デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

そこにはシャイで繊細なボビー・ティモンズがいた

2014-06-22 09:48:43 | Weblog
 ソウルフルでファンキー、この形容詞だけで出てくる名前が何人かいる。ボビー・ティモンズもその一人で、一音でそれとわかるあくの強いピアノだ。ゴスペルを基調とした「におい」を、「匂う」と感じるか、或いは「臭う」と鼻に付くかで大きく好みが分かれる。同時代のウィントン・ケリーやレッド・ガーランドに較べると人気が今一なのはソウル色漂う強烈な個性によるものだろう。

 ジャケット両サイドの文字とシャイなティモンズが妙にバランスを取っているのは「ソウル・タイム」で、リバーサイドに於ける2枚目のリーダー作だ。タイトルからしてアーシーで、ブルー・ミッチェルにサム・ジョーンズ、そして1960年当時の親分アート・ブレイキーという面子、そして選曲はアルバムタイトル曲をトップにメッセンジャーズのブルーノート盤「チュニジアの夜」で初演されたティモンズのオリジナル「So Tired」と続く。これだけでレコードに針を落とす前から音も聴こえてくる。レコードをかけるとここまでは予想通りの展開だが・・・

 次の曲名を見て驚いた。「The Touch Of Your Lips」とある。同名異曲も珍しくないので、これもティモンズの曲かと思ったが、聴いてみるとレイ・ノーブルの曲だった。イギリス出身のバンドリーダーで、代表作の「Goodnight Sweetheart」や「The Very Thought of You」と同じくメロディの美しさは類を見ない。レパートリーにしているチェット・ベイカーやビル・エヴァンスの例を挙げるまでもなく、繊細であることがこの曲を歌ったり演奏する条件になっている。ミッチェルがじっくりとテーマを歌い上げ、ティモンズのソロに引き継がれるのだが、玉を転がすようなシングルトーンで美を構築していく。まるで別人だ。

 ティモンズは参加したメッセンジャーズやキャノンボールのコンボでそのファンキーな才能を開花させたのは疑いないし、リフを重ねて次第に盛り上がっていきクライマックスに達するソロは「俗っぽい」という批判もあるが、同時にそれはジャズの醍醐味ともいえる。繊細なピアノを下敷きにこのスタイルが成り立っているのを聴き取れるなら、そのファンキーは良い「匂い」かもしれない。
コメント (6)
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