デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

マイルスは隠遁中、レスター・ボウイを聴いたか

2014-06-01 09:42:06 | Weblog
セントルイスのラジオ局の電話インタヴューで、「僕は2週間前にレスター・ボウイのインタビューをしたのですが、彼があなたについて話していました。ちょうど、AEC(アート・アンサンブル・オブ・シカゴ)とこの町にいたんです」、「ああ、彼らの演奏はかなりのもんだ」と答えたのはマイルスだ。「マイルス・オン・マイルス」(宝島社刊)というインタビュー集に紹介されている。

 マイルスが褒めたAECといえばステージ上に膨大な数の楽器を並べる多楽器主義のフリー・ジャズ・バンドで、正統派のジャズファンからは色眼鏡で見られる存在だ。確かにパフォーマンス性が強いが、ジャズの本質が即興にあるとすれば、多くの楽器を次から次へと演奏すること自体、即興のうえで成り立っているのでそれもジャズなのかもしれない。このバンドの中心的メンバーといえばトランぺッターのレスター・ボウイで、二つに分けた長い顎鬚と、白衣という新興宗教の教祖のようないでたちで知られる。この変わった意匠でさらに敬遠されのだろう。

 アヴァンギャルドな印象が強いが、トランぺッターとしてはルイ・アームストロングの伝統に根ざしたスタイルで、見た目よりも良く歌うし、音色も美しい。滅多にスタンダードを演奏しないが、1989年の「Serious Fun」で、「God Bless The Child」を取り上げている。ビリー・ホリデイが作詞作曲に加わった曲で、特徴のあるメロディに惹かれるのか多くのプレイヤーがレパートリーにしているジャズ向きのナンバーだ。先入観を捨てて聴いてみよう。ビリーの魂の叫びをトランペットで表現しているようだ。視覚以上のジャズ感覚がそこにある。

 先のインタビューは1980年8月3日に行われた。マイルスが自ら課した隠遁生活をしていたころだ。インタビューの最後に「もう一度、ステージに立とうと思っているか」と聞かれ、「たぶんな、いま、話があるのさ。どえらい大金が積まれているんだぜ」と。1981年の「ウィ・ウォント・マイルス」でそのライブが聴ける。沈黙を破ったライブはどことなくレスター・ボウイとAECの異次元を感じた。
コメント (6)
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