デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

優雅に舞うプア・バタフライをバレルとウッズで聴いてみよう

2014-06-15 09:20:43 | Weblog
 1939年当時、ギターというとコードを弾く伴奏楽器だった。今のようにメロディを弾き、ホーン奏者と対等のソロを取った最初のギタリストはチャーリー・クリスチャンで、偶然オクラホマで演奏を聴いたプロデューサーのジョン・ハモンドが、金の卵とばかりにベニー・グッドマンのオーディションを受けさせる。勿論スイング王も納得する演奏で、即日メンバー入りだ。

 その後のギタリストは当然ながら、クリスチャンの影響を受け、ジャズギターの概念までもが大きく変わった。クリスチャンがジャズ・ギターの開祖と呼ばれる所以である。ケニー・バレルの「A Generation Ago Today」というアルバムはクリスチャンに捧げたもので、クリスチャンが在籍したグッドマンのコンボがレパートリーにしていた楽曲で構成されている。「Stompin' At The Savoy」をはじめ、「Wholly Cats」、「A Smooth One」、「Rose Room」といったギタリストなら世代を超えて一度は演奏する曲で、テクニックは勿論のこと表現力、歌心、さらに遊び心まで問われる曲と言っていい。

 なかでも素晴らしいのは、「Poor Butterfly」だ。プッチーニのオペラ「蝶々夫人」に触発されて生まれた曲で、優雅な舞を見せる蝶々のような美しいメロディを持っている。バレルの洗練された絃の輝きは勿論のこと、フィル・ウッズのバラード表現は絶品だ。ウッズというとジーン・クイルと組んだバンドや渡仏後に結成したヨーロピアン・リズム・マシーンでハードなアルトというイメージが強いが、叙情性あふれるバラード奏者としての一面を見逃してはならない。後半、倍テンポになるのだが、これが実にスムーズでグイグイ引きこまれる。

 通常バンドマンは他所での演奏を禁じられていたが、グッドマンは連日ミントン・ハウスに出かける才能あるギタリストを黙認していたのだろう。グッドマンの温情がなかったらバップの夜明けともういうべき貴重な演奏も記録されなかった。音楽的には素晴らしいグッドマンも人間性に問題があると言われているが、案外良い奴だったかもしれない。名前のように。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする