とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

とんねるずイズム2「世界」

2011年11月06日 01時23分25秒 | とんねるずコント研究


アート、クラシック、ジャズ、スポーツ・・・こういった業界で活動する日本人にとって、「世界」とは、割合近くに存在するものです。

言葉の壁がないために、絵や音楽といった抽象言語ですぐコミュニケーションをとれる。感性の違いとか、層の厚さの違いとかはもちろんあるでしょうが、「世界」と同じスタートラインに立つこと自体は、難しいことではない。才能がみとめられれば、すぐにでも「世界」に飛び出してゆくことができます。

たとえば、サッカー日本代表が「世界」に挑む、と言えば、闘うべき相手はブラジルやアルゼンチン、スペインやイタリアであるとすぐ思い浮かぶ。「世界」が非常に具体的な存在としてあるから、そこに挑むための戦略も具体的に立てやすい。

むろん、「世界=欧米」などでないことは、いうまでもありません。日本では、「世界に追いつけ」とか「世界も認めた日本の・・・」などと言うフレーズが使われるとき、「世界」は「欧米」や「アメリカ」といったせまい範囲を指すことが多い。でも、さっきも例にあげたサッカーなら、南米も中東もアフリカも「世界」だし、柔道なら日本が「世界」です。この点は、しっかり確認しておきたい。

さて、芸術分野で考えてみましょう。演劇や映画は言葉の壁があっても字幕や吹替えによって世界に作品を流通させることができます。渡辺謙が映画俳優として出てゆく「世界」とはつまりハリウッドのことだし、蜷川幸雄がシェイクスピア劇をやるなら「世界」はイギリスを指す。むろん、簡単なことではないですが、しかし不可能ではない。だから、チャレンジもできる。

では、お笑いの場合は、どうなのでしょう。

これは、非常に難しい問題です。不公平ですらある気がします。
基本的に、お笑いが世界進出するというのは、ほぼ不可能に近い。

例外的に成功している人々も、もちろんいるにはいます。電撃ネットワーク*とか、“サイレントコメディー”のが~まるちょば。お笑いに含めていいのかどうかわからないけど、マジックのナポレオンズ。他にももしかしたら、日本では知られていないけど海外では大活躍している芸人さんはいるのかもしれません。しかし、日本である程度キャラを確立し、地位も築いたテレビタレントが、そのキャラのままで「世界」に進出するというのは、非常に難しいことです。
(*はじめ「大川興業」と記していました。相当失礼な誤記でお恥ずかしい限りです。深くお詫びします。好きです、大川興業!)

お笑いにとって「世界」とは、具体的にどこを指すのだろうか?

非常に単純に、われわれは「アメリカ」を思い浮かべます。それは間違っちゃいない。エンタテイメントの本場は、なんといってもアメリカですから。かくいうわたしも、アメリカのエンタメが大好きです。レベルや層の厚さ、徹底したプロフェッショナリズム、巨大な市場、どれをとってもアメリカのエンタテイメントが世界一であるのは、どんなに否定しようとしてもできない事実です。人気が出てハリウッド映画に出演できたりなんかすれば、世界的な名声が一夜にして手に入る可能性だってあるのです。

しかし、テレビにおけるエンタメについては、近年のアメリカはそれほどレベルが高いとは思えない部分もある。アメリカのテレビを視聴することはできないので、伝え聞いたり自分なりに情報を収集したうえでの印象でしかないですが・・・

たとえば、ここ数年、サタデーナイトライブに「ロンリー・アイランド」という若いコメディ・チーム(お笑いトリオ)が出演していて、ものすごい人気があるらしい。不勉強なわたしはつい最近ようやく彼らのことを知り、正直言うとかなりハマってしまいました。彼らのネタというのは、90年代風ヒップホップやラップ系のカッコいい曲にくだらない歌詞をつけて、カッコいいけどくだらないPV(本人出演)を作って見せるというもの。

たとえば、こういうの。大御所歌手のマイケル・ボルトンが『パイレーツ・オブ・カリビアン』の大ファンと称してジャック・スパロウになりきる、ずばり「ジャック・スパロウ」と題された曲です。↓



「ええっこんな人が!?」というような一流アーティストにヘンな歌詞を歌わせ、そのくだらなさとは裏腹にPVはカッコいい。このギャップが、ロンリー・アイランドのおもしろさです(演出等も自分たちでやってるらしい)。

最初見たときは大笑いしたんだけど、しかし冷静に考えてみると、これってすでにとんねるずが20年以上やってきたことなんですよね。楽曲はハイクオリティ、歌唱力もある、ルックスもいい、なのに歌詞はむちゃくちゃやん、っていう。そう考えると、「アメリカの方が遅れてるわね」なんて思わないでもない。とんねるずだって、時代が違えばハイレベルでおもしろいPVをたくさん作ったでしょうからね。野猿や矢島美容室では、実際それをやりました。

(そもそもサタデーナイトライブ自体、全盛期はとうの昔に過ぎている。マイク・マイヤーズやダナ・カーヴィ(ウェインズ・ワールド)あたりが世界的人気を得た最後で、ウィル・フェレル以降は良いコメディアンをまったく輩出していない。)

矢島美容室といえば、PVのYouTubeでの動画再生回数がものすごいことになっています。「ニホンノミカタ」は再生回数4百万回をゆうに超え、今日の時点でユーザーコメントは1,700以上。コメントは海外からの反応でうめつくされています。タイトルを英語で出してるわけでもなく、歌詞に英語のサブタイトルをつけてるわけでもないのに、です。

コメントは英文で書かれてるものがほとんどですが、どの国からの反応かはわからない。つまり、文字通り「世界中」が矢島美容室の動画を見て反応しているということを、これは意味します。インターネットのおもしろいところですよね。

むろん、すべてが好意的な反応ではないし、「女装してるということはこいつらゲイ?」といった実に安直な感想も多い(こういうこと言うのはたいていアメリカ人だけど、まあ決めつけは良くないね)。しかし、なにはともあれ、矢島美容室が人種や国境を越えた多くの人々の心をとらえる「何か」を持っていた、ということは、確かなんじゃないでしょうか。

矢島美容室feat.プリンセスセイコの「アイドルみたいに歌わせて」のPVに、ちょっと不思議なシーンがあります。街の路地裏にいるストロベリーが、ブルースブラザーズそっくりの2人組をボコボコにし、そのうちの1人を食べて(?)しまう。1人は骸骨になり、もうひとりは逃げ出す。これは明らかに、夭折したジョン・ベルーシへの言及でしょう。



PV内のストーリーとはまったく関係ないこの場面は、いったい何を意味してるんだろう?ブルースブラザーズといえば、とんねるずは昔(85年か86年頃)CNNかどこかで「和製ブルースブラザーズ」として紹介されたことがあるらしい。広告批評のインタビューでタカさんがちょっとだけ自慢していました。もしかしたら、そのあたりの路線をとんねるずはずっと意識していたんだろうか?

完全に想像の域を出ませんが、そしてこれは大胆すぎる想像かもしれないけど、もしかしたらかつてとんねるずは、「世界」進出をも考えていたんじゃないだろうか?それは、日本のテレビタレントがまだ誰も成し遂げていない未踏の領域です。昔、ザ・ピーナッツが西ドイツのテレビでメインをはったことがあるそうですが、おそらく成功した例はそれくらいでしょう(ちなみにザ・ピーナッツはとんねるずと同じく井原高忠氏が名付け親)。

「世界」とは、とんねるずの場合当然アメリカになるわけで。やはりエンタテイナーである限りはアメリカ=てっぺんを目指すのは自然なことです。常に「大志」を抱くとんねるずなら、なおさら。

こう考えてくると、やはりどうしてもタカさんの『メジャーリーグ2、3』への出演を想起せずにはいられない。どういう経緯でタカさんの出演が決まったのかはよくわかりませんが、アジア人俳優への風当たりが強いハリウッドで、役者でもなく英語もしゃべれない日本人があれだけ大きな役で出演するというのは、常識では考えられないでしょう。背景に何があったにせよ、コメディアンとしては大快挙でした。「世界のキタノ」でさえ、外国映画にコメディアンとして出たことはないのですから。

しかも、小林信彦氏も認めたように、タカさんはテレビでのキャラクターをそのままハリウッドにぶつけ、ものすごいインパクトを残した。



怒ったタカ・タナカが「どけっ!」って感じでチームメートを突き飛ばすところ、好きなんですよ。ハリウッド映画でこんなことする日本人、見たことないもの。タナカの役柄が大きいというよりも、タカさんがそのハイテンションでこの役を大きくした、とも言えるんですよね。

わたしが一番すごいと思うのは、タカさんがこの二本の後に、さらに『悪魔たち、天使たち』にも出たことです。野球ともお笑いともまったく関係がなく、日本にはなじみのうすいアメリカの社会問題を扱ったこの映画にタカさんが起用されたのは、単なるおにぎやかしではなくて、正真正銘役者として認められたことを意味するからです。

この3本の映画への出演が、タカさん、ひいてはとんねるずにとって、とてつもない自信につながったであろうことは容易に想像できます。そして、それと同時に、たちはだかる言葉や人種の壁にも、いやおうなく気づかされてしまったかもしれない。
“オレたちの笑いはきっと「世界」に通用するはずだ、言葉さえ通じれば・・・”
ひょっとしたら、そんな想いがあったのではないか・・・

それでも、きっととんねるずは、媚びてまで、頭を下げてまで「世界」に認めてもらおうとはしなかったはずです。『メジャーリーグ2』のタカ・タナカが堂々と日本語で悪態をつき、情けないチームメートに活を入れて立ち直らせたように、とんねるずは「世界」に対しても決して自尊心を失わない。「世界」がオレたちをどう見ていようが、一喜一憂したりしない---そんな気概を、わたしは感じるのです。

「世界」から多くを学びながらも、常に自分らしくあること。日本の芸人としての自尊心を失わない姿勢。まっすぐ背を伸ばし、頭を上げて「世界」をながめる、とんねるずは笑いのサムライです。結局はそれが、野猿の「Fish Fight!」や矢島美容室動画への、意図せぬワールドワイドな反響につながったのではないでしょうか。もっとも、そんな反響があることも、とんねるずはいちいち言わないけれどね。


*追記:
大事なことにふれそびれていました。
「おかげでした」の脳カベが、世界20カ国以上に輸出されたことです。

「ホール・イン・ザ・ウォール」や「ヒューマン・テトリス」等タイトルはちがえど、効果音や衣装、セットなどのコンテンツはそっくりそのまま輸出されたのが驚きでした(欧米の人たちがモジモジ君HYPERの全身タイツを着てるのを見るだけでも何やらシュールだ)。しかも、きわめて短期間で世界中に一気に広がったというのは、いったいどういう現象だったんだろう?

海外バージョンは、チームにわかれて賞金を競うという体のものが多いみたいですね。どうやら視聴者参加型ゲームみたい。かなり人気のある番組になってるようですが「ジャパンのオリジナルの方がずっとおもしろい」という声もけっこうあるようで。

考えてみれば、「風雲!たけし城」以来、体をはった日本のバラエティは海外で人気を呼んできたんですね。








最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「大志」~いい言葉ですよね! (みあ)
2011-11-06 22:57:51
トム・クルーズをゲストに迎え、書道で「あかんデミー賞」戸田さんが「次こそはアカデミーショーを!」と通訳。私のお気に入りです。あのトム・クルーズ相手でもいつも通りで・・(笑)。「世界」まずテーマに嬉しい驚き。でも初めて出てきた頃、「日本」という枠では少し窮屈そうに思えました。(単にデカイから??)素敵な文章ありがとうございます。面白く愛がいっぱいで嬉しくなりました。彼らの決して媚びない姿勢はやはり魅力的です。
返信する
みあさん (ファイアー)
2011-11-08 01:19:16
「あかんデミー賞」、ありましたねえ(笑)
ハリウッドスター相手でも一歩もひかないところがかっこいい!

>「日本」という枠では少し窮屈そう

そう感じてらっしゃったんですね~確かにそうですね。
いまでも、どこか飽き足らないんじゃないかなって思わせるところ、あるような気がします。
返信する

コメントを投稿