エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

福島原発事故を乗り切るため「エネルギーのインターネット」の構築を!

2011-03-16 06:57:07 | Weblog
(福島原発事故が提起している「スマートソリューション」の必要性)
首都圏で使われる電気の約4割が、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所、福島県の福島第一・第二原子力発電所と3ヶ所の原子力発電所における発電でまかなわれています。今回の福島原子力発電所の事故は、われわれのライフラインのあり方を痛切に考えさせる契機となりました。
実は私は、以前2年間原子力安全(国際関係担当)をやったことがあります。その過程で07年7月に起こった地震による柏崎刈羽原子力発電所の運転停止問題も経験し、IAEA(国際原子力機関)における津波に関する国際安全基準の作成等にも関与しました。08年5月には、ワシントンでのNRC(米原子力規制委員会)との協議、ウィーンにおけるIAEAでの国際会議後、ウクライナのチェルノブイリを訪れました。86年にメルトダウンを起こした人類の原子力史上最悪の事故の現場です。早朝キエフのホテルを出発し夕方戻るまで1日間の行程でしたが、原子力発電所があったサイトではメルトダウンを起こした場所から200メートルのところまで接近しました。
チェルノブイリで問題となったロシアのRBK炉とフェールセーフ構造になっている日本の軽水炉とは話は異なりますが、今回の事故を契機として、ハードかソフトか(原子力か、自然エネルギーか)、ホットかクールか(化石燃料を含め費用対効果を重視するか、否か。最近金谷年展さんの『クールソリューション』という本が出版されました)という軸を超えて、「スマートソリューション」が必要なように思っています。
ここで、私が「スマートソリューション」というのは、ハードかソフトかあるいはホットかクールかという単純な二項対立でこの問題を考えるのではなく、スマートな規制の枠組み(スマートレギュレーション)の下で、エネルギーの地産地消、ユーザ指向の問題の解決、技術エンジニアリングのみならずソーシャルエンジニアリングを重視して「エネルギーのインターネット」を構築するアプローチのことです。この点については、10年8月の情報処理学会誌(「エネルギーの情報化」特集号)に小さな論考を寄稿していますので(http://www.smartproject.jp/wp-content/uploads/pdf/100820_141340_001.pdf)、是非ともお読みください。

(安政の大震災を乗り越え明治維新を実現した日本人の覚悟と構想力)
今後日本は「国難」とも言える状況の下で、被災者の救助、震災からの復興、国土の再建という課題に取り組まなければなりません。国民の心が一つとなり、一丸となって「国難」を乗り越えていかなければなりません。これは、1853年黒船の来襲ののちの1854年に大地震が東海(M8.4)・南海(M8.4)豊後と愛媛(M7.4)を、1855年に安政の大地震が江戸をそれぞれ襲ったにもからわらず(M6.9)、当時の民衆が藩への帰属意識から日本国民としてのアイデンティティを確立し、幕末期の「国難」を乗り越えて明治維新を成し遂げたことを思い起こさせます。
厳しい財政事情、税と社会保障の一体改革、TPPへの参加問題など、先延ばしできない課題も横たわっています。しかし、これらは従来の取り組み姿勢では解決できなかったのではないでしょうか。大変な「国難」ですが「国難」であればこそ、上述のわれわれのライフラインの再設計を含めてわれわれの子孫に「未来」を残す覚悟と構想力が求められているのではないでしょうか。

(福島原発事故は世界の環境エネルギー政策の動向を左右する)
今、今回の大震災の罹災者は一刻も早い水、食料、エネルギーの提供を求めています。水、食料、エネルギーのライフラインの問題は、14日以降、幸いにして罹災しなかった人々の生活にも影響を与えます。東京電力管内の需要は4100万キロワット、供給は3100キロワットで、14日から会社設立以来初めて計画停電に踏み切ります。50kHz(東日本)と60kHz(西日本)の2つの周波数があり、周波数変換所の変換能力が120万kWしかない構造上のぜい弱性も露呈されました。
その中で福島原発の事故は、過去のスリーマイルアイランド原発事故(79年)、チェルノブイリ原発事故(86年)後の状況に鑑みると、国内的のみならず、世界的にも「原子力ルネッサンス」の下で原子力推進を図ろうとしていた新興国、途上国、先進国の動きに対して、見直しの気運が起こる可能性があります。その意味で、原子力先進国である日本が今回の福島原発の事故をうまくマネージできるかどうかは、世界の環境エネルギー政策の動向を左右することになるでしょう。それほど福島原発の事故はインパクトのあるものだと思います。

(改めて問われるトリレンマに対する日本の選択)
ここでは、従来の原発反対派と賛成派の対立とは別の次元で、問題の真の所在を考えて見たいと思います。実は、国民の生活の質の維持・向上、地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保、原子力の推進は、原子力というエネルギーをどう考えるかによって、ある種のトリレンマの関係にあります。この世の中には絶対安全ということはありませんが、原子力の安全性やセキュリティの確保に関しては、かなりな程度解決されてはいるものの、高レベル放射性廃棄物などいまだ解決策を持ち得ていないものがあります。原子力アレルギーは別として、日本において一般の人々は、このようなエネルギーとしての原子力に真正面から向かい合おうとはしなかったのです。
トリレンマに対するわれわれ日本の選択は、生活の質の維持・向上を前提として、地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保、原子力の推進をも図るというものでした。ご承知の通り、チェルノブイリ原発事故の後「脱原発」という別の道を選択したドイツは、その後選択の重みに苦悩しています。ここ数年では「脱原発」を軌道修正して原発の稼働期間の長期化などを行ってきていますが、最近では、環境保護派との妥協から原発の稼働期間の延長を認める代わりに税金を徴収し、その税収を再生可能エネルギーの開発に充てるという新しい方針を出しました。

(「エネルギーのインターネット」構築への道)
仮に原子力に見直しの気運が起こったとき、日本はどのような選択をするのかが問われます。そのときは、国民の生活の質の維持・向上と地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保という解決困難なディレンマに直面することになります。「スマートなソリューション」という私の発想(http://www.smartproject.jp/wp-content/uploads/pdf/100820_141340_001.pdf)は、こうしたトリレンマ、ディレンマという袋小路に入り込むことなく、エネルギーの地産地消、ユーザの視点と選択、技術エンジニアリングのみならずソーシャルエンジニアリングという別の次元で、周波数問題への対応、原子力の活用を含めた全体最適を追求する道を構築しようというものです。
ただし、民主主義のあり方とも関係する問題ですので、転換には時間がかかることを忘れてはなりません。必要なことは、全体最適を追求するグランドデザインの構築は早期に行い、それに基づいて国民の合意の下に中長期的なロードマップを作成し、ステップ・バイステップで着実に新しいエネルギーのライフラインとして「エネルギーのインターネット」を構築していくことだと思います(2011年3月12日記す)。