とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

「馬場兄弟の結婚式」その1

2005年12月17日 01時27分53秒 | とんねるずコント研究
「馬場兄弟の結婚式」その1
(『とんねるずのコント 1』所収。初演1996年)


***ネタばれ注意!


<登場人物>
馬場兄・・・石橋貴明
馬場弟・・・木梨憲武


<あらすじ>
あのジャイアント馬場に、双子の弟がいた!グレート小鹿とダイナマイト関西の結婚式に出席する馬場兄弟。結婚式の運命やいかに・・・!



「馬場兄弟の結婚式」は、「猪木兄弟の結婚式」とともに、苗場コントの中でも特に人気の高い作品である。ビデオ『とんねるずのコント』のジャケット写真も、「1」が馬場兄弟、「2」が猪木兄弟を使っており、これらの作品が苗場コントの代表的作品であることを物語っている。

とんねるずのコント作品は、たがいにリンクしあったものが多いのだが、特にこれらふたつの作品は、まったく同じ構造で作られている。登場人物が馬場さんか猪木さんかの違いだけである。したがって、これらはふたつでひとつの作品と考えるべきかもしれず、別々の作品として論じるのはある意味むずかしい。

今回は便宜上まず「馬場兄弟」についてとりあげるが、分析の中で「猪木兄弟」にもふれざるをえなくなるだろう。それじゃあ「猪木兄弟」の批評では何を書くつもりなんだ、とつっこまれると何とも答えようがないのだが、まあそれはその時にかんがえるとしよう。


さて、「馬場兄弟」「猪木兄弟」である。
今回は、まずわたしなりの仮説を立て、具体的なコントの内容に沿ってそれらを検証していきたいと思う。

「馬場」「猪木」に共通した特徴として、次の3点をあげる。

●メタ的笑い
●"シンメトリー"の笑い
●ステージコント

では、まず「馬場兄弟の結婚式」オープニングからコントを見ていこう。


オープニング。
全日本プロレスのテーマをバックに、元祖実況アナ・徳光和夫氏によるMCが流れる。

 「黛敏郎作曲によりますスポーツテーマに乗りまして登場いたしました、日本が生んだ世界の巨人、2メートル9センチ、140kg、ジャイアント馬場であります。(BGM入り)新潟県三条市に生まれ、絵を描くことが好きだった少年が、持ち前の快速球で野球に身を投じ、文字通り憧れのジャイアンツの選手となるも、肩を壊して断念。思い悩んだ末の決断が、みずからの巨体をリングに求めたのであります(←ここちょっとあいまい・筆者)。挫折から這い上がった、ザ・グレイテスト・ヒーロー、ジャイアント馬場。しかし、なんとそのジャイアント馬場には、まったく同じ体格の、双子の弟がいた!!」

徳光さんをMCに起用することで、雰囲気はがぜん盛り上がっている。ある種の'高級感'さえ漂うようだ。それは彼が、本物のジャイアント馬場が一世を風靡した時代の人気実況アナであったこと、つまりその時代の'本物'だけがもつ感覚を彼がもたらしてくれるからである。

これは、「みなさんのおかげです」等のとんねるずのコント(ドラマも含めていいかもしれない)すべてに共通する特徴でもある。このような'本物感'を自然にかつ効果的に出せる芸人は、日本でとんねるずをおいて他にない。これは断言できる。このことについては、後日別の形で考察を深めてみようかな、とかんがえています。

さて、暗い舞台の中央には二脚の椅子、そして馬場兄ことタカさんがひとり立っている。
MC明けて明転。タカさんは、上半身裸で、かつらに真っ赤なパンツ姿。膝には赤いサポーター、黒い編み上げブーツを履いている。格好は完全に試合モードだが、結婚式だけあって、礼服用の白いネクタイだけはしっかり締めている。

上手から、馬場弟ことノリさんが登場。兄とまったく同じ扮装である。
ちなみに、ふたりが履いているブーツは本物のプロレス用のファイティングシューズ(正式名称がわかりません)ではなく、ゴム長靴に白で編み上げのヒモを描いたものである。おそらく16文キックを何度も繰り出す必要があるので、怪我をふせぐために靴底がやわらかく衝撃の少ないゴム長を使用したのだろう。

馬場弟は、きわめてゆっくりした足取りで、中央の兄のもとへむかう。兄の隣に立つ弟。気づいているのかいないのか、兄もただのっそりと立っているだけ。

しばし沈黙が流れる。

やおら、兄が空手チョップを弟にお見舞いし、

「おそいよ」

よろけた後しばらく考える様子の弟、やがて兄にチョップを返し、

「ごめんね」

兄「今日は小鹿くんの結婚式だぞ。遅れたらまずいだろ」
弟「あやまったじゃん」

のっそりと弟に背中をむけ、下手にむかいどこかへ行こうとする兄。
その背中に弟がゆっくりと空手チョップ。痛みに顔をゆがめ、片膝をつく兄。

弟「どこ行くんだよ」
兄「披露宴で写真撮るから、使い捨てカメラ買うけん。つきあってくれよ」
弟「(すこし考えて)いいよ」

やや細かく紹介したが、ここまでがひとつのシークエンスである。この後は、写真店やマクドナルド、そして結婚式場へと場所を変えながらも、最後まで同じパターンの変奏が繰り返される。これが「馬場兄弟」「猪木兄弟」コントの基本構造である。

非常にシンプルである。シンプルすぎる。

では、このコントを苗場ライブの代表作たらしめている要因とは、何か?
それは、ずばり「メタ」の力である。



その2へ続くけん、つきあってくれよ。





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