エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

福島原発事故に思う「国難をいかに乗り切るか」

2011-03-13 11:21:55 | Weblog
(今回の地震により罹災された方々に心よりお見舞いを申し上げます)
首都圏で使われる電気の約4割が、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所、福島県の福島第一・第二原子力発電所と3ヶ所の原子力発電所における発電でまかなわれています。今回の福島原子力発電所の事故は、われわれのライフラインのあり方を痛切に考えさせる契機となりました。
実は私は、以前2年間原子力安全(国際関係担当)をやったことがあります。その過程で07年7月に起こった地震による柏崎刈羽原子力発電所の運転停止問題も経験し、IAEA(国際原子力機関)における津波に関する国際安全基準の作成等にも関与しました。08年10月には、ワシントンでのNRC(米原子力規制委員会)との協議、ウィーンにおけるIAEAでの国際会議後、ウクライナのチェルノブイリを訪れました。86年にメルトダウンを起こした人類の原子力史上最悪の事故の現場です。早朝キエフのホテルを出発し夕方もとるまで1日間の行程でしたが、原子力発電所があったサイトではメルトダウンを起こした場所から200メートルのところまで接近しました。
チェルノブイリで問題となったロシアのRBK炉とフェールセーフ構造になっている日本の軽水炉とは話は異なりますが、今回の事故を契機として、ハードかソフトか(原子力か、自然エネルギーか)、ホットかクールか(化石燃料を含め費用対効果を重視するか、否か。最近『クールソリューション』という本を出した金谷年展さんは私の友人です)という軸を超えて、「スマートなソリューション」が必要なように思っています。
ここで、私が「スマートなソリューション」というのは、ハードかソフトかあるいはホットかクールかという単純な二項対立でこの問題を考えるのではなく、スマートな規制の枠組み(スマートレギュレーション)の下で、エネルギーの地産地消、ユーザ指向の問題の解決、技術エンジニアリングのみならずソーシャルエンジニアリングを重視するアプローチのことです。この点については、昨年8月の情報処理学会誌(「エネルギーの情報化」特集号)に小さな論考を寄稿していますので(http://www.smartproject.jp/wp-content/uploads/pdf/100820_141340_001.pdf)、是非ともお読みください。
今後日本は『国難』とも言える状況の下で、被災者の救助、震災からの復興、国土の再建という課題に取り組まなければなりません。国民の心が一つとなり、一丸となって『国難』を乗り越えていかなければなりません。これは、1853年黒船の来襲ののちの1854年に大地震が東海(M8.4)・南海(M8.4)豊後と愛媛(M7.4)を、1855年に安政の大地震が江戸をそれぞれ襲ったにもからわらず(M6.9)、当時の民衆が藩への帰属意識から日本国民としてのアイデンティティを確立し、幕末期の『国難』を乗り越えて明治維新を成し遂げたことを思い起こさせます。
厳しい財政事情、税と社会保障の一体改革、TPPへの参加問題など、先延ばしできない課題も横たわっています。しかし、これらは従来の取り組み姿勢では解決できなかったのではないでしょうか。大変な『国難』ですが『国難』であればこそ、上述のわれわれのライフラインの再設計を含めてわれわれの子孫に『未来』を残す覚悟と構想が求められているのではないでしょうか。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;米国政府におけるスマートグリッド推進組織)

2011-03-11 07:12:15 | Weblog
米国政府が推進するプロジェクトの中核組織は、米エネルギー省(DOE)、その舵を取るのはスティーブン・チュー長官です。チュー長官は、1997年にエネルギー物理の研究でノーベル賞を受賞し、その後バイオシステムの研究を進め、同時に化石エネルギー代替技術を幅広く研究してきました。シリコンバレーのスタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校の教授、国立ローレンスバークレー研究所の所長を務めたチュー長官が、アメリカだけでなく世界を視野に入れた新エネルギー政策の旗を振っています。ねらいは、「科学と技術で強いアメリカの再生」です。
このため、スマートグリッドに関係する研究開発を統括する組織として「ARPA-E」(Advanced Research Projects Agency-Energy)と呼ばれる部局を設立しています。米国防省(DOD)に国防関係の技術開発を統括するARPAと呼ばれる組織が設置されていることにヒントを得たものです。ARPAは、インターネットの基盤となった国防技術を生み出した組織として有名です。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;米国のGreen Bank構想)

2011-03-10 07:02:54 | Weblog
2010年米下院を通過したWaxman-Markey法案には、Green Bank設立構想が盛り込まれていました。
財務省が100億ドルを拠出してCoalition for the Green Bankに基金を設立して、その基金が銀行に対して、20年の償還期間の下に1,000億ドルの債務保証をし、その銀行が出資を受けた資金と共に総額2,000億ドルを再生可能エネルギー事業者に対しての投融資しようというものです。
 これにより、化石燃料の20%以上を再生可能エネルギーで代替し、100GWの電気を供給することを目標としていました。私が提唱する「減CO2(ゲンコツ)バンク」に近い考え方といえます。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;米におけるスマートグリッドの水版)

2011-03-09 06:54:54 | Weblog
アメリカではスマートグリッドの水版、スマートウォーターの動きが出てきました。ジョージア州で成立した節水法がそれで、節水法の主な内容は、①12年7月から、すべての新しい建物に高効率のトイレ、水回り機器の設置を義務付ける、②12年7月から、集合住宅や商業・産業施設にはユニットごとに(例えば集合住宅の場合、世帯ごとに)サブメーターの設置を義務付ける、③州政府は、地方自治体を支援するかたちで、既存建造物への新しい装置の導入とともに、節水プログラムの施行や水供給開発の増進へのインセンティブを導入する、④州環境保全局は、すべての中・大規模公共用水施設の水漏れ検出基準を設定する、などとなっています。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;シェールガス革命が引き起こすLNG供給過剰と価格低下)

2011-03-08 06:42:58 | Weblog
非従来型の天然ガスであるシェールガスが脚光を浴びています。シェールガスは粘土質板岩層や黒板岩層(Shale)に含まれる天然ガスで、世界全体の埋蔵量は450兆立方メートルと推定され、天然ガス価格の値上がりもあって近年米国での開発が急速に進展しています。米国の2007年以降の年間生産量は液化天然ガス(LNG)換算で4,000万トン、米国の従来型天然ガス総生産量の半量に相当します。採算性の面でも十分市場競争に耐える標準製品となりつつあります。
ここ数年のシェールガス資源開発の進展により、新規の生産者が参入し、天然ガス市場の再編が始まっています。近年液化ガス部門に多大な投資を行ったカタールや西アフリカ諸国では、経済危機に起因する需要減少と、米国市場のシェールガス流通量の増加で、8,000万トンの生産過剰となりました。パイプラインで輸送される天然ガスの販売量も、2、3年前の予測を大きく下回りました。そのため市場は供給過剰となり、米国市場で価格が低下、LNG生産国にとっては打撃となりました。ロシア、北欧、中近東、北アフリカ、中央アジアの生産者がシェアを争う欧州市場にも、米国向けが予定されていたLNGの一部が回るため、欧州でも供給過剰と価格の低下が進んでいます。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;米ブライトソースエネジーの巨大太陽光発電所建設計画)

2011-03-07 06:53:41 | Weblog
アメリカにおいて10年第2四半期のVC投資第2位のブライトソース・エナジーは、調達した資金で16年までに南西部で太陽光発電所14基の建設を推進する計画です。この計画は、発電総量2,600メガワット(MW、約90万世帯の年間消費電力に相当)に達する巨大プロジェクトです。エネルギー省は10年2月に、同計画の一部であるカリフォルニア州南西部に3基の太陽光発電所を建設する計画(イバンパプロジェクト、発電総量400MW:約14万世帯の年間消費電力に相当)を実行するために、13億7,000万ドルの債務保証を付けることを決定しています。ブライトソース・エナジーは、イバンパプロジェクトの建設で30年間に自治体や州に4億ドルの税収をもたらし、6億5,000万ドル規模の雇用を生み出すとしています。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;ドイツの固定価格買い取り制の最新動向)

2011-03-04 06:56:38 | Weblog
ドイツの再生可能エネルギー法は、2008年6月に大きく改正され、09年1月より施行されています。改正にあたっては、20年までに電力供給に占める再生可能エネルギーの割合を20%から30%に引き上げ、その後も継続的に上昇させるとしましたが、固定価格買取り制については、それが社会に定着し、再生可能エネルギーの割合が急速に上昇してきている実態を踏まえ、制度改善がなされました。
 すなわち、固定価格買取り制の下での太陽光発電の取り扱いについて、電力料金の上昇という国民負担の増大にも配慮し、買取り価格を引き下げるとともに、太陽光発電について買取期間中の買取り価格の低減率を他の再生可能エネルギーよりも高めたり、導入量によってて低減率を変化させるとしています。
 さらに、再生可能電力発電事業者が、希望すれば固定価格制を離脱することができ(暦月ベースで離脱し、暦月ベースで復帰できる)、直接電力を販売することができることを規定し、再生可能電力発電事業者の自立化にも配慮しています。

「スマートグリッド革命」(政策;電気をデジタル化す「デジタルグリッド」構想)

2011-03-03 07:00:28 | Weblog
D象限へのスマートグリッドの進化に関して、東京大学大学院工学系研究科の阿部力也特任教授は「デジタルグリッド」という構想を提案しています。アメリカのスマートグリッドは、電力ネットワークはほぼそのままにして、情報系を双方向に切り替えていくという発想に基づいたシステムですが、阿部教授の「デジタルグリッド」は、電力ネットワーク自体の切り替え、デジタル化を行おうというものです。

 阿部特任教授によると、電力信頼性の高い日本でさえ、太陽光などの再生可能な発電所が日本全国に設置されると、天候によって発電量が左右されるため、大電力の潮流が起きてしまいます。そこで、阿部特任教授は、従来の同期送配電システムを基幹送電線と非同期分散のマイクログリッドに分離しようと提案しています。例えば基幹系統下流の変電所以下を独立したマイクログリッドにし、電力貯蔵装置と分散電源でそれぞれ独自に周波数調整を行って変動を吸収しようというものです。周波数調整範囲を少し拡大すれば、電力貯蔵装置の負担を緩和できます。また、小さなマイクログリッドの電力貯蔵容量に余裕を持たせるため、阿部特任教授の考案した「デジタルパワールーター」を用いて、他のマイクログリッドや基幹系統から必要に応じて電力を融通するようにして、貯蔵容量を少なくできるようにします。 電力を融通し合うルートがマイクログリッドの数の2乗に比例して増えるため、インターネットのように、さまざまなルートから安定的に電力を供給できるようになります。

 これにより、電力を大量に消費する産業部門は基幹送電線から電力を受け取り、民生用の電力は再生可能エネルギーを主体としたマイクログリッドの電力を受け取るという2層構造を構築することができます。マイクログリッド間の融通電力量を調整するには、電力線通信(PLC)により電力網を情報網としても活用します。このため、各マイクログリッドの通過ポイントにIPアドレスを付与しておき、電力を融通し合う問い合わせのプロトコールを定めます。そして、電力を融通する電力量そのものにヘッダーとフッター情報を付けて、そのアドレス情報に従って電力の不足しているところへ配電します。

 こうすれば、電力融通を予約・確定・実施するプロセスが可能となり、新しい電力融通の形態が可能となります。阿部教授は、これを「デジタル電力」と呼んでいますが、この考え方を家庭単位にまで発展させることができると指摘しています。阿部教授は、この新電力系統システムとビジネスモデルを日本国内から世界市場へと輸出していきたいとしています。

「スマートグリッド革命」(進化;「アナログ」・「同期型」から「デジタル」・「非同期型」へ)

2011-03-02 07:05:24 | Weblog
情報通信ネットワークは、10年ごとに段階を追って進化してきました。1980年代のPCの時代から、90年代にようやくインターネットがネットワークの基盤となりました。2000年代に入ると、それがウェブ2.0やクラウドコンピューティングへと進化してきました。インターネットの社会変革の力は誰もが共通して認めているところであり、その力の源泉はネットワークが生命のように進化していく「自己組織化」にあると考えられます。環境エネルギー問題についても、その解決のためにこれから長い時間がかかるでしょうが、今必要なことは、エネルギーネットワークにも「自己組織化」という息吹きを吹き込むことだと思います。

エネルギーネットワークも、これからは情報通信ネットワークと同様に、「自己組織化」のダイナミズムの下で進化していくものと考えられます。図表に示すように、情報通信ネットワークの進化とこれからのエネルギーネットワークの進化を対比させて考えると、図表の上覧に示すように、情報通信ネットワークの進化は、「アナログ」・「同期型」から「デジタル」・「非同期型」へという大きな方向に向かって進化してきたことがわかります。この大きな進化の方向性は、情報通信であれエネルギーであれ、ネットワークに共通するパターンであると思われます。

そうすると、現状における「アナログ」・「同期型」エネルギーネットワークは、図表の下欄のように、これから「自己組織化」のダイナミズムの下で、「デジタル」・「非同期型」へ進化していくといえるのではないでしょうか。私たちは、今後の「スマートグリッド革命」の発展を構想するに当たり、このような「ネットワークの進化」の視点を忘れてはいけません。