サランヘヨ 登山

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北壁の死闘

2012年02月06日 | 山岳小説

作者:ボブ・ラングレー、訳:海津正彦、出版社:創元推理文庫、¥1100

アイガー北壁で氷漬けのナチ軍人の死体が発見された。
謎の遺体に関心を抱いたBBC局員が意外な事実を探り出す。
第2次大戦末期、原子爆弾の開発をめぐっ てナチ・ドイツが精鋭クライマーを集めて打った奇策。
追いつめられた彼らが魔の北壁で繰り広げた壮絶な死闘。
比類のない迫真の登攀シーンで話題を呼んだ日本冒険小説協会、大賞受賞の超一級の山岳冒険小説です。

アイガー北壁

アイガー北壁がすぐ目の前、クライネ・シャイデック




アイガー年譜(1858~1965年)

1858年 アイガー初登頂。アイルランドのチャールズ・バリントンら。西壁(南西面と西稜)初登攀。
1870年 「アイガーを貫通する鉄道」として、ユングフラウ鉄道の計画に着手(着工は1896年)。
1874年 南西稜初登攀。アメリカのマルガリータ・ブレヴォールドら。女性初登攀。
1876年 アイガーヨッホ北面よりの初登攀(南稜の初登攀)。イギリスのG・E・フォスターら。
1912年 ユングフラウ鉄道開通。
1921年 ミッテルレギ山稜(北東稜)の初登攀。日本の槇有恒ら。
1932年 北東壁初登攀。スイスのハンス・ラウパー博士ら。
1934年 北壁初挑戦。ドイツのW・ベックとG・レーヴィンガー。標高2900mに達したが転落。
1935年 北壁遭難。8月21日~25日。ドイツのマックス・ゼーデルマイヤーとカール・メーリンガー。
       第3雪田の上、標高3300mの≪死のビバーク≫にて凍死。
1935年 北壁遭難。ドイツのトニー・クルツ、アンドレアス・ヒンタシュトイサー、オーストリアのヴィリー・アンゲラー、エディ・ライナーの4人。
        3350mの高度から下降中に死亡。 同年  ベルン州の議会は、アイガー北壁の登攀を禁止。

1936年 7月18日、ドイツのアンドレアス・ヒンターシュトイサーとトニー・クルツ、オーストリアのエディー・ライナーとヴィリー・アンゲラーの2隊が
       競いながら登頂を目指し、ヒンターシュトイサーが第1雪田の下の難しいトラバース(ヒンターシュトイサー・トラバース)に成功、
       更に「死のビバーク」を越 える位置まで登攀する。しかしアンゲラーが負傷したことから2隊は助け合いながら下山することを決定、
       天候の悪化からビバークを余儀なくされる。
       7月21 日、ザイルを回収してしまったことが仇となって退却できず、何とか脱出を試みるもクルツを除く3人が墜落などで相次いで死亡。
       クルツも救助隊の元にザイル で下りる際にカラビナにザイルの結び目が引っかかるという悲劇に見舞われ、体力を消耗し切っていた為に
       結び目を外すことができず、ザイルにぶら下がったま ま、7月22日、「もうダメだ」の一言を残して力尽きる。
       救助隊の僅か数m上であった。この事件により、ベルン州の州議会は北壁の登攀を禁止する決議を採 択する(翌年、条件付きで緩和)。
1937年 7月6日のベルン州議会の新決議により、36年の禁止令を緩和。
1937年 7~8月にかけて、6組のパーティが北壁挑戦。
1938年 北壁初登攀。7月21日~24日。ドイツのアンドレアス・ヘックマイアーとルートヴィッヒ・フェルク、
       オーストリアのハインリヒ・ハラー、フリッツ・カスパレクが達成。以後このルートは、「ヘックマイアー・ルート」と命名された。
    
1963年 芳野満彦、渡部恒明らが日本で初めてアイガー北壁に挑む。渡部が100m付近から墜落したが深雪の上に落ちたため九死に一生を得る。
1965年 8月16日、高田光政が日本人初登頂
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北壁の死闘   あらすじ
 
アイガー北壁の難所、《神々のトラバース》を登攀中のクライマー2人が、奇妙な遺体を発見した。終戦後40年経ったとき。
白骨化した下半身、氷漬けになっていたため損なわれていない上半身には、ナチ・ドイツの騎士十字勲章と美しい女性の写真
をおさめたロケットをかけている。
2人は下山後警察に通報するが、発見をかたく口止めされた。
話をききつけたBBC(イギリス放送協会)調査員が探り出した意外な事実とは?
息もつかせぬ迫力の登攀シーン、北壁の死闘、敵は誰だ? 勝ったのは誰だ?
当時どのようなドラマが展開されたのか。

舞台は、永世中立国スイス、聳え立つはアルプス。
アイガー北壁は、標高3970メートルで「人喰い壁」や「魔の北壁」などの異名を持っている。
時は第二次世界大戦中、主人公はイタリア戦線に配属されたドイツ国防軍のエーリッヒ・シュペングラー軍曹。
彼は戦前はドイツを代表するクライマーだったが、ある理由から登山を諦めた男だった。
しかし彼は撤退中に突然本国に呼び戻される。
少尉に特進の上、精鋭クライマーで構成される特殊攻撃部隊への配属を命じられる。
過酷な訓練を経て実行に移される特殊任務。しかし、計画は徐々に狂いを生じていく。
そうした中、シュペングラーは任務のため、自分自身の過去に決着をつけるためにアイガー北壁へと向かう...

1944年。ドイツ軍が戦争の終結をかけて挑んだ無謀とも言える作戦。
ドイツ軍は、ウラニウムを蓄積し核開発を進めていた。
中立国であるスイスでも、研究が進められていた。
ユングフラウ鉄道の観光施設の一部を核の研究施設として使っていた。英米の意思が感じらる。
ドイツ軍の目的は研究のキーマンであるヴァルター・ラッサー博士を拉致し、自国の核開発を一挙に発展させることにある。
国内ではヒトラー暗殺未遂、戦局ではますます敗色濃厚となっていた。
核のみが起死回生策です。ラッサー博士の拉致チームが結成される。
主人公であるシュペングラー、熱血的な軍人であるヘンケ、医師である紅一点ヘレーネ・ケスラー、そして若干名の山岳兵。
シュペングラーはドイツ国防軍の軍曹で、元は名を知られたクライマー。
アイガー北壁に立ち向かうなクライマーだったが、とある事件がきっかけで山に対して恐怖を覚えている。
しかもその事件の現場がアイガー北壁。彼は罪の意識を抱え、悩みながら登ります。
仲間のためなどいろいろな理由はありますが、結局は自分のために闘っている。
かつて敗北した対象を征服することで、自分の中の悪夢を打ち消そうとしているのです
計画は、研究施設の近くまでグライダーで侵入し、ラッサーを拉致し氷河を下るというもの。
ラッサーには、持病の糖尿病があり、そのため登山経験のある医師が必要だった。
目的は、あくまでラッサーの頭脳である。
そのためには、彼を決して死なせてはいけない。
その治療に当たる医師が偶然女性であり、さらに連合軍のスパイであった。しかも、シュペングラーとヘンケは、前日大乱闘

を繰り広げています。チームワークは期待できません。
荒天の中、グライダーは飛ぶ。連合軍が迫っていて遅延が許されないのだ。
グライダーは不時着っするが研究施設に侵入する。
無事ラッサーの身柄を確保する。
女性医師ヘレーネは、警察に通報、当然、下れば追っ手が待ち受けている。
氷河を下る計画は、決定的に破綻する。
残るは降参か、それとも、眼の前のアイガー北壁か。
下ることが無理であれば、アイガーを登るしかない。それも北壁。
そして、荒天の中、北壁の死闘が始まる。最大の敵は、自然です。
追う者も追われる者も、アイガー北壁へと。登る者を食らいつくす魔の壁へと。
しかも、糖尿病患者をサポートしながらの登攀。チームワークは期待できそうにない。
最悪の条件下を、アイガーの北壁を登りきらなければならない。不可能を数倍するようなもの。

ここからはアイガー北壁のルート図を参照しながら、読み続けることになする。
ユングフラウ鉄道の坑道口を脱出し、クラックを通過し、ヒンターシュトイサー・トラバースを通り抜けていく。
第二雪田、第三雪田の上方を越え、"神々のトラバース"を通過する。
原題となっている TRAVERSE OF GODS(神々のトラバース)。
なんとかトラバースを移動し、最終出口のクラックに挑む。いよいよピークまでわずか。
しかし、ここで事故が発生します。隊員が命を落とす。
シュペングラーも転落。先行していたヘンケが戻ってくる。
犬猿の仲だったヘンケも山男だった。ヘンケは自らの命を賭して、シュペングラーを救ける。

中略

一方、先行していたヘレーネは、ラッサー博士とともに、米軍に保護される。
ヘレーネは、行動を共にするうちに、シュペングラーを愛するようになっていた。
ヘレーネは、彼の身を案じ続けます。
シュペングラーは膝を突き、首から騎士十字勲章をはずすと、ヘンケの首に回して止めた。
こんなものではとても足りない。・・・・こいつは、自分などよりも、よほどきみにふさわしい。
立ち上がろうとして、雪の中の何かに目を引かれた。それは、小さなロケットで、ヘレーネ・レスナーのものだった。
それも一緒に氷漬けになったヘンケの首に回した。
しかし、シュペングラーの片手は、転落のため使いものにならない。
はたして、神々のトラバースから脱出できるのか...。

時代は現代に戻り、BBCのスタッフの調査が続く。
40年後のヘレーネを探し出し確認のため、彼は調査結果を語る。
さらにシュペングラーのその後を知りたいと語るが、ヘレーネは興味を示さない。
へレーネと別れたBBCのスタッフは、パプでビールを傾けるが、一人の青年からヘレーネの夫の話を聞く。
ヘレーネの夫は、酔うと必ずといっていいほど、アイガー北壁を第二に登ったのは自分であると言う。
しかし、二番目に成功したのが別人であることは確定した事実であり、登山史を知る者にはホラとしか聞こえない。
気になったBBCのスタッフは、ヘレーネの自宅に向かう。
すでに日暮れ時、いまでは片腕を失っているシュペングラーは、読書する妻の肩に手を回している。
ヨーロツパ中を飛び回って、求めていた答がここにあったのだ。
だが、2人の幸せを邪魔する権利が自分にないことを痛感する。
暮れなずむ夕日の中、物語はしずかに終わる。


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