなために家にもほとんどいなくて借金まみれのシン(アーロン・クォック)と、その尻拭いをして息子BOYを一人で育てているリン(チャーリー・ヤン)、この内縁関係の夫婦3人の家族の崩壊を描いています。長年の不満がたまり、愛する息子を置いてまでもシンから逃げて裕福なビジネスマンの元へ行ってしまうリン、そして残されたダメ男のシンと息子。シンは働いている料理店をクビになり、おまけに高利貸しから借金の取立てにあっていて、お金がないので息子のバス代も払えず、電気まで止められてしまいます。二人はそれらから逃げるように遠い場所の安ホテルに身を隠します。隣の部屋に滞在している女(ケリー・リン)と知り合ったシンは彼女と関係を結び、彼女とつるんで援交の口利きなどをするのですが、ピンはねがばれて彼女との関係も終わり、その上、高利貸しに居場所をしられてぼこぼこにされ、有り金全てを取られてしまいます。金に困ったシンは、息子を使って泥棒をさせようとしますが・・・・・
最近、日本映画など、俳優の顔は分かっていても、監督がどんな人?という作品が非常に多くて、作家性という言葉が失われつつあります。なぜこう言いたいかというと、監督の手腕によって、演じている俳優さんが素晴らしい演技を見せてくれることがあるからです。今回、出演している俳優たちは、タム監督の手腕によって素晴らしい演技をみせています。そして監督自らが脚本、美術、衣装、音楽設計、そして編集を手がけ、監督の中にあるこの作品の意図を見事に作り上げています。上映時間150分というのはちと長いと思いましたが、どこをどう切るの?というくらい、この作品の緻密さは素晴らしい。特に編集の完璧さには驚きました。
ティーチインで監督は、俳優たちの手で感情を表現した、と語りましたが、それだけではなく、空の色、川の流れ、天気、どのカットをとっても、意味を持つものとして表現されています。
作品を観ていて『欲望の翼』を思い出しました。なぜならばウォン・カーウァイ監督はパトリック・タム監督をリスペクトしているので、映像表現の似ている部分が多いからです。ただこのふたりの大きな違いは、カーウァイ作品は映像がきれいということだけしかなく、タム作品には奥深さがあるということです。今回、この『父子』で両監督の大きな違いを再認識したのは私だけではないと思います。
ここのところ、お気楽な作品ばかり観ていたので、久々にカラダに電流が走った作品でした。
香港でこの長尺版が公開されるかはわかりませんが、ぜひ皆さんには観てほしい作品であります。