とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

何が映画を走らせるのか?

2007年04月18日 01時01分40秒 | 世界的電影
『何が映画を走らせるのか?』(山田宏一著 草思社 2005)


映画に魅入られている。その魔力にとりつかれた人々である。彼らの物語=新しい映画史を試みるのが、『何が映画を走らせるのか?』という本である------

山田宏一氏の文体をまねて、書いてみたりなんかして。
主語をわざと書かずにあとまわしにして読む者の興味をひっぱる、その特徴ある文章作法は、まるで、観客をじらして最後までドキドキさせる、映画のナラティブのようです。

小林信彦氏が『映画が目にしみる』(文藝春秋)で「さいきん珍しいまともな映画評論として大いに満足した」と紹介していました。素直なわたしは、すぐ読んでみたわけです(笑)。

いざ手にとってみると、500ページ余にもおよぶ大著。ややビビりながらも、読みはじめたら止まらなかった。

『何が映画を走らせるのか?』は、とんでもなくおもしろい本です。

おそろしく膨大な資料と参考文献、山田氏自身がおこなったインタビューの数々、そして氏自身の映画体験を網羅しつつ、わかりやすくおもしろく、映画史をつづっている。

映画史というものに対してもっていた漠然とした知識・イメージが、ゆるやかにくつがえされていくことの快感。

原初の「映画」が、決して「芸術」などではなく、いかにもアヤシゲな出自と育ちから生まれてきたものであるということ、それを歴史の闇に隠そうともせず、さらけだしてしまおうとする山田氏の試み。それは、映画草創期の特許戦争であったり、スタジオ同士の抗争だったり、スターたちのゴシップであったり。アヤしく泥臭くても---いや、だからこそ、映画史はおもしろい---と、山田氏は教えてくれました。

「興行価値が映画の生命になるのである。これはハリウッドだけの問題ではなく、すべての映画にとって興行価値こそ神なのである」

と言い切ってしまえる、自称「映画ファン」の山田宏一氏。すてきすぎます。


エイゼンシュテインのハリウッド滞在記や、日活創始者・梅屋庄吉が中国で孫文の革命を助けていたとか、はじめて知る事実には驚くばかり。

かと思えば、フランス留学の経験もある氏のヌーヴェル・ヴァーグ論には、自分自身ヌーヴェル・ヴァーグにはおっかなびっくりで手を出せないでいるので、まさに目を開かれる想い。

「映画はモンタージュだ」という固定観念に軽くボディブローをいれてみたり、アクターズ・スタジオの俳優によって広まったメソッド演技に疑問をなげかけてみたり・・・。

こういう確固とした(でもおしつけがましくない)スタンスには、ドキッとさせられる。自分自身、それらをどこか手放しに信じているところがあるので・・・。


高度成長のさらに後に生まれた世代としては、映画がハリウッドの占有物でなくなっていく過程を目撃してきたわけだし、「『スター』の失墜」に嘆息する山田氏の想いを完全に共有することができないのも、事実です。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とジャッキー・チェンで育ったんだから。

中国、イラン、韓国、香港、ボリウッド、東南アジア・・・さまざまな地域・文化でつくられる映画が、あたらしい時代の胎動となっています。ハリウッド至上主義は、終わった。

それでも、やっぱり、次のような文章を読むと・・・

「・・・情熱につきものの不合理性(狂気と言ってもいい)があられもなく映画を輝かせていた時代も終わったということなのかもしれない。それは、ある意味では、男としての、そして女としての、夢や欲望や狂気そのものが衰弱してしまったということなのかもしれない」

・・・人々が「あられもなく」映画を撮っていた幸福な時代が、うらやましく思えてしまうのです。


それにしても、こういう本を読むと、これこそがプロの「映画評論」なんだなと、自分が日々駄文を公開していることを恥じ入ってしまう。アニメはちょっと、とか、ホラーは観れない、とかえりごのみしているようじゃあ、とうてい映画狂(シネフィル)だなんて言えませんね。

わたしなんざ、「映画好き」というのもおこがましいけれど、そのはしくれのはしくれくらいの席を何とか汚させてもらえたら・・・。

アメリカの名映画評論家ポーリン・ケイル女史のこんな言葉には、どうしようもなく共感してしまうから・・・映画の狂気に魅入られた「幻視者」に、わたしもいつかなれるでしょうか・・・?

「場内の明かりが消え、わたしたちの期待がすべてスクリーンに集中するあの瞬間は何ものにも代えがたい至高の、ときめきの瞬間だ」
(『明かりが消えて映画がはじまる』孫引きで引用しました)



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6 コメント

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評論にプロなんてない (タイタン)
2007-04-18 06:15:51
…と私は思います。

評論家の宮崎さんが好きな私が言うのもなんですが、
駄文だろうが、なんだろうが、感じたまま思えばいいんだ!と思います。
(ブルース・リーか!)

なので、「あ~つまんなかった!!くっだらねえ」
でもいいんですよ。
それで充分参考になりますもん(^^)
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そう思います (ファイア-)
2007-04-18 12:05:53
ネット上でも、そんじょそこらの「自称プロ」よりずっとマトモな批評を展開している人々がたくさんいますね。シロウトの情熱は、あなどってはいけないと私も思うんですよ。

お金をもらってるかどうかでプロ/アマを区別するんじゃなくて、どれだけ対象に情熱を注いでいるかが、問題なのかな。

そういう意味で、山田さんとか小林信彦氏を見ると「やっぱすげー」と脱帽せざるをえないんですよね。それがプロだと思うし。努力もせずにプロ気取りしてる「評論家」はいちばんゆるせない^^;

そうは言いながらも自分もやっぱり好きだから、書かずにはいられないんですけどね。あくまで「感想」でしかないですけども。

「批評」とか「評論」じゃなくても、だれでも「感想」を言えて語り合える、というところも、映画の長所だと思いますし
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私は偏った映画好き (ぬくぬく)
2007-04-18 12:10:02
私は香港が好きだから、その周囲を
チェックしとるって感じ?
本当に香港を感じる為には軍票とかの歴史もしかり。
語学もしかり。
本当に映画を見るには、外堀の知識って
かなり必要なんですよね。
ドーナツ知識の私には香港だけで充分です。
軽くキャパ超えてますから。
でも、この本読んでみたくなったなぁ。
ついでにこんな本もどうぞ。

『映画で語る中国・台湾・香港』戸張東夫
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おお~ (ファイア-)
2007-04-18 13:09:02
おすすめくださって、アリガトウ~♪
香港の歴史とか社会について、ほとんど知らないから、ちゃんと勉強したいな~と思っていたんです!
ぜひ読んでみますね。
軍票ってなんじゃらほい?

外国映画は外堀がなかなかつかめないから、そこから勉強しなきゃいけない、というのはありますよね。
もちろん普通に楽しむ分には、そこまで深く考えなくてもいいと思いますけど、でも多少知ればより楽しいですよね。
それを伝えるために、映画マニアなり映画評論家なりがいるのかな。
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軍票ってのはね… (ぬくぬく)
2007-04-18 15:36:16
第2次大戦中に日本が香港に侵攻した時。
香港の人からお金を没収して
かわりに軍票という金券を発行しました。
今も換金されないまま、ほったらかしです。
だから8/15は解放記念日だし。
12/8は悪夢の日。
日本人の事は嫌いなんです。
私も(英語で言う)ジャップよばわり
された事ありますよ。
哀しかった~
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ぬくぬくさん (ファイア-)
2007-04-19 00:44:40
あ~ナルホド・・・。キツイっすね・・・
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