デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジェーン・ラッセルのファイン&ダンディではなかったハワード・ヒューズ

2011-12-11 08:49:28 | Weblog
 かつて「地球上の富の半分を持つ男」と評された映画プロデューサーのハワード・ヒューズは、新人女優を発掘し、名女優にまで育て上げる手腕がハリウッド一といわれた。目の付け所は演技力ではなく、胸の大きな女性というから今では死語に近いグラマーが好みだったのだろう。ヒューズが世に出した女優に今年2月に亡くなったジェーン・ラッセルがいる。咄嗟に顔が思い浮かばない方は、マリリン・モンローと共演した映画「紳士は金髪がお好き」のワンシーンを思い出してみよう。

 この映画ではその後アメリカの女神的存在になるモンローの陰になり目立たないが、目を見張るような豊かな胸とスラリと伸びた長い足、芸術とさえ思わせる美しいくびれはモンロー以上に魅力があった。出演料はモンローの10倍だったというから当時の人気がうかがえる。銀幕デビューは43年の映画「ならず者」で、胸元が肌蹴たうえスカートが太ももまで捲れ上がり、銃を片手に妖しい目で横たわる宣伝ポスターは、当時刺激が強いと物議を醸したそうだ。モンローと並びセックス・シンボル的存在だったラッセルは、戦時中に兵舎のいたるところに写真が貼られるほど米兵を虜にしたという。

 そのラッセルがMGMに残した唯一のアルバムが「Jane Russell」で、ビリー・メイとジョー・ロトンディの編曲指揮によるオーケストラをバックに有名スタンダードを歌っている。女優らしく発音がクリアで声も高からず低からずで聴きやすいし、容姿を思わせるほんのりとした色気も香り立つ。ラジオ・ショウの専属歌手として出演した経歴の持ち主だけに歌唱も女優の余技に終わっていない。トップに選ばれた曲はケイ・スウィフトが作曲し、夫君のポール・ジェイムスが作詞した「ファイン・アンド・ダンディ」で、リズミカルな前奏に続き、これまたリズム軽やかに歌いだす「Gee, it's all fine and dandy・・・」だけでグッとくる。

 妖艶な女優というとハリウッドにありがちなスキャンダルに結びつくが、意外にも身持ちは堅く、浮いた噂がなかった。女性を口説くのを日課にしていたヒューズが手を出そうとしたときも一喝したそうだが、「fine and dandy」とでも言ったのだろうか。「fine and dandy」は、「まことにけっこう」というような意味だが、皮肉を込めて使われるという。恩や権力をかざしてベッドに運ぼうとはとてもダンディに見えないヒューズである。

コメント (15)
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